無自覚を自覚させるための方略
2014/02/21 00:01:00 |
普段の診療より |
コメント:12件
先日、とある認知症患者さんを診察していました。
その方は70代女性で小太りで、いつも眠たそうにされている方でした。
糖質の摂りすぎは肥満、睡眠障害、認知症のいずれにも関連します。私の目でみるとこの患者さんは明らかに糖質の摂り過ぎです。
そこでいつものように「白米茶碗一杯(150g)=角砂糖17個分の糖質」の画像をお見せして、糖質の害を説明していたところ、その患者さんの御家族の方がこう言いました。
「そんなにたくさんはごはん食べていませんよ。」
……見た目、立ち居振る舞いはどう見ても糖質過剰です。
要するにこの患者さんもご家族も、糖質過剰であることに「無自覚」なのだと思います。 その言葉を容易に信じられない私は、
「では、パンを食べていたりしませんか?」
と尋ねると、
「パンは8枚切りのものを1枚だけ食べています。間食はしているかもしれませんけどね。」
と答えられます。
本当にそのように炭水化物の少ない食事をしているかどうかの真偽は別として、
私がここで問題だと思うことは、「炭水化物には非常に多くの糖質が含まれている」という事を説明した直後にこのような反応をされるということです。
以下の画像を見せて、炭水化物の害を説明する時に、患者さんは大きく二通りの反応を示します。

①「ええっ!そんなに糖分が入っているんですか!?」と驚きの反応を見せる
②「へぇ・・・、そうなんですか。」と淡々と受け止める
統計的な解析をしたわけではないので、あくまで印象ですが、①2~3割、②7~8割、といった感じです。
そして①の反応を示したは次の診察までに食事パターンを変えて下さる方が割と多いですが、
②の反応を示す人は、待てど暮らせど決して食生活は変わりません。
冒頭の患者さんと御家族はその典型例です。
「炭水化物には思いのほか糖質が多い」という事が知らされれば、
「普段食べているごはんやパンの量を減らさなければ」と思うのが通常の思考過程だと思います。
ところがこの御家族は、
「炭水化物には思いのほか糖質が多い」
⇒「自分達はそんなに炭水化物は食べていない」
⇒「太っているのは間食を食べ過ぎているせいである」
という思考過程になってしまっているように思えます。
つまり私が与えた「炭水化物には糖質が非常に多い」という新事実を全く受け入れず、
「太っているのは間食を摂りすぎているせいである」という従来の常識で私の言葉を処理してしまっているのです。
だから上の写真を見せても全く驚かないのだと思います。
認知症の患者さんはともかく、御家族の方に炭水化物の害が伝わらないのは、決して理解力の問題ではないということも重要です。
要するに、これこそが「変わらない脳」というものなのだと思います。
私は「変わらない脳」に対して一所懸命に働きかける事は時間の無駄だと悟りました。
無自覚を自覚させるための努力はこれからも怠りませんが、
自分が疲弊しきってしまっては元も子もありません.
あくまで「変われる脳」へ働きかけていくために,
あえて深入りしないというのも方略の一つです.
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
より良い人生を生きるために・・
要するに、これこそが「変わらない脳」というものなのだと思います。
● シビアな言い方になりますが、本人も家族方も、「現状を何とか良くしたい」「残りの人生を少しでも健康を保って(回復して)行きたい」という意欲が余りないのではないでしょうか・・・
「理解力」がないというよりは、より良い人生を生きたいという目的意識が余りないのでしょうね。
口では、常識的に「良くなりたい・・」と言っても、真剣に心の底からそう思い、「残りの人生でやりたいことがある」と考えていないのではないでしょうか・・
患者さんを傷つけるつもりはありませんが
私は、元ケースワーカーですが、育った環境が同じようでも、恵まれないこども時代を過ごしても、明るく希望を持って生きる人・漫然と生きる人・劣悪な生活環境で人生を不幸せにしてしまう人の、3とおりに分かれます。
「希望」をもって生きる方は、1・2割でしょうか・・
多数の人が、『希望』を持って、「より良い人生」「より良い社会」を求めて努力すれば、世の中は変るのに・・と思います。
>私は「変わらない脳」に対して一所懸命に働きかける事は時間の無駄だと悟りました。
無自覚を自覚させるための努力はこれからも怠りませんが、自分が疲弊しきってしまっては元も子もありません.
● 人の生き方の『永遠のテーマ(課題)』ですね。
己の道を行き、人をして語るにまかせよ・・
私は、オードリー・ヘップバーンが大好きです。
彼女が充分に幸せだったかどうか分かりませんが、晩年、アフリカでボランティア活動をしている時の笑顔が素敵です。
☆ オードリーの写真です 素敵でしょう・・
↓
http://www.google.co.jp/images?hl=ja&q=%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%98%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%B3&gbv=2&sa=X&oi=image_result_group&ei=n2wGU4_QIIjNkwXPx4CoBA&ved=0CCgQsAQ
彼女が亡くなって、21年になります。
原爆の詩の朗読をしている、吉永小百合さんも素敵です。
**************************
たがしゅう先生
仕事柄、ストレスがかなり溜まることと思います。
私は、音楽とサイクリングが趣味です。
ビートルズ・サイモン&ガーファンクル・中嶋みゆき などなど
疲れたときは息抜きをして、素敵な「町のお医者さん」になってください。
いえ、すでにもう素敵な若先生ですよ!
長くなりましたが、最後に、相田みつをさんの言葉を
なやみはつきねんだなあ
生きているんだもの
あんなにしてやったのに
『のに』がつくと ぐちが出る
ただいるだけで
あなたがそこに ただいるだけで
その場の空気が あたたかくなる
あなたがそこに ただいるだけで
みんなのこころが やすらぐ
そんなあなたに わたしもなりたい
めぐりあい
あなたにめぐりあえてほんとうによかった
ひとりでもいい
こころからそういってくれる ひとがあれば
No title
Re: より良い人生を生きるために・・
心温まるコメントを頂き有難うございます.
> 多数の人が、『希望』を持って、「より良い人生」「より良い社会」を求めて努力すれば、世の中は変るのに・・と思います。
理想と現実の狭間で悩み続けますね.
笑っている姿には癒されます.人にはそれを求め,それができない自分がいる.矛盾する自分にまた悩む.
世の中とはそういうものなのでしょうか.
> 「あなたにめぐりあえてほんとうによかった」
良い言葉ですね.
この言葉を求めて,それでも理想を追い続けたいと思います.
Re: No title
コメントを頂き有難うございます.
> 組織の変化は2割変われば劇的に変化していく法則があります。
勇気づけられます.今できる事を着実に続けていきたいと思います.
糖質と認知症
非糖尿人ですがスーパー糖質制限を始めて2年が経過しました。
私は介護施設に勤務しています。糖質制限を勉強して最近気づいたこと。
最近入所された利用者さん。
怒り易く他者の細かいことが気になり加えて暴言暴力が出ることも。
こちらからのお声かけで更に態度は悪化、支援もままならない状況です。
そういう時はお菓子や甘い飲み物を摂って頂いて気持ちを静めて貰います。
入職時は普通だと感じていましたし他に方法が無いと思っていました。
ですが、糖質制限を勉強してからは疑問を感じるようになりました。
その利用者さん、朝一番起きたら不機嫌な日が圧倒的に多い。
朝食を済ませると気分が落ち着いて部屋に戻り横になる。
しばらくすると起きて来て10時の間食。
昼食後横になると1時間程して起きてきたらまた不機嫌。
3時の間食を済ませたら三度部屋に戻り昼寝の続き。
夕食後就寝すると1時間から2時間程して目を覚まし不機嫌に。
夜眠って貰うためにリスパダールを内服して朝までぐっすり。
そしてまた不機嫌な朝がくる。この繰り返しです。
血糖値との関係性、大いにあるのではと素人ながらに思います。
No title
大衆は、「昔からこうしている」「親からこう習った」「この料理を食べられないくらいなら死んだ方がマシ」と考えて生きています。
理屈から説明することが一つ必要ですが、「この食材を何グラム」と具体的にレシピを提示する工夫が必要かと思います。
縦隔気腫ですが
お手数ですがご回答下さい。よろしくお願いたします。
Re: 糖質と認知症
コメント頂き有難うございます.
ラックマンさんの見た光景そのものが,糖質の害をよく物語っているように私には思えます.
重度の糖質依存状態の方は,糖質を摂取すると多幸感を生じ落ち着きますが,すぐに糖質が切れてイライラして次の糖質を欲して不機嫌になる,それを繰り返している構図なのではないかと思います.
2013年9月9日(月)の本ブログ記事
「依存症」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-11.html
も御参照下さい.
Re: No title
コメント頂き有難うございます.
> 「昔からこうしている」
> 「親からこう習った」
> 「この料理を食べられないくらいなら死んだ方がマシ」
臨床をしていて同様の言葉をよく聞きます.
そのように言う人へ理屈で説明しても理解してもらうのはなかなか至難の業です.
できるだけ多くの人へ伝えたいですが,ある程度見切りをつける事も時には重要であるように思います.
Re: 縦隔気腫ですが
御質問頂き有難うございます.また突然の御病気お察し申し上げます.
気胸や縦隔気腫はbarotrauma(気圧性外傷)とも呼ばれ,急激に胸の圧が高まるような現象(咳,大声,気圧変化など)によって引き起こされます.
おそらく咳の激しい風邪だったのではないでしょうか.肺の耐久力と外部圧力の差によって起こるものであり,個人的には糖質制限は関係ないと思います.
ご回答頂きありがとうございます
しばらく安静にします。
ところで、糖質を摂りたくないので糖質制限食をお願いしますと伝えたところ、糖質制限って何ですか?って感じでした。なのでご飯を少なくしてくださいと伝えときました。が、夕食に出されたのはさつまいも煮とあんかけ豆腐って…メロンも
カロリーやタンパク量を記載するなら糖質量も書こうよって思いました!
Re: ご回答頂きありがとうございます
コメント頂き有難うございます.
糖質制限の存在すら知らない医療関係者もまだまだ多いですね.そのような現状で入院した場合は自分で自分の身を守るしかありません.
大変かとは存じますが,どうかお大事にされて下さい.
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