なぜ糖質制限でアレルギーが良くなるか

2017/05/09 00:00:01 | 素朴な疑問 | コメント:5件

糖質制限でアレルギー性疾患が改善する事も経験的によく知られています。

一方でアレルギーには様々なタイプがあり病態も複雑で、

なぜ糖質制限でアレルギーが改善するかという詳しいところはまだよくわかっていないと思います。

今回は数あるアレルギーのタイプの中で、即時型アレルギーについて取り上げて

なぜ糖質制限をするとアレルギーが良くなるのかについての一端を考えてみたいと思います。

即時型アレルギーとは、食べ物を食べて数分くらいでじんま疹が出るというタイプのアレルギーで、またの名をⅠ型アレルギーとも呼ばれています。

即時型アレルギーのメカニズムは比較的よくわかっています。 まずアレルゲンと呼ばれるアレルギーの原因となる抗原が体内に入ってくると、

免疫細胞であるBリンパ球が反応し、その抗原に対応する抗体である免疫グロブリンを産生します。

その中でIgEというタイプの免疫グロブリンがアレルゲンと結合します。

一方で肥満細胞(=マスト細胞)や好塩基球と呼ばれるタイプの白血球に表面にはIgE受容体というものがあります。

アレルゲン付きのIgE抗体とIgE受容体とが結合すれば、それを受け肥満細胞や好塩基球は中に蓄えているヒスタミンやセロトニンなどの生理活性物質を放出します。

このうちヒスタミンに血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用がある事がわかっていて、アレルギーの病態形成に深く関わっています。

実際抗ヒスタミン薬はアレルギー反応を抑える薬として日常診療で頻繁に用いられています。

こう書くとヒスタミンは悪者のイメージですが、ヒスタミンは何も悪さをするために身体の中に存在しているわけではありません。

アレルギー反応自体も、痛みと同様に身体への警告反応と捉える事ができますし、

またヒスタミンは神経組織において覚醒物質としての作用もあります。抗ヒスタミン薬の有名な副作用は眠気だというのもその辺りに由来します。

ちなみにヒスタミンを放出する肥満細胞は、肥満と名が付いていますが、いわゆる太っている肥満とは関係なく、ヒスタミン放出前の膨れた様が肥満を想起させることからついた名前だそうです。

このヒスタミンに注目して糖質摂取との関わりを調べていたところ、次のような資料に突き当たりました。

高グルコース存在下で培養されたマスト細胞はFcεRIを介した活性化が増強する
北畑 裕子、布施聡、照井正、羅智靖
日本大学大学院医学研究科先端医学系分子細胞免疫アレルギー学分野:日本大学医学部皮膚科
アレルギー 57(9-10), 1459, 2008
第58回日本アレルギー学会秋季学術大会


(以下、抄録より引用)

マスト細胞は種々のケミカルメディエーターやサイトカインを産生し,アレルギー性炎症の病態に深く関与している。

In vitro(試験管内)の実験で.グルコースを除去するとマスト細胞によるヒスタミンやLTC4(=ロイコトリエンC4;炎症誘導物質)の産生が減少することが知られているが,高グルコース負荷の影響は報告されていない。

我々はFcεRⅠ刺激によって誘導されるマスト細胞の活性化に,グルコース負荷がどのような影響を与えるか検討した。

方法:BMMC(=骨髄由来培養マスト細胞モデル)をhigh glucose(HG)(600 mg/dl)normal glucose (NG)(100mg/dl) の条件下で7日間培養した。

浸透圧コントロールとして,マンニトールを(500mg/dl/) を NG(100mg/dl)に加えた。7日日培養したBMMCをIgEで感作し,抗原刺激した。

結果:HG負荷では脱顆粒とLTC4産生の増加が認められた。一方,細胞分裂・増殖,細胞表面のFcεRIの発現量はHGとNGで差はなかった。

またHG負荷でATP産生量にも差が無いため,ATPを合成する解糖系とは異なる経路で生じる代謝産物が,脱顆粒とLTC4産生を亢進させている可能性が考えられた。

実際に代謝産物のメチルグリオキサールの産生を抑えるア ミノグアニジンの添加により,HG負荷によって増強された脱顆粒とLTC4の産生が阻害された。

(引用、ここまで)



この資料によればアレルギー反応の元になる肥満細胞の脱顆粒によるヒスタミンなどの放出は、

少なくとも試験管内の実験ではグルコースがなければ抑制され、高グルコース下において誘導が助長されるということのようです。

ただそれだと糖質を摂取すると眠くなるというよく観察される現象が逆に説明しにくくなるようにも思います。

糖質を摂取し高グルコースになれば、覚醒物質であるヒスタミンが出されて、逆に目が冴えそうなものです。

しかしくよく読めばヒスタミンを放出させているのはグルコースそのものではなく、解糖系の経路とは別で産生されるメチルグリオキサールなどの代謝産物の方であるようです。

メチルグリオキサールと言えば、AGEs(終末糖化産物)の産生過程で生じる中間代謝産物です。

ということは単回の高グルコースではヒスタミン放出は促進されないけれど、何度も高グルコース状態をくり返し、蓄積させていく事で内因性のAGEs産生が高まればヒスタミンが放出されやすくなるという事なのかもしれません

そして単回の高グルコースを繰り返している段階の眠気は、以前に考察した別のメカニズムで眠たくなると考えればどうでしょうか。

そう考えれば最初は眠気を誘導していた糖質摂取が、いつの間にか不眠の原因となってしまう理由にも説明がつきます。

また別の視方をすれば、高グルコース状態が筋肉やインスリンなどで速やかに処理できない人は、早めにAGEsが作られて、アレルギー性の病態を起こしやすくなるということなのかもしれません。

筋肉量が少なくてインスリン分泌能が低い人と言えばやせ体質の人です。

これだと、「やせている人にアレルギー性の病態が多い」という日常診療での私の印象とも合致するように思います。

あくまで私の頭の中での仮説ですが、いかがでしょうか。


たがしゅう
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コメント

MRI拡散強調画像

2017/05/14(日) 14:03:16 | URL | テラエコロジー #-
糖質制限でアレルギーが良くなるのは「穀物アレルギー」の除去食にもなるからだとも考えられるのですが。。。


たがしゅう先生の御意見をお聞きしたく書き込みます。

録画しておいたNHKのドクターGの下の番組を先ほどまで見ていて気が付いたのですが、、

http://www4.nhk.or.jp/doctorg/x/2017-05-10/21/1877/2279112/

脳検査のMRIで脳腫瘍や脳梗塞の部位以外に画像の処理方法を変えれば、「浮腫」や「炎症」の部分を見ることができると解説されていました。

拡散強調画像(DWI)
https://radiographica.com/mri-dwi/

ドクターGの症例は全身性エリテマトーデスが正しい診断でした。植西医師は脳梗塞を映した画像と炎症と浮腫との画像の違いから、全く同じような症状を起こす別の病気と区別することができていました。

前に頭痛・脳浮腫で説明したことがありますが、アレルギーによる症状で浮腫と脳の炎症は特徴的なことなのです。最強最悪の場合アナフィラキシーショックの脳浮腫がその証明です。

それがMRIの処理方法を拡散強調画像にするだけで見ることができるのなら脳アレルギーを起こしている精神疾患や発達障害の大人や子供の脳のアレルギー性浮腫・炎症を診断できると思ったのですが、たがしゅう先生はどう考えられますか。

Re: MRI拡散強調画像

2017/05/14(日) 14:43:34 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
テラエコロジー さん

 御質問頂き有難うございます。

> MRIの処理方法を拡散強調画像にするだけで見ることができるのなら脳アレルギーを起こしている精神疾患や発達障害の大人や子供の脳のアレルギー性浮腫・炎症を診断できると思ったのですが、たがしゅう先生はどう考えられますか。

 確かにMRIの拡散強調画像は病因に関わらず、浮腫や炎症を捉える事ができる撮像方法です。
 また格別特殊な方法というわけではなく、一般的な総合病院のMRIであればほぼルーチン的に撮影されることが多いと思います。

 ただ拡散強調画像で捉えられるのは、ある程度顕在化しているレベルの浮腫・炎症です。
 それこそ意識障害や神経所見の症状が出るような程度の強さであれば捉える事ができますが、精神疾患、発達障害、アレルギーのような微細な炎症が想定されているような病態でそれを画像的に捉えるのはなかなか難しいのではないかと思います。

 しかし見えないからと言って、方法がないわけではありません。
 見えない部分も想像しながら、不要な浮腫・炎症を抑えていく方法の基本として糖質制限は有効なアプローチとなりうると思います。

 2016年6月22日(水)の本ブログ記事
 「想像力を働かせて診療に当たるべき」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-702.html
 も御参照下さい。

Re: Re:MRI拡散強調画像

2017/05/14(日) 22:16:20 | URL | テラエコロジー #-
たがしゅう先生 早速のご回答有難うございます。

>それこそ意識障害や神経所見の症状が出るような程度の強さであれば捉える事ができますが、

発達障害では幼児でも頭痛がある子供が多いです。子宮頸がんワクチンの副反応ではハンマーで殴られるようなと表現される強烈な頭痛も現れております。特に頭痛タイプには顕著な浮腫の映像が見られるのではないかと予想しております。

化学物質過敏症においては「近赤外線

メニエールについての御指摘有難うございます。

同じ耳内部の浮腫に関係していると考えられるのが滲出性中耳炎です。発達障害の子供には併発することが多く、チューブを通す手術を受ける子供も多いです。知られていないことですがその一方、食物アレルギーでそれが起こることを昔から主張する医師の一派がおられます。既に抗原の傾向までも分かっています。黄色い耳だれは「小麦」、化膿性の耳だれは「卵」の傾向が強いそうです。

このことが躁鬱病の私の弟に当てはまるとは考えてもいませんでした。躁のときにビールやウィスキーを飲んで暴れては騒動を起こす弟はなぜか大音量でステレオやラジカセを鳴らしていました。

それを知るまでは長い年月がかかりました。あるとき騒動を起こした現場に早朝駆けつけたときに、電話して通報してくれたある人が、大音量でラジカセを鳴らす弟さんは耳が聞こえないんじゃないですかと言ったのを今でも憶えています。その頃は河野泉医師の存在を知りませんでした。耳だれの原因食物を教えてくれた先生です。

その後同じ状態で事件を起こした後に耳を見たら黄色い耳だれの跡がありました。

時間的には同じ時系列にはないのですが 「凄い」のひとことです。

河野泉先生が追って来た臨床環境医学はアルバート・ロウ医師が発見し、セロン・G・ランドルフ医師が発展させた医学の新しい地平線です。その名残がハーバート大学にあります。

http://oasis.lib.harvard.edu/oasis/deliver/~med00062

どうかそれを学ばれて私たちを救ってください。

ケトン食には食物抗原の特定が前提

2017/05/15(月) 08:32:08 | URL | テラエコロジー #-
今日は廻り休みなので朝から投稿いたします。次の語句が削除し忘れていました。長くなるのでカットしようとしたのですが。

『化学物質過敏症においては「近赤外線 』

化学物質過敏症の診断では近赤外線酸素モニターが検査で使用され脳の血流量の変化から診断が行われています。これもやはり脳に浮腫や炎症が起きている証拠なのです。

私が字幕を入れている食物アレルギーと化学物質過敏症の説明ビデオEnvironmentally Sick Schoolsの後半には患者に脳の血流量が低下している映像が出てきます。

Doris Rapp Environmentally Sick Schools
https://www.youtube.com/watch?v=8NlSw-XisIo
字幕を付けました。ダウンロードできます。
http://yahoo.jp/box/5jV1NT

ところで、CFGFもそうですが発信源が分子整合栄養医学のいい加減な医師からなのか、食物アレルギーを無視した食事療法が横行し始めたのには危機感を持っています。

 ケトン食も同様です。穀物や砂糖類を抜きますから畢竟タンパク質が増えるはずです。タンパク質の未消化のペプチドがアレルゲンですから多人数のケトン食を行う内に強いアレルゲンの肉や卵を食べてしまって強烈なアナフィラキシーショックに見舞われる患者も出てくると考えられいます。断食道場で死者がでたのもそれが原因でしょう。食物アレルギーを100%近く判定できるのは5日間除去したうえでの負荷試験しかないのです。残念ながらIgG検査もIgA検査も完全ではありません。IgG検査は判定率50%と環境医学の医師のうちでは言われています。

野菜にしても仮性アレルゲンの問題があります。このビデオで最初に反応を起こしているネッド少年はトマトの負荷試験です。トマトにはヒスタミンが多く含まれて過敏な人には反応を起こすのです。

Dr. Doris Rapp - Children's Allergies to Food & Environment
https://www.youtube.com/watch?v=fRDpcWZUEiU&feature=PlayList&p=FC338CD0041015CA&index=0&playnext=1

仮性アレルゲン及びアレルギー誘発食品(角田和彦医師監修)
http://www.hajime-net.jp/Dr-Kakuta/allergy_seikatu/04/kasei-allerugen.html

環境医学の食物アレルギー情報を採用すればケトン食は最強の治療法になると思われます。

Re: ケトン食には食物抗原の特定が前提

2017/05/15(月) 11:07:19 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
テラエコロジー さん

 コメント頂き有難うございます。

 テラエコロジーさんが臨床環境医学の恩恵を受けられ改善した事実、
 セロン・G・ランドルフ医師が素晴らしい業績を残しているという事で、臨床環境医学を勧められるお気持ちは理解できます。
 
 私は現時点で臨床環境医学について全くの素人ですので、今後学んでいく必要性はあるとは思いますが、
 一方で、テラエコロジーさんはこの学問を盲信しすぎて、御意見に少しバイアスがかかっている印象を受けます。

> タンパク質の未消化のペプチドがアレルゲンですから多人数のケトン食を行う内に強いアレルゲンの肉や卵を食べてしまって強烈なアナフィラキシーショックに見舞われる患者も出てくると考えられいます。断食道場で死者がでたのもそれが原因でしょう。食物アレルギーを100%近く判定できるのは5日間除去したうえでの負荷試験しかないのです。残念ながらIgG検査もIgA検査も完全ではありません。IgG検査は判定率50%と環境医学の医師のうちでは言われています。
> 野菜にしても仮性アレルゲンの問題があります。このビデオで最初に反応を起こしているネッド少年はトマトの負荷試験です。トマトにはヒスタミンが多く含まれて過敏な人には反応を起こすのです。


 ちょっと決めつけの発言が多いと思います。
 断食道場の死者の原因がそれとは限らないでしょうし、
 すべては食物アレルギーの原因がアレルゲンであるという事を前提とした上での理論です。

 私は食物アレルギーにおけるアレルゲンは原因というよりもあくまできっかけに過ぎず、本質的な原因は目の前にあるタンパク質に異常免疫応答をきたす代謝障害にあると思っています。

 2014年6月16日(月)の本ブログ記事
 「アレルギーの原因は糖質にあり」
 http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-305.html
 も御参照下さい。

 ケトン食においてたとえ肉や卵の量が増えたとしても、ケトン体による抗炎症作用や免疫調節作用が十分に働いていれば、肉や卵をアレルゲンとして異常免疫応答は起こさないという事です。実際ケトン食を集中的に行っている小児科チームから肉や卵のアレルギー反応が頻発するという話は全く聞きません。

 ある物質がアレルゲンである場合、それを除去すればアレルギー反応を回避する事ができるというのは紛れもない事実でしょう。しかしこの場合、アレルギンは言ってみれば罪をなすりつけられた偽の犯人であって、真犯人は身体の中で起こっている異常免疫反応の方だと現時点で私は考えています。

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