肉を食べて調子悪い時の落とし穴

2017/05/10 00:00:01 | お勉強 | コメント:0件

医師向けの情報誌「ドクターズマガジン」を何気なく読んでいたら、

「Dr.井村のクリニカルパール」というコーナーが目に入りました。

それは飯塚病院総合診療科部長の井村洋先生監修で、

日常診療で知っておくと役に立つ知識を漫画でわかりやすく紹介するというコーナーでした。

2017年2月号のコーナーで紹介されていたのは、

肉を食べると頭痛がひどくなる25歳女性」の症例でした。

(以下、引用)

年齢:25歳 女性

【主訴】頭痛、嘔吐

【既往歴】職業OL、飲酒なし、喫煙なし

【現病歴】中学の頃から、頭痛が続いていた。

特に肉を食べると頭痛や吐き気があったので、極力避けるようにしていた。

頭痛と嘔気は同じタイミングで起こっていたので偏頭痛だと思っていたが、特に薬を飲んだことはなかった。

就職して食事のパーティーに招かれて、久しぶりに肉を多めに食べたら、頭痛が強くなり嘔吐を繰り返したために受診。

【バイタルサイン】意識 やや混濁があり。
血圧120/70mmHg、脈拍120/分、体温36.0℃、呼吸22/min
【身体所見】特に異常はなく、神経の麻痺の所見はなし。

(引用、ここまで)



この症例、年齢、性別、症状で考えれば典型的な片頭痛であり、

片頭痛と糖質摂取が関係することは文献的にも経験的にもよくわかっています。

ところがこの患者さんは糖質量がほぼゼロに近い肉によって片頭痛様発作が誘発されているというのです。

もし私が実際にこの患者さんを診たら、実は肉と一緒に食べている糖質主体の食品が原因だと考えて、

肉と一緒に食べたであろう食品を根ほり葉ほり聞いてしまっていたであろうと思います。

しかしこの患者さんは本当に肉しか食べていなくて、片頭痛様発作が誘発されているという状況なのです。

それに肉だけで痛みが出るという話が疑わしかったとしても、肉を食べた後に意識が少し低下するという現象は流石に普通ではありません。

いったいどういう事なのか気になってページをめくり物語を読み進めていくと、意外な結果が書かれていました。


担当医の先生は、肉という高タンパク食品で症状が誘発されることから、尿素サイクルに異常がある可能性を考え、血液検査でアンモニアの測定を行いました。

その結果、アンモニアは異常高値であり、最終的に診断はOTC欠損症(オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症)という先天性尿素代謝異常症でした。

先天性尿素代謝異常症は日本で約5万人出生あたり1人の頻度とされ、OTC欠損症はその中でも最も頻度が高く、約4万~8万出生に1人の有病率とされている厚生労働省の指定難病です。

先天性というのなら小児の時点で発見されそうなものですが、遺伝的な影響がモザイクに表出しOTC活性低下の個人差が大きいために成人になって初めて発見されるパターンもあるのだそうです。

尿素サイクルというのはタンパク質を処理し、最終的に尿素に変えて尿へと排出させる時に働く代謝経路です。

ここに異常がある場合、タンパク質がうまく代謝されず、代謝の途中過程で産生されるアンモニアが解毒できないため、アンモニアが高値となります。

アンモニアが高くなると意識障害だけでなく、痙攣、脳症、脳浮腫などにも発展し、命に関わることもあるため、迅速な治療が求められます。

この急性期治療にはグルコースの大量点滴が行われます。なぜならばタンパク質が産生される異化亢進状態を阻止するためです。

グルコースが投与されればインスリンが分泌されるので、これにより代謝を同化に向かわせるということだと思います。

それ以外に食事指導としてタンパク質制限、十分なカロリーの補充、アルギニン、安息香酸ナ トリウム・フェニル酪酸、L-カルニチン、ラクツロースの内服、その他血液浄化療法に、一部では肝移植がなされることもあるそうです。

このOTC欠損症、蛋白を制限し十分なカロリーを確保する目的であれば脂質を利用すればいいので、糖質制限の直接的な禁忌には当たらないのではないかと思いますが、

しかし糖質制限指導後、多くは高タンパク質・高脂質を指導する事が多いので、その指導が病態を悪化させうるため相対的禁忌には該当しそうです。

もしも肉を食べて体調が悪いと患者さんが訴えればその言葉をきちんと受け止めて、

必要に応じてアンモニア測定をしなければならない
という事で、

非常に勉強になりました。


たがしゅう
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