プリン体摂取は本当に制限すべきか

2017/12/29 00:00:01 | 素朴な疑問 | コメント:2件

とある会社の高尿酸血症・痛風の食事療法パンフレットに、

高尿酸血症・痛風にならないようにするため、「プリン体のとりすぎに注意しましょう」との文言が書かれていました。

このプリン体摂取制限、私は実感として到底信用に値しないと思っています。

なぜならば私はプリン体が豊富に含まれる肉、魚をしっかり食べていても尿酸値は基準値内ですし、

8日間絶食の際に私の尿酸値は一時的に14mg/dLまで大きく上昇しましたが、痛風発作は出ませんでした。

プリン体を摂取していなくても尿酸が上がる時には上がるし、尿酸が上がったからといって必ずしも痛風発作は出ないという事です。

それなのに高尿酸血症・痛風の食事療法として「プリン体のとりすぎに注意しましょう」というのが金科玉条のごとく言われています。 これは一般的にも非常に広く浸透した指導内容だと思いますが、はたしてその信ぴょう性はいかほどなのでしょうか。

そう思っていわゆるエビデンスについて調べてみましたところ、

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版」というネットにあった資料にそれについての記載がありました。

これによりますと「生活指導」の項目に、

「食事療法としては適切なエネルギー摂取、プリン体、果糖の過剰摂取制限、十分な飲水が勧められる」

との記載があり、根拠となるエビデンスのレベルが一番信頼できる「1a(ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスがあるか、複数のRCTの結果がほぼ一致している)」から信頼度の乏しい「5(専門家の報告・意見・経験に基づく)」までで判定されるのですが、

この生活指導内容のエビデンスレベルは「2b(よくデザインされた準実験的研究がある。後ろ向きコホート研究がある。)」となっています。

その中でプリン体に関する研究だけに着目して詳しい内容についてさらに掘り下げてみますと、

まず「健常者に,プリン体として酵母由来のリボ核酸(RNA)を1日に4g,数日間摂取させると,血清尿酸値は2〜3mg/dL上昇し,高尿酸血症を呈する」(Yü TF, Berger L: Impaired renal function gout; Its association with hypertensive vascular disease and intrinsic renal disease. Am J Med 72: 95-100,1982 )という研究があります。

これのエビデンスレベルは「3(よくデザインされた非実験的記述研究がある。ケースコントロールを含む)」となっています。

一方で、「厳格なプリン体摂取の制限を行っても血清尿酸値の低下はわずかであるとの報告もある」(Seegmiller JE, Grayzel AI, Laster L, et al: Uric acid production in gout. J Clin Invest 40: 1304-1314,1961)という研究もあります。エビデンス「2b」ですが随分古い研究です。

「症例によっては食事のプリン体を制限することで血清尿酸値の著明な低下が認められることもある」という研究もあります(Emmerson BT: Identification of the causes of persistent hyperuricaemia. Lancet 337: 1461-1463,1991)。エビデンスレベルは「3」です。

このようにエビデンスレベルはいまいちぱっとしない状況の中、それとは別にコンセンサスレベルというのが1~7までの7段階評価で存在して、この生活指導のコンセンサスレベルはなぜか一番高い評価の「1」となっていました。

つまり誤解を恐れずに言えば、それほど強い根拠はないけれど、常識的に考えてやっておいてまず間違いはないでしょうという感じの推奨になっているということです。なんだかいい加減な感じがしませんか。

そういえば、糖尿病の標準的食事療法としてのエネルギー制限に関しても同じような構図がありましたね。エビデンスいまいちなのにコンセンサスが最高という構図が。

それくらいの感じの推奨となっているにも関わらず、多くの一般人にとって、あるいは医師でさえも高尿酸血症・痛風の治療と言え
ばプリン体を制限する指導は常識的な扱いとなっているのではないでしょうか。

人間というのはエビデンスとか言って中立的な立場を保とうとしていても、

結局は「尿酸の原料となるプリン体を摂取していれば、まず間違いなく尿酸値は高くなるであろう」という固定観念に縛られてしまう生き物なのかもしれません。

まさに「コレステロール値を上げないように卵は1日1個まで」という誤った情報による長年の呪縛(あるいは今でも呪縛に捉われているひとが多いかもしれませんが)と同じ過ちがここでも繰り返されているように私は思います。


そもそも食事指導のエビデンスというのは出しにくいということも知っておいて損はないかもしれません。

ある食事療法の有効性を判断するのに研究ベースで一定の食事を10年~20年レベルで継続する事にどれだけの信ぴょう性と妥当性があるかという事を想像してみただけでもわかると思いますし、

加えて食事内容の調査方法は対象が大集団になればなるほど、自記式アンケート方式を採用するしかなくなりますが、アンケートで実際にした食事内容を把握するのにも信ぴょう性に限界があります。

信ぴょう性が少ないデータ×信ぴょう性が少ない調査方法」という組み合わせになるので、出てきた結論は言わずもがなということになってしまいがちなのです。

従って、食事療法の妥当性を考えるには理論と実践を繰り返すアプローチの方が信用性が高いと私は考えています。

どこかの誰かさんが出した信ぴょう性の低いエビデンスをあてにするのではなく、

まさに自分自身が仮説を立てて、自分自身で実験してみるというアプローチです。

具体的には肉だけ食べて尿酸は上がるのか、体調はどうなるのかなど自分でやってみて自分の変化をしっかり観察することです。

それで尿酸が下がり、体調も良くなるのであれば、少なくとも自分の中ではプリン体の過剰摂取は必ずしも高尿酸血症へつながらないという確固たる「根拠」となるのではないでしょうか。

それはまさに全国の糖質制限実践者の皆さんも日々取り組んでいる内容だと思います。



たがしゅう
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コメント

2017/12/29(金) 07:28:54 | URL | 瀬川里香 #-
尿酸値が上がれば、プリン体の食事を気をつけないといけないって勝手なイメージなんですね。
ビールとかも、プリン体0のビールとかもあるし、プリン体に気をつけないといけないって勝手な思い込みをしてしまいがちです。
尿酸値を下げるには食事なのかなってイメージしてましいがちです。

Re: タイトルなし

2017/12/29(金) 09:46:32 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
瀬川里香 さん

 コメント頂き有難うございます。

 2015年に健康人におけるコレステロールの摂取基準が撤廃となりましたが、
 正常な代謝が働いていることが前提であれば、人体はコレステロールやプリン体を摂取したら、それがそのまま血液中で増加するという単純な構造にはなっておらず、一定の値を維持する恒常性維持(ホメオスターシス)の機構が働いているということだと思います。

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