痛風発作と糖質制限
2017/12/30 00:00:01 |
糖質制限 |
コメント:10件
私は基本的には「十分な糖質制限をしていればプリン体を過剰摂取していても高尿酸血症にはなれど痛風発作には至らない」と考えていますが、
以前自分が診ていた患者さんで厳格なケトン食をしていて時々痛風発作が出ていたという方を知っているので、
糖質制限で絶対痛風発作が出ないとは言い切れないと思っています。
ただその患者さんはそれでも止めずに根気よくケトン食を続けられ、痛風発作の痛みの程度が次第に軽くなってきたという事をおっしゃっていました。
なので糖質制限自体が痛風に対して悪い方へ向かわせることはないのだけれど、
急激な代謝変化やエネルギー摂取不足などのプラスアルファの要因が加わった場合に痛風発作を生じうる可能性があるのではないかと現時点では考えています。 糖質制限を始めて最初の3ヵ月くらいは経験的に尿中ケトン体が出ることが知られています。
これは糖質を制限することで、脂肪からのケトン体を産生する代謝が回り、
普段ケトン体を使い慣れていなかった身体中の多くの細胞がいきなり出てきたケトン体を使いきれずに余分なケトン体が尿中へと漏出することに由来するものです。
しかし糖質制限を続けていれば、尿細管でのケトン体再吸収効率が高まり、次第にケトン体は尿中に出なくなるのが通例です。
一方で尿中にケトン体が出ている時期というのはケトン体は酸性の物質ですので、
同じく酸性の尿酸が尿中に排泄されるのを邪魔する側面があります。
またケトン食レベルの厳格な糖質制限や絶食などのケトン体が急上昇する条件となれば、
糖質制限開始から3ヵ月以上経過していても、さすがのケトン体の多さに尿細管がケトン体を再吸収しきれないために尿中にケトン体が検出されるということがあります。
これが糖質制限実践者で高尿酸血症を起こす理由の一つだと私は考えています。
従って例えば糖質制限+カロリー制限や、1日1食の糖質制限など絶食気味の糖質制限を行ったりしていると尿酸は高くなりがちということになります。
逆に言えばそれでも尿酸が高くならない人は、身体がケトン体を相当効率的に使えていることの傍証になるかもしれません。
さて、私は基本的に1日1食の糖質制限実践者ですが、
最近検診で測定した尿酸は6.8mg/dLと正常範囲のやや上限レベルでした。
ちょっと絶食したら尿酸は急上昇するという事も人体実験で把握済なので、
週に1回定期的に24時間断食を行っている私はおそらく尿酸値が基準値を超えているタイミングも結構あると思います。
にも拘わらず私が痛風の症状を自覚したことは一度もありません。
痛風とは呼んで字のごとく、「風が当たっても痛い」という程激烈な痛みなので私が痛風になっているのに気づいていないという可能性はまずないと思っています。
しかし一方で痛風発作をきたしている患者さんで関節炎を起こしている箇所で観察されているのは尿酸の塊、尿酸結晶です。
ということは尿酸が高いということは痛風発作をきたす必要条件にはどうやらなりそうだけれども、十分条件ではなさそうだという事になります。高尿酸血症にしばしばさらされている私が痛風にならないからです。
ということは尿酸が多く存在していても尿酸を結晶化させないようなシステムが正常に機能していれば痛風発作はきたさないのではないかと考えることができます。
では尿酸が結晶化するための条件というのは何なのでしょうか。
そう思って資料を調べてみると、尿酸飽和溶液に乳酸を添加しタンパク質が共存していると尿酸の結晶化が起こる事を示した論文がありました。
乳酸が溜まる状況というのは無酸素運動下や、何らかの原因でミトコンドリア機能が低下していたり、解糖系が亢進している状況などがありますが、
正しく糖質制限ができケトン体を利用できる状況にあれば、低酸素状況でも虚血に強いケトン体を使うことで解糖系を酷使しなくて済みますし、無酸素運動をしていてもある程度ケトン体でエネルギーを賄うことができます。
またタンパク質が併存していれば尿酸結晶ができやすいとのことですが、
検討されたタンパク質はアルブミンやγグロブリンなどの高分子タンパク質です。
普通痛風発作が起こる関節にある関節液中には低分子タンパク質(10kDa以下)はは存在していますが、60kDa以上あるアルブミンやγグロブリンは通常であれば存在しえません。
それが存在するとすれば外傷や炎症などが加わった場合です。
そう言えば先述の厳格なケトン食に取り組んでいた患者さんもランニングを日常的に行っていた方でした。
もしかしたら走ることが微小外傷か微小炎症の元となり、ケトン体で代謝が保護されていたにも関わらず尿酸が結晶化させるタンパク質の関節内への侵入を許してしまっていたのかもしれません。
こうした考察は「尿酸が高い=痛風発作」という固定観念から離れなければできないことです。
これらはあくまでも私の仮説に過ぎませんが、
いずれにしても、事実を元にして理論を疑う姿勢が大事だと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
私も昨年の尿酸値の検査結果は、正常範囲よりわずかに高い7.2でした。その時は少し心配しましたが、痛風の気配は全くないので忘れていました。私はウォーキングなどはしますが、関節を痛める程の運動はしないことが結果的によかったのかもしれませんね。今日は良い記事読ませていただいて、ありがとうございました。
No title
HDLコレステロール、ケトン体も過去の誤解から、
本当の原因(背景)が分かってきて、汚名返上。
プリン体、尿酸に関しても汚名返上して欲しいです。
先生の仮説はとても興味深いです。
「事実を元にして理論を疑う姿勢」
の大切さがわかります。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
従来の枠組みで捉えていると、「糖質制限とは痛風の原因となる尿酸が上昇する困った食事療法」という事になってしまうのですが、枠組み自体を変えることで見えてくる事実があると私は考えています。とりわけ原因と結果を取り違えることは往々にしてあります。世間の常識にとらわれずにこれからも考え続けていきたいと思います。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
尿酸、ケトン体、LDLコレステロールの3つは、必要があって増えているのに汚名を着せられている物質の代表格だと思います。
なぜならば、私の長時間絶食にてこれらが急上昇するという事実を観察しているからです。
事実を重視すれば、理論の間違いが見えてくることは多いのではないかと私は考えています。
慢性の高尿酸血症について
はじめまして。いつも楽しく拝読しております。
尿酸値が高くて困っていたところ、12/29、30のプリン体、尿酸値関連の記事がタイムリーな話題でしたので、質問させていただきます。
スーパー糖質制限歴1年5か月ですが、肉、魚、乳製品の摂取量が多くなったせいか尿酸値が10.1mgに上がりました。
痛風の発作は起きていませんが、主治医に本当に怖いのは腎不全や尿路結石等の合併症だと言われ、フェブリクを服用しています。
食事制限の指導はありませんでしたが、アルコールは少量に、水を多く飲むように言われました。
以下、尿酸値の時系列になります。
2015年6月7.8mg
2016年6月7.7mg
2016年8月スーパー糖質制限開始
2016年12月9.8mg(2割程上昇)
2017年6月10.1㎎(フェブリク服用開始)
2017年9月6.6mg
2017年11月5.7mg
江部先生のブログでは、糖質制限で尿酸値が上がっても徐々に正常値に戻ることが多いとのことで、1年を目途に服用中止を考えています。
1年ほどで自然に下がってくるだろうという願望と、体内に蓄積した尿酸結晶が融解するのに1年くらいかなとの考えです。(検査結果次第ですが)
尿酸については、糖質制限のようにいつか常識が覆る日が来るかもしれないと、日々妄想しております(笑)
高尿酸血症による合併症は怖いと思いますが、これは普通の食事(糖質あり)の場合を対象にしていると思うので、糖質制限をしている人にも該当するのかは疑問に思います。
ブログでは断食時に尿酸値が急騰したとありましたが、慢性的に尿酸値が高い場合の投薬、及び合併症についてはどのようにお考えでしょうか。
よろしくお願いいたします。
Re: 慢性の高尿酸血症について
御質問頂き有難うございます。
スーパー糖質制限食以上のレベルの糖質制限をすれば、尿酸値が上昇するのは必然だと思います。
なぜならばケトン体代謝が十分に回り、尿中にケトン体が移行している事の傍証と考えられるからです。
ただ慢性的に高尿酸血症をきたしている場合は、そのように合理的な尿酸上昇システムの機能が過剰適応(オーバーヒート)している可能性もあります。その場合には痛風発作という形で弊害が出る恐れがありますので、場合によっては尿酸を下げる薬剤を少量併用するのも一手と思います。
ただしその時に薬を使うかどうかの判断は、あくまでも数値ではなく体調をベースにすべきです。即ち痛風発作の症状が出ているか否かです。糖質過多を前提とした現代社会で構築された尿酸の基準値では当てにならないと私は思います。
No title
早速のご回答ありがとうございます。
痛風薬の服用は、発作が起きたかどうかを基準に判断するということですね。
すぐには決断できませんが、辞めるも続けるも自己責任だと思いますので、よく考えたいと思います。
糖質制限による尿酸値の上昇は本当に悪なのでしょうか?素人ながらに考えてみます。
糖質制限によって尿酸値が上昇するのは当然としても、糖質過多によって乱れていた体内バランスが糖質制限で整い、一時的に尿酸値が上昇しても徐々に正常値に収束するのが自然に思います。
その正常値は、糖質制限をベースにした新基準であるべきだと思うのですが、確立されていませんので発作の有無で判断するのが妥当でしょか。
尿酸は結晶化することで痛風や合併症が起こることを考えれば、高くても結晶化しなければ問題ないのではと思います。
結晶化については、たがしゅう先生のブログを参考にするとして、私の尿酸値が上昇した理由は、
①糖質制限により、体内バランスが調整途中(一時的な上昇)
→経過観察
②糖質制限により、体内バランスが調整された結果(現在が正常値)
→問題ない
③糖質制限により、免疫が強化された(①②と被りますが)
→問題ない
そもそも農耕が始まる前の狩猟・採集の生活は糖質制限食と考えられ、対立勢力や猛獣等が存在したその時代に、痛風や合併症で動けなくなることは死の危機に瀕すると想像できます。
また、現在よりも生活衛生状態が劣悪な環境で生き延びるために、抗酸化作用がある尿酸値を高く保つことにより免疫力を強化してきたと考えれば、高いことはむしろメリットになります。
尿酸値が高くなり抗酸化作用が強化された結果、人類が元来持っていたビタミンCの合成能力を失ったことは不思議ではないと考えます。
そう考えると、尿酸値上昇=免疫強化であり、むしろよいことであるように思います。
話が飛躍しましたが、たがしゅう先生から自分で考えることの重要性を学びましたので、私の考えを述べてみました。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 痛風薬の服用は、発作が起きたかどうかを基準に判断するということですね。
私ならばそうします。
尿酸値が高い低いでは高尿酸血症の薬を使うべきかの判断をすべきではないと思っています。
御指摘のように私は、尿酸値が高いこと自体は基本的にその必要があってそうなっているという風にとらえています。
No title
先日は、質問にご回答いただきまして、ありがとうございました。
まず、本記事とは関係のないことをコメントすることをお許しください。
実はずっと疑問に感じていたことがあり、本ブログで検索するも見つからなかったので、記事にしていただけたら幸甚です。
テーマはズバリ、「糖質制限食と歯磨き」です。
①糖質制限食の虫歯、歯周病対策として歯磨きは必要か。
そもそも人が歯磨きをする理由は、虫歯や歯周病、口臭対策です。
歯に付着したプラークに生息するミュータンス菌が、糖を栄養にして酸を出すことで歯が溶けるのが、虫歯になるメカニズムと言われています。
農耕が始まる前の狩猟・採集の生活は、糖質制限食と考えられ、ミュータンス菌の餌となる糖がほとんどない状態です。
であるならば、当時はそれほど虫歯がなかったと推測できます。
古代人の骨から虫歯が見つかったとの情報がありますが、狩猟で獲物が捕獲できない時期は、採集によって糖質を含むはちみつや木の実、果物を食していたことが要因かもしれません。
現代人でも糖質制限食なら、ほとんど虫歯や歯周病にならないと言えるのでは。大胆な発想でしょうか。
②野生動物は歯磨きしません。
動物も虫歯や歯周病になるのでしょうか。
肉食動物の歯がボロボロでは、獲物を捕獲できなくなるので生死に関わります。
肉食動物に虫歯が少ないならば、単に糖質制限食だから?
あるいは、肉食動物特有の対虫歯システム(唾液酵素や口内細菌)が備わっているのか。
一方で、糖質を含むものを食する動物には、虫歯はないのでしょうか。
色々と疑問は尽きませんが、糖質制限食で虫歯や歯周病が予防できるなら、歯磨きをする理由は口臭対策のみですね。
口臭がなければ、もはや歯磨きさえ必要なしです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
糖質制限下における歯磨きの必要性については意見の分かれる所ではないかと思います。
個人的には歯磨き不要派ですが、糖質制限で歯周病菌への栄養は断つことができても、1日3食の食習慣で歯垢(プラーク)の問題はどうしても残ってしまうとの話は聞きます。確かに糖質制限で体感的に歯の状態はよくなりましたが、歯垢の臭いに関しては十分ではありません。考えがまとまれば記事化も検討しますが、今の所は私の中でも保留中の課題のひとつです。
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