増薬へ導く医師と患者の固定観念

2018/03/12 00:00:01 | よくないと思うこと | コメント:0件

パーキンソン病診療ガイドラインの大きな問題点として、

根本的原因に全くタッチせずに、対症療法に終始すること」を挙げましたが、

それによって起こるもう一つの問題が、薬剤の過剰投与問題です。

これは先日紹介したパーキンソン病薬の減薬についての中坂先生の御著書が明らかにされました。

なぜパーキンソン病の専門家達がこぞって薬剤の過剰投与に気付かないのでしょうか。

それは、やはりパーキンソン病が「原因不明」と位置付けられていることが大きいのです。 原因不明が故にいろいろな症状が起こってもおかしくないと捉えられやすくなり、

パーキンソン病にまつわり出現する様々な症状はすべて「原因不明のパーキンソン病の抑え込むべき症状」として認識されるのです。

だからこそ、それがよもや薬の副作用だと気付かずに、ただただ症状を抑えるためという目的のもとに薬を上乗せし続けてしまうのです。

そんな神経内科医の思考パターンはガイドラインの中にもよく現れています。

例えば、先日参加したパーキンソン病診療ガイドライン2018に関する講演会の話では、

早期パーキンソン病の治療に関して、ガイドライン上の次のような文言が紹介されていました。

・L-ドパ、MAO-B阻害剤、ドパミンアゴニスト等による治療開始は、症状を改善させる(高レベルで推奨できる)
・長期的予後の改善については証明されていない(低レベルでの推奨。自信が持てない)
・早期に始める方が良いことを強く推奨できるほどの明確なエビデンスはない(中レベルでの推奨)


L-ドパはドーパミンが血液脳関門を通過するように工夫された薬で、

MAO-B阻害剤はドーパミンが分解されるのを防ぐ薬、ドパミンアゴニストはドーパミンの代わりにドーパミン受容体を刺激してドーパミン作用を発揮させる薬ですので、

皆ドーパミンを働かせるように作用させる薬だということになります。

これらはパーキンソン病の主にふるえや身体のかたさといった運動症状を確かに改善させることができます。

しかし上記のガイドライン文言によれば、そうした治療はずっと使っていたり、早めに使ったりすることで良いことが起こるという証拠はないということを明記しているわけです。

長期的予後という言葉がありますが、これは糖質制限批判でもさんざん耳にした「長期の安全性が保証されていない」という話に通じるものがあります。

「だから糖質制限は勧められない」ということで頑として糖質制限を認めなかったのが学会のスタンスでしたが、

それが科学的な判断と態度だというのなら上記のドーパミン刺激療法だって認めてはいけないということになりそうなものですが、

そうはならないのは、「長期的予後は保証されていないけど原因不明で現状これしか方法はない。だから慎重にこの治療を行っていくしかない」という判断に至るからではないかと思います。

ここでも根本的原因を放置してしまっていることが悪い意味で効いてきてしまうのです。

しかも慎重に投与しようと言う姿勢を持っているのなら、薬剤過剰投与問題に発展しなさそうなものですが、

パーキンソン病患者さんは自律神経障害を背景に多愁訴を訴えやすくなります。

精神的に参っている人も多く、客観的に見て正常な判断を下せているとは思えないように見える人も数多くおられます。

そんな中で仮に症状が安定していたとしても、診察の度に「全然良くなりません。何とかして下さい。」と言われ続ける医師はどう思うでしょうか。

長期的予後がどうとかいう発想はどこかに置きざりとなり、たいていの医師は目の前の患者の症状を改善させるために、

根本的原因に目を向けることなく薬の量や種類を増やしていってしまうのではないでしょうか。

つまり薬剤の過剰投与問題には医師側だけでなく、患者側の要因も大きいのだということです。

パーキンソン病のガイドラインを見てみると、

ドーパミンが増えすぎて身体が勝手にぐねぐね動いてしまうジスキネジアやドーパミン薬使用に伴って起こる幻覚などは、

パーキンソン病薬の副作用として有名なので、さすがにガイドラインにも減薬で対策する方針が書かれていますが、

そうではない睡眠障害や不安、うつ、疲労、排尿障害、便秘、起立性低血圧、発汗異常、性機能異常、感覚障害、痛み、そして認知症の症状などが、

薬の副作用として起こっているという発想はガイドラインの中にはありません。

しかしドーパミン刺激療法による強引な過剰適応状態が、自律神経撹乱を軸に様々な身体各部位の機能を低下させている可能性は十分にあるのです。

根本的原因にアプローチせず、ただひたすら対症療法に終始することがもたらす歪みとは、そういうことだと私は思います。

だからこそパーキンソン病の治療は根本的に変わらなければならないと私は思っています。

医師と患者、ともに変わらなければなりません。

学会やエビデンスなどに任せてなんていられないのです。


たがしゅう
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