性ホルモンと認知症予防

2014/09/11 00:01:00 | 認知症 | コメント:2件

皆さんも御存知のように,一般に女性は男性より長生きです.

一方で高齢化に伴い認知症の数が増え続けています.

認知症の中で最も多いと言われるアルツハイマー型認知症も,

男性よりも女性で多いという事が数々の疫学的研究でわかっています.

その理由を普通に考えれば,「女性の方が長生きなんだから,当然認知症にもなりやすいのではないか」と思われるかもしれません.

しかし,ある研究では年齢の影響を調整しても,女性の方がアルツハイマー型認知症が多いという事が示されています(Andersen K, et al. Gender differences in the incidence of AD and vascular dementia: The EURODEM Studies. EURODEM Incidence Reserch Group. Neurology 1999; 53: 1992-7.).

どうしてせっかく長生きな女性の方でアルツハイマー病のリスクが余計に増えるのでしょうか. それには女性ホルモンの存在が大きいと言われています.

実は女性ホルモンの代表格であるエストロゲンは脳神経系に対して様々な効果がある事がわかってきています.

a. 神経細胞保護作用
b. 神経栄養作用
c. 脳の賦活化
d. 抗アミロイドベータ作用

いずれも認知症になる事を防いでくれる作用ばかりです.

しかし女性には閉経というイベントがあります.

閉経を境に女性ホルモンの分泌量が急激に低下します.

これによってエストロゲンの持つ多面的な作用による恩恵が受けられなくなってしまうわけです.

しかしそれだけであれば,高齢化以上にアルツハイマー型認知症は増えないはずですが,

それ以上に増えている背景には,私は糖質過剰の背景があると思えてなりません.

なぜなら女性ホルモンの材料はコレステロールです.

閉経後は特にコレステロールが女性ホルモンを枯渇させないようにするための重要な原材料です.

ところが糖質過剰食というのは,いわば女性ホルモン枯渇食です.

なぜなら糖質過剰によって酸化ストレスが生じ,血管に炎症が起こります.

その炎症の修復にコレステロールは駆り出されますし,酸化反応を受けて超悪玉である酸化型LDLコレステロールも生み出されます.

女性ホルモンの材料に回されるコレステロールは自ずと少なくなってしまいます.

なおかつ,糖質過剰そのものが認知症の原因となる神経変性を起こす大きなリスクです.

リスクは高まるわ,それを守るための女性ホルモンは足りなくなるわ,といった困った状況になります.

そのために年齢以上に認知症が増えているのではないかと思うのです.

逆に言えば,糖質を制限し,良質のコレステロールを合成しやすい食事を心がければ,

閉経後も自然のメカニズムに逆らうことなく認知症のリスクを下げる事ができるのではないかと思うのです.

じゃあ,女性ホルモンを薬で補充すればいいのでは,という意見があるかもしれません.

閉経後まもない時期に補充すれば認知症のリスクは確かに減少するのですが,

高齢になってからホルモンを補充すると逆に認知症のリスクが逆に増加してしまうという事がわかってきています.

その理由は薬で女性ホルモンを補充した場合,血液が凝固しやすくなってしまい,

脳血管障害が増えるからではないかという可能性が考えられています.

また,薬で女性ホルモンを補充する事は,乳がんや子宮がんなどの婦人科系のがんのリスクを増やすという事もわかっています.

やはり自然のメカニズムを邪魔しないという事が大事なように思います.

なお,今回の話は,男性には関係ないと思われるかもしれませんが,

男性の場合は女性ホルモンが変換され男性ホルモンになります.

その男性ホルモンの代表格であるアンドロゲンにも神経保護作用や神経栄養作用,抗アミロイドベータ作用があるという事が報告されてきていますので,

やっぱりその材料であるコレステロールをしっかり確保しておくという事が重要になってきます.


端的に言えば,

いつまでも男は男らしく,女は女らしくいる事が,

認知症にならず健やかに生き続ける最大の秘訣なのかもしれません.


※今回の記事は以下の神経内科専門誌記事を参考にして書きました.

『神経内科,81(2):139-144, 2014
篠原もえ子,山田正仁
Alzheimer病:性差をみる』



たがしゅう
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コメント

コウノメソッドから

2014/09/11(木) 23:21:36 | URL | もうあかん #-
糖質制限の話題2
家族の希望で糖質制限。体重がすぐに落ちたピック病

ぜったいに美容院にいかないピック病の入所者である。向精神薬によって柱時計に話しかける、1人の敵をつくるなどの症状もまったくなくなっている。レミニール4mgが10か月後から効いてきて面会の家族を驚かすほどである。

1か月ごとの往診で再開した時、非常にスリムになっていて驚いた。家族から江部さんのごはん制限を希望され、グループホームで実施したところ、みるみるスリムになったのだという。特別栄養士が必要というわけでもない。米さえ減らせばいいのである。糖質制限はまさに糖尿病の急増を抑制する画期的な方法である。

Re: コウノメソッドから

2014/09/12(金) 05:40:06 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
もうあかん さん

 コメント頂き有難うございます.

 ピック病を疑う病歴の一つに「病的に甘いものが好き」というのがあるのですが,

 これってまさに糖質中毒の状態ではないかと私は思います.

 従って,糖尿病の有無にかかわらず,糖質制限はピック病に有効であると考えます.

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