ストレスが速やかに収まる環境作り

2017/06/10 00:00:01 | 医療ニュース | コメント:3件

最近見た医療ニュースの中で

うつ病の発症に「ヒートショックプロテイン(HSP)」というストレスにより誘導されるタンパク質が関与していることを示す研究報告が紹介されていました。

うつ関与のタンパク質特定=新たな治療法期待-岡山理科大など
時事メディカル 2017/06/01 06:37


(以下、引用)

熱や紫外線などから細胞を保護する役割を持つ「熱ショックタンパク質」(HSP)が、

うつ病の発症に関与していることがマウスの実験で分かったと、岡山理科大と徳島大病院の共同研究グループが発表した。

うつ病の予防や新たな治療法の開発に役立つ可能性があるという。論文は31日付の米科学誌サイエンス・アドバンシーズに掲載された。

研究グループは、ストレスを与えてうつ状態にしたマウスの脳の海馬で、HSP105と呼ばれるタンパク質が著しく減少したことに着目。

HSPを増やす薬剤テプレノンを投与すると、うつ行動が改善したという。

ストレスを受けると、脳の神経細胞の維持に欠かせない神経栄養因子が減少するが、HSP105の働きによって増えることも分かった。

テプレノンは胃薬として広く使われている。安全性も高く、研究が進めばうつ病患者への適用拡大が期待される。

事前にHSPを高めるなどの方法で、予防につながる可能性もあるという。

岡山理科大の橋川直也講師は「うつ病は多くの人が関心を持つ社会的な問題。

より安全性の高い方法で治せるようにしたい」と話している。

(以下、引用)


このニュースだとあたかもうつ病がこのタンパク質が原因で起こる事が突き止められたかのように受け止められる方もいるかもしれませんが、

うつ病のモデルマウスにおいて、うつ行動に相関関係のある一つの因子が発見されたという話に過ぎません。

そもそも、うつ病のモデルマウスはヒトのうつ病の病態と単純比較できないという話もあります。



イグノーベル的バランス思考 -極・健康力- 単行本 – 2017/4/25
新見正則 (著)


(p16-17より引用)

もっとも有名で、頻用されている動物のうつ病モデルは強制水泳試験といいます。

強制水泳試験とは1977年に開発された試験で、ネズミを水槽に放りこみます。

ネズミは溺れたくないので、必死に犬かきのような泳ぎをします。しかし、逃げ場所がないので、しばらくするとネズミは頭を水面上には出していますが、泳がなくなります。

これを「諦めた」と人間が解釈しました。

そしてネズミを水から出して、24時間後に再び水槽に入れます。

すると前回よりも早く動かなくなります。泳ぐのを早く止めてしまうのです。

「無力感で泳ぐ努力を止めた」と人間がまたまた勝手に解釈をしました。

そして、ある薬を投与してその諦めるまでの時間が長くなれば、その薬はうつ病に効く可能性があると判断されました。

こんな動物実験で開発された薬を飲んでいるのかと思うと、なんだかガッカリしませんか。

だって人間では2週間以上のうつ状態の持続が必要でしょ。ネズミは24時間後の状態ですよ。

そして、いい加減な実験にも思えますね。なによりちょっと残酷ですよね。

人間のうつ病を正確に体現できる動物モデルはないのです。

(引用、ここまで)



ヒトのうつ病を正確に表現していないかもしれない動物で、一つの候補因子が報告されたという話です。

必ずしも鵜呑みにはできませんが、動物には生化学的な共通システムがある事を支持する私としましては、かといって完全無視もできない情報です。

ただテプレノン(商品名:セルベックス®)という胃薬にHSPを増加させる作用がある事ははじめて知りました。

それゆえこの胃薬がうつ病を改善させるための秘策になるのではないかという論調のニュースですが、

私はそんな風には全く思いません。むしろテプレノンがHSPを増加させるとはどういうことなのかについて思考を巡らせます。

テプレノンは胃粘膜保護薬に分類される胃薬で、その作用機序はプロスタグランジンの産生にあるようです。

プロスタグランジンと言えばざっくりと言えば炎症に関わる生理活性物質です。

PGE2やPGI2といった血管拡張作用を有するプロスタグランジンを誘導する事で、胃粘膜への血流を増やし粘膜保護作用を増強させるという仕組みです。

一方でテプレノンにHSPを増加させる作用があるという事は、テプレノンによって起こる反応は人体にとってストレスになっているということです。

ということは、無理にプロスタグランジンを合成し炎症を誘導することがある種のストレスになっているという視点を持つ必要があります。

勿論、ストレス反応の誘導を治癒反応惹起のために利用する戦略はありえます。漢方薬でもそれはよく行っていることです。

しかしだからと言って人為的に炎症を起こす類の胃薬が、うつ病を治すキードラッグとなるかと言われたら、

それは対症療法にこそなれど本質とは違うと思うのです。


うつ病というのは言ってみれば、もともと備わっているストレス反応-応答系が十分に機能しなくなった状態です。

通常ストレスがかかっている状態では、ストレス反応系の一つとしてHSPが増加しますが、それが本人のキャパシティを超えてしまった場合、HSPがもはや作れなくなって現象してしまう、

今回のニュースの肝はそういう所にあるのではないかと私は考えます。

これを踏まえてうつ病に対してどういう治療アプローチを試みるかは、決して胃薬を用いるという方法ではなく、

ストレス反応系がきちんと働けるようタンパク質の材料をしっかりと補充しつつ、

ストレスが遷延化・慢性化しないようにきちんとストレスマネジメントできる術を学ぶという二点に集約されるのではないかと思います。

要するに大事なことはストレスがあっても速やかに収束する環境作りです。


たがしゅう
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コメント

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2017/06/14(水) 13:40:19 | | #
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Re: No title

2017/06/14(水) 17:11:50 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
FS さん

 御質問頂き有難うございます。

 そりが合わない人とは思い切って関係を断ち切るというのも一つの手です。
 自分の想いを大事にするための「嫌われる勇気」はある程度必要な要素と思います。

 断絶ができない状況であれば、基本的には距離をおいて「仕事の付き合いとしてなら協力する」というくらいのスタンスで交流されるのが現実的な対応になるのではないかと思いますが、

 実際にはその方がどんな方かは私にはわからないので、あくまでも参考意見としてご利用頂ければ幸いです。

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2017/06/27(火) 13:47:15 | | #
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