自殺を踏み止めているのは薬ではない
2017/06/04 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:6件
医療情報を見ていて時折目に入る研修医過労死のニュース、
私も一歩手前の状態まで来ていた経験があるだけに当人の気持ちを思うと胸が痛みます。
現在多くの医療現場で慢性的な人員不足が見られ、現代医療は医療者の善意による多めの労働により支えられているのが実情であろうと思われます。
西洋医学は救命医療には強いですが、予防医療には大変不向きです。
高血圧にしても、糖尿病にしても、花粉症にしても、喘息にしても、何につけても対応が後手後手になってしまっています。
そんな中、自殺予防の重要性は医療現場で声高らかに叫ばれています。 中でも強調されるのは「精神科医との適切な連携」です。
確かに私もスーパーローテーション世代で精神科を回った経験がある身、
精神科の介入で自殺を踏みとどまらせている側面は確かにあると思います。
一方で精神科医には「自殺予防にはある程度の向精神薬の投与は必要」という考えが多く見られます。
…はたして本当にそうでしょうか?
代表的な抗うつ薬のSSRIやSNRIには18歳未満の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告があります。
精神科医も勿論それは承知で、その上で抗うつ薬の適正使用が自殺を予防する、と主張しています。
しかし、なぜ18歳未満の患者で自殺リスクが高まるかについて、私の知る限り合理的な説明は未だにありません。
かたや私は以前、セロトニン神経の余力がある状態でセロトニンの急峻な変動が起こる事が衝動性を高めると考察しましたが、
もしそうなら、理論的に抗うつ薬が自殺を予防するとは到底思えません。
仮にセロトニンの絶対的枯渇状態だとすれば、自殺をする意欲すら失っているのではないかと思います。その時に投与する抗うつ薬は思考の回復にこそなれど、自殺予防にはなっていません。
ならば精神科医療の現場で見られている自殺を予防している実感はまやかしなのか、何なのか。
私は「精神科医に支えてもらっている」という患者さんが感じる実感が、臨時のストレスマネジメントになっているのではないかと考えます。
自殺間際の患者の心情は世の中の全ての人間が敵に見えているものです。
全方位に存在する敵から攻撃を受け続け、自分はこんなに辛い目に遭っている。
こんな生き地獄がこれから何十年も続くくらいなら、たとえ全てを失ってもここで命を断つ方がマシだと、そんな心境になっているのです。
そのような状況で精神科医が優しく手を差し伸べれば、それだけで患者は大きく救われることでしょう。
その臨時ストレスマネジメントによる効果を、精神科医が抗うつ薬の効果だと捉えればここに食い違いが生じます。
ストレスマネジメントが優れていればそれでも結果的に自殺は予防できるのかもしれませんが、
当の精神科医が自殺予防できているのは薬のおかげと考えている以上は薬からの離脱は困難を極めます。
それに臨時のストレスマネジメントでその場をしのいでも、そもそもそこまで精神的に追い込まれる原因が解決していなければそれすら対症療法に過ぎません。それだけだと依然として非常に危ういのです。
優しくて真面目な研修医は、偉そうで傲慢で声の強い指導者が楽するかげで、過重労働を強いられます。
いくら優しい精神科医に助けてもらっても、同じ環境が続く限り根治療法とはなり得ません。
時間がかかり効率的ではない精神療法が軽視されがちな昨今、
精神科の先生達には、薬の効果よりも、先生達の一言ひと言がそれ以上の力をもたらしうるという事を、
是非とも強く認識してもらいたいと思います。
最後に、今まさに自殺を真剣に考えている若い研修医達に伝えたい。
私が救われたように糖質制限で精神状態を安定させるのも一つの方法ですが、
もう一つ、根治に向けて考えるべきことは、医師を辞めることです。
そんなことできないと思われるかもしれませんが、死ぬよりはマシです。死んでしまったらどうにもなりません。
全ての人間が自分の敵だという状況など決してあり得ません。全ての人間が自分を好きになるという状況が起こり得ないのと同様に、です。
どんな苦境でも理解者は必ずいます。全てをゼロにしたいと願うなら、命あるこの世界でそうすべきです。
あなたが最初に志した「人の命を救いたい」という思いは、
何も医師だけにしか成し遂げられない目標では決してないのです。
必ず生き延びて、再起を遂げてほしいと心より願います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
死にたい、とは思わないから自殺(自死)したいっていう感覚は全くありませんでした。
ただ、「楽になりたい」って思っただけ。当時仕事していたのは、渋谷のビルでした。窓が15cmくらいしか開かなくて。
死にたいって自殺する人より、楽になりたいって自死する人の方が多いんじゃ無いかな? っていうのが、自分の感想。
その後、精神科での血液検査で、随時血糖が500くらいあって、その場で「入院してきなさい」と紹介状書かれました(笑)
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 死にたいって自殺する人より、楽になりたいって自死する人の方が多いんじゃ無いかな? っていうのが、自分の感想。
本当にそうですね。
死ぬ怖さより生き地獄から逃れたい欲求が上回る時に起こりうる行動だと思います。
No title
先日もTG800越えでした。
それは置いておいて、自分が鬱だった経験から、楽になりたいと自死する人と、自殺し這う人って違うと思うんだ。
鬱の回復期に自殺が多いって言うけれど、鬱初期やまっただ中な時って、自殺より、楽になりたい、消えたいっって思う(思った)もの。
毎日、8時〜3時の休日無し。今なら過労死って言われただろうな。でも。20年前の事なんだよ。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
本人にしかわからない苦悩の世界がきっとあると思います。そんな方には世界は自分次第でいつでも変えられるというメッセージを伝えたいです。
こんにちは
ずっと鬱を患っていました
父は糖質依存ではなく、どちらかと言えば肉系・脂系が好きでしたので、糖質制限で治ったとも思えない感じです
鬱は持って生まれた性格と、幼い頃からの環境による所が大きいと思います
父は仕事が大きなストレスになっていましたが、辞めれば確かに鬱は治っていたかも知れません。ただ、その選択肢を選ぶ事は不可能だったとも思います
今では昔よりは少しは効くお薬もあるのでしょうか・・
ところで喫煙可のお部屋でのご宿泊、大変でしたね!
お疲れ様でした (^-^:
Re: こんにちは
コメント頂き有難うございます。
「持って生まれての性格」「遺伝だから仕方がない」「環境を変えるなんて不可能」
そう考える事自体がストレスマネジメント不足だと私は思います。
また何か良い薬はないのかと期待する事は、自分の心を変える努力を上記の理由で諦めている事の裏返しです。
心を変えれば遺伝子発現さえ変えられる事が科学的に明らかにされてきました。
2015年1月1日(木)の本ブログ記事
「私が変われば世界も変わる」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-530.html
も御参照下さい。
それでも心を変えられない人は薬で対応するしかありませんが、心が変わらない限りこれから先どんなに良い薬が出たとしても根治は難しいのではないかと私は考えます。
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