ストレス熱について学ぶ

2017/06/01 00:00:01 | お勉強 | コメント:0件

人間の身体にはストレスに対抗するためのストレス反応系が備わっています。

しかし何らかの原因でこのストレス反応系がうまく機能しない時に、自ら備えたこのシステムのために身体の不調をきたすことがあります。

機能しないと一口に言っても、過剰に働き過ぎて結果的に機能しないオーバーヒート状態と、

過剰に働き過ぎて疲弊してしまったバーンアウト状態と大きく二つに分けられます。

西洋医学はこれらを自律神経失調症と一括りで捉えますが、東洋医学はこれらの状態を気滞、気逆、気虚、気鬱などの表現で細かく分けて捉え、それぞれに対する対処法を経験的に導き出しています。

そんなストレス反応系にまつわるトラブルの中で、今回はストレス熱について学んでみたいと思います。 39℃も熱が出たりすれば、普通の医者であればまず感染症の可能性を考えて対処すると思いますが、

必ずしも感染症が原因というわけではなく、例えば予定手術の前日に39℃の高熱が出て手術が中止になったら速やかに下がるというケースでは、

ストレスそのものが発熱の原因になっている事もあるのです。

あるいは炎症反応がまったくないにも関わらず、37~38℃台の発熱がダラダラと続くケースです。

慢性的なストレスがかかり続けているような人でこのような高体温状態の持続が見られることがあります。

このような発熱の明確な原因が同定できず、ストレスの関与が疑われるものを医学的には、機能性高体温症(心因性発熱)といいます。

発熱までをも起こしうるストレスの影響は実に多彩で侮れません。


実はなぜストレスによって熱が出るかという事について詳しいメカニズムは解明されていません。

通常、感染や炎症によって生じる発熱は、末梢組織で産生されたインターロイキン1(IL-1)やIL-6などの炎症性サイトカインが脳に信号を送ることによって生じます。

その刺激を受けて発熱物質であるプロスタグランジンE2が産生され、肝臓ではCRP(C反応性蛋白)などの炎症性物質が産生されるようになります。

ところが心因性発熱ではそれとは全く関係のない経路で脳に働きかけ、

視床下部ー延髄ー交感神経系という神経システムから交感神経β3受容体を介して、

褐色脂肪細胞の非ふるえ熱産生を促したり、皮膚での血管収縮を促進したりするようです。

褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞とがありますが、白色脂肪細胞は皮下や内臓に分布し、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積するのに対し、

褐色脂肪細胞は主に鎖骨付近や胸まわりに分布し、脂肪を燃焼し熱を産生する働きを担っていると言われています。

その分布が成人では上半身に集中していること、ストレスによって熱産生が誘導されることから、

女性の更年期障害でよくみられるホットフラッシュや冷えのぼせ(上半身がほてって、手足が冷える状態)はこのメカニズムが関わっている可能性が考えられます。

原因不明の発熱が続き、病院で調べても異常がないという方は、この心因性発熱の可能性があるかもしれません。

そしてメカニズムは解明されておらずとも、心因性発熱の対策としてストレスマネジメントが有効だという事は逆算すれば明白だと思います。

一般的には心因性発熱に対する治療として、生活指導、心理療法、自律訓練法などのリラクセーショントレーニングが勧められていますが、

うつ病、双極性障害、身体表現性障害、統合失調症、パーソナリティ障害などの精神疾患との関連が疑われる場合も多いため、薬物療法として向精神薬が用いられることも結構あります。

しかし何度も取り上げるように、向精神薬は治しているのではなく、神経伝達物質材料不足の状況から無理矢理絞り出すに過ぎない付け焼刃的な薬なので、

一時的に熱は下がれども根本的なストレスの原因がそのままだとぶり返すのがオチです。

また熱産生担当の褐色脂肪細胞へ交感神経が刺激を送る点に注目して、β遮断薬という降圧剤で熱を下げさせるという方法もあるようですが、

血圧のさほど高くない患者に投与すると、倦怠感が増すことになり好ましくありません。

このストレス熱においても基本は生活指導や心理療法などを含めストレスマネジメントを重視すべきだと私は考えます。

そのサポートとして薬をどうしても用いる場合でも、基本は精神を安定させる糖質制限を同時に指導しつつ行うべきです。

あるいは同じ薬を使う場合でも、漢方薬であれば比較的副作用少なく症状改善に寄与させることもできます。

謎の熱で悩まされているという人は是非とも参考にして頂ければ幸いです。


たがしゅう
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