Post
隠された遺伝情報を引き出すケトン体
category - お勉強
2017/
05/
14本日は、昨日の記事の続きということで、
ケトン体の転写制御因子としての役割について紹介したいと思います。
本日の話は少し難しく感じるかもしれませんが、非常に有意義な内容なので、
誤解を恐れずに私なりにできるだけかみ砕いて説明してみたいと思います。
まずは、それについて書かれた記事の引用文をご覧ください。
アンチ・エイジング医学 13ー1―日本抗加齢医学会雑誌 特集:画像からみたアンチエイジング
「ケトン体は脳を守る」
植木浩二郎(国立国際医療研究センター糖尿病研究センター)
ケトン体の転写制御因子としての役割について紹介したいと思います。
本日の話は少し難しく感じるかもしれませんが、非常に有意義な内容なので、
誤解を恐れずに私なりにできるだけかみ砕いて説明してみたいと思います。
まずは、それについて書かれた記事の引用文をご覧ください。
アンチ・エイジング医学 13ー1―日本抗加齢医学会雑誌 特集:画像からみたアンチエイジング
「ケトン体は脳を守る」
植木浩二郎(国立国際医療研究センター糖尿病研究センター)
(以下、p105より引用)
3.転写制御因子としてのケトン体
ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)は、ヒストンのリジン残基を脱アセチル化し転写を抑制するが、
最近、ケトン体はHDACに結合し、その活性を抑制することが明らかになってきた。
βOHB(※βヒドロキシ酪酸)は、HDAC1、HDAC3およびHDAC4の活性を阻害し、
ヒストンH3K9およびH3K14の高度アセチル化を惹起することを、Verdinらのグループは報告している。
このような変化は、マウスでは腎臓で最も強く認められ、抗老化作用をもつと考えられるFoxO3などのいくつかの遺伝子の発現を上昇させる。
同様の抗老化遺伝子の発現誘導は、絶食時やカロリー制限でも認められるため、
絶食やカロリー制限によって増加するβOHBが、その抗老化作用の少なくとも一部を担っている可能性も示唆されている。
また、βOHBは間接的にもヒストンの高度アセチル化を惹起すると考えられてる。
絶食などで増加したβOHBは細胞内に取り込まれ、前述の経路(※前回記事参照)によってアセチルCoAが細胞内に蓄積する。
このことによって、蛋白のアセチル化が亢進すると考えられている。
(引用、ここまで)
転写とは遺伝情報に基づいてタンパク質を発現させる過程の中で、
遺伝子情報からRNAを合成させる重要なプロセスの事を指しています。
この話の要点は、絶食により遺伝子変化が起こるメカニズムの説明です。
つまりケトン体が明確なメカニズムを持って遺伝子を変化させうるということです。
それを理解するのに「ヒストン」と「アセチル化」、最低限この二つの言葉を理解しておく必要があります。
遺伝情報の集合体であるDNAは非常に長さがあるため、小さな細胞の中に存在させるためには効率的に小さく折りたたむ必要があります。
そのためDNAはタンパク質の分子に巻き付く形で折りたたみ構造を保っています。この時DNAに巻き付かれているタンパク質のことをヒストンと呼びます。

図のようにヒストンはいくつもの数が連なって構成され、これらはクロマチンと呼ばれる集合体を形成するのですが、
ヒストンに巻き付いている分にはその部分のDNA情報は解読されず、生体活動に関与しません。言わば隠された遺伝情報です。
さらにヒストン達は巻き付いているDNAの中のメチル基と呼ばれる側鎖同士で結合されるため、普段はヒストン同士が密集した構造をとっていますが、
ここで酵素の働きによって、メチル基がアセチル基に変換させられると結合能力が弱まり、ヒストンどうしの結びつきが弱まり、DNAが一部ほどけます。これをヒストンのアセチル化といいます。

ヒストンがアセチル化されることによって、フリーなDNA部分が露出し、
その隠された遺伝情報が発動して今まで発揮していなかった生体活動の役割を果たすようになります。
これが後天的に遺伝子を変え得るエピジェネティクスのメカニズムを説明する説の一つということです。
そしてそのヒストンのアセチル化にケトン体が密接に関わっているという話なのです。
ケトン体によってエネルギーの元となるアセチルCoAがたくさん生み出されることが、
ヒストンをアセチル化させやすくして、DNAをほどいて、隠された遺伝情報を引き出すというわけです。
ケトン体、本当にすごいやつですね。
さらに何でケトン体がそんな役割まで持つのかということまで私なりに想像してみます。
ケトン体が生理的に産生される絶食状況は、一時的にはよくとも、長く続けば生命維持にとって危機的な状況です。
そういう状況に遺伝情報を隠している場合ではなく、体内に残されたエネルギーをフル活用して、使える遺伝情報を最大限使おうと身体が頑張っているということなのではないかと思います。
そしてその状況を生み出すにはエネルギーが十分にあるという事が大前提だということです。
この話は、同じ絶食でも高インスリン血症のせいでケトン体が使えない状況に追い込まれるクワシオルコルが危険な状態だということや、
STAP細胞再現実験で、細胞の初期化を反映するOct4の陽性化がATPを添加した状況で起こりやすくなったという話にも通じると思います。
これらを踏まえれば、ケトン体をいかに上手に使って生きていくかということが、
様々な人生の困難や病に立ち向かっていく上で非常に重要な事であるように私には感じられます。
たがしゅう
(※画像は日本科学未来館 科学コミュニケーターブログより借用させて頂きました。)
コメント
そんな気がしてきましたよ。
生まれる時もケトン体。
病気を治すのもケトン体。
死ぬときも安らかに逝ける。
あと
活字は苦手だったんですが、最近本を読みたくなったので隠れた能力が発動したんですかね?そうなら嬉しいです。
2017-05-14 14:51 ふあっつおー URL 編集
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
ケトン体のことを学べば学ぶほどよくできたシステムだと感じます。
逆に言えば、そんなよくできたシステムを持っていたからこそ、命のバトンをつないでいく事ができたのだと思います。
> 活字は苦手だったんですが、最近本を読みたくなったので隠れた能力が発動したんですかね?
それはわかりませんが、私も糖質制限をしてそういう傾向が強くなりましたね。
2017-05-14 17:19 たがしゅう URL 編集