不完全な湿潤療法

2017/05/12 00:00:01 | モイストケア | コメント:0件

現在私は今いる病院で糖質制限や湿潤療法の普及に努めています。

先駆者の夏井先生の御尽力のおかげで、少なくとも私の周りでは湿潤療法という言葉を聞いたことがないという方は大分少なくなっている印象です。

その一方で湿潤療法の理解が中途半端で、不完全な湿潤療法を行ってしまっているケースも思いのほか多いようです。

中でも一番多いのは湿潤環境を保てど、有害な外用剤を一緒に使ってしまっているケースです。

具体的には、ゲーベン、アクトシン、イソジンシュガー、カデックス、ソフラチュール、ユーパスタ、フィブラストスプレーなどの外用剤です。

せっかく湿潤環境を保つ被覆材を使用していても、そうした有害な外用剤を使うのであればその効果は差し引きゼロになる可能性があります。

おそらく、何も塗らないと感染するのではないかという医療者に何となくある不安が、そうした状況を作りだすのではないかと思います。 どうも言葉のイメージというものは独り歩きしてしまうようで、

湿潤療法と言えば、「傷を湿潤環境に保つ方法」とだけ理解している人がこの落とし穴にはまりがちです。

そうではなくて、「創傷治癒阻害因子を徹底的に排除する」ところに湿潤療法の本質はあると思っています。

そもそも傷を湿潤環境に保つ理由も、「乾燥」という治癒阻害因子を排除するためです。

傷が治るのを邪魔する阻害因子であれば、消毒だろうと外用剤だろうと何だろうと徹底的に排除しなければなりません。

そうしたマイナスの医学の重要性を理解しておくことが、糖質制限と湿潤療法の理解には不可欠であると思います。

糖質制限も、言葉通り「糖質を制限する」だけの治療として理解してしまえば不十分で誤解の元です。

不要な糖質を排除し、必要な栄養を行き届かせる所に糖質制限の本質があるわけなので、栄養が不足している人は脂質・タンパク質を中心とした栄養補給を同時に行わなければならないというわけです。


さて、これだけエビデンスを重視する昨今の医学界でありながら、

なぜだか外用剤についてはエビデンスは甘々です。例えばゲーベンクリームのエビデンスは1974年のベトナム戦争のものが最新で、それ以降の追試は一切なされていません

それなのに現場では非湿潤療法の医師を中心に非常に高頻度で用いられています。

湿潤療法を学び、ゲーベンクリームを使わない方が早くきれいに治るという症例経験を積み重ねれば、そのエビデンスさえあやしくなってきます。

そもそも外から薬を塗る行為に傷を治す妥当性はあるのでしょうか。

傷が治るという現象はいわば細胞培養です。培養液があって、様々なサイトカインや生理活性物質が複雑なシグナルを形成し連携し合うことではじめて成し遂げることができる現象です。

それを単一の成分を外から塗り込むような単純行為で劇的に改善するという道理はありますでしょうか。

加えて界面活性剤が皮脂成分を根こそぎ持っていき、治癒阻害因子の乾燥を助長しますし、

界面活性剤自体が創面において細胞障害性を発揮する始末です。

それならば方法論自体が間違っていたと考える方がよほど妥当だと思います。

外用剤で傷を治そうとする行為と、単一成分の西洋薬の積み重ねで病気を治そうとする行為は、

同じくらい間違った方法だと私は考えます。

自然に備わったシステムは元々非常によくできているのです。

それを邪魔しないような治し方を心がけていきたいものです。


たがしゅう
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する