専門外の領域からアイデアを得る

2017/04/28 00:00:01 | お勉強 | コメント:0件

以前天才と片頭痛、てんかんの類似性を指摘した本を紹介しましたが、

その著者、古川哲雄先生は、他の神経内科医と一線を画す真理を言い当てるような鋭い視点の持ち主と感じます。

それはおそらく膨大な読書量がなせる業なのであろうと推測しますが、

この度、古川先生著の別の本と巡り合い、比較的高価な本ではありましたが、思わず衝動買いしてしまいました。



ヤヌスの顔〈第7集〉学際的神経内科学 (神経内科叢書) 大型本 – 2016/7
古川 哲雄 (著)


そうすると、これがまた冒頭から非常に興味深い内容が書かれていました。

(p1より引用)

【1.学際的神経内科学(Interdiciplinary neurology)】

"Si l'on n'a quelque notioon des autres, dans la sinne même on se trouve souvent dans l'obscurité."(Livre sixième)
(他の分野についてもなんらかの理解がなければ、往々にして自分の分野にも暗くなるものである.)
   ―Jean-Jacques Rousseau(1737-40)―

Balò病の同心円状病理所見と非生物的化学反応であるLiesegang環との類似性を指摘したのは1931年Julius Hallervordenの慧眼(すいがん)である。

このような輪状構造はキノコの生育分布、森林の縞枯れ状態、土星の輪やマゼラン大星雲、縞メノウなど自然界のさまざまな多くの現象にみられている。柳田国男の『方言周圏論』もそうである。

同心円構造は普遍的な現象であり、これはフラクタル、さらにNietzscheの永遠回帰にまでも関連する。世界とは異なった仕方で哲学の前にその姿を現すという。

Addison病患者の黒ずんだ顔色と傷ついたバナナが黒くなる現象とを結びつけたのはAlbert Szent-Györgyiである。

同じ環境では人間は同じようなことを考える。とくに最近はsplitterの風潮が主流でその傾向が強い。極端な場合が専門馬鹿といわれる。ここに学際性の意義がある

「人間心理についてもっとも多くを学んだのはドストエフスキィからである」と言ったのはFriedrich Nietzscheである。文学作品の中にはそれまで知られていなかった新しい症状の記載がまれでない。

そのため「詩人は心理学者のやるすべての仕事を先にやってしまっている」といわれる。

芸術家の眼は鋭く、科学は要求されてはじめて答えを出すことが少なくない。芸術と科学はいずれも医学において不可欠なものである。

人間は差異にはめざといが、類似性には意外に気づかないものである

異なった分野にみられる現象に着目し、自分の分野の現象とのあいだに類似性を認める連想が必要である。

(引用、ここまで)



今年の元旦に職業の幅を広く捉えて活動すべきとの考えを語りましたが、

まさに枠にとらわれずに様々な分野の勉強をしていく事の重要性がここでも説かれていると思います。

自然界に共通する構造に注目することで、枠組みの中で考えているとわからなかった疑問の答えとなる鍵が見つかることもあるのだと思います。

副腎の機能が絶対的に低下するAddison病で皮膚が黒ずむ現象と、バナナの黒ずみとを関連づける発想は大変面白いですね。

バナナの黒ずみ現象は皮が冷気に触れることで皮にある不飽和脂肪酸が増加し、

ドーパミンなどのフェノールアミン類が細胞内の別の場所にあるポリフェノール・オキシターゼという酵素によって重合されてポリフェノールになり、皮が変色するというメカニズムなのだそうです。

言ってみれば酸化反応であり、副腎機能がきちんと働かないとこれと同じようなことが起こるという事を示唆しているように思えます。


そう言えば、私に漢方を教えてくれたとある漢方医の先生は、

漢方医でありながらワインのソムリエの資格も持っているという多彩な趣味のある方でしたが、

その先生がワインのテイスティングの基本は外観と香りであり、それは漢方の望診に通じる所があるという事を教えて下さいました。

すなわち飲んでからワインの味を判断するのではなく、外観を見てある程度の見当をつける所に匠の技があるということです。

漢方の診断でも脈や腹部を触ってからはじめて何の処方にしようか考えるのではなく、患者さんの外観、顔色、雰囲気、匂い、声の張りなど触る前に得られる様々な情報をすべて駆使することが大事だと教わります。

漢方だけを勉強していたらその重要性にはなかなか気づけなかったように思います。


私は医師なのでどうしても医学関係の本ばかりに目が行ってしまいますが、

努めて一見関係なさそうな分野の本も見てみるようにしないといけないなと思わされましたし、

またブログやオフ会など様々な職種や立場の人達が集まる場で、積極的に交流していく必要性も再確認させられました。

私が美術に興味を持ち始めたことも、そういう意味では良かったかもしれません。

引き続き枠にとらわれずいろいろ勉強していきたいと思います。


たがしゅう
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