高血圧にはまず糖質制限すべし
2017/04/23 00:00:01 |
お勉強 |
コメント:7件
糖質制限を導入する場合に栄養士さんが心配する問題の一つに塩分量が増加することがあります。
確かに糖質制限メニューを組み立てようとすると塩分が多くなりがちだと思いますが、
私は当ブログにおいて、「塩分制限よりも糖質制限を優先すべき」との考えを表明しております。
また手持ちの資料を見直していると、かのバーンスタイン先生が糖尿病患者に合併する高血圧の発症機序について記載している文章がありました。
この問題を考える上で参考になると思いますので、本日はその内容について取り上げてみたいと思います。
バーンスタイン医師の糖尿病の解決 正常血糖値を得るための完全ガイド 単行本(ソフトカバー) – 2016/5/23
(第3版、p291-292より引用)
【塩分摂取制限:これはすべての糖尿病患者に妥当か?】
多くの糖尿病患者は高血圧である。
最低2か月間かなりの塩分を摂ると、高血圧であるすべての人たちの約半分が血圧上昇を経験するだろう。これは、まだ高血圧でない人では滅多に起きない。
高血圧は、慢性高血糖の人たちの糸球体病(糸球体の破壊)を促進するが、1型糖尿病では、高血圧は通常尿中のかなりの量のアルブミンによって示される腎障害出現の前ではなく、後に現れる。
したがって、すべての糖尿病患者に塩分を控えるように要請するのは妥当であろうか?
ここで糖尿病患者の何割かが経験する高血圧の発症機序についていくつか見てみよう。
糸球体病が進行した人たちは必然的に高血圧を発症するが、その理由の一部はGFRが著しく低下したためである。
これらの人たちは十分な尿をつくれないので、水がたまる。血液中の過剰な水分は血圧上昇の原因になる。
高血糖によって高血圧が起きる原因にはその他いろいろある。単に高血糖であるだけで水が組織を離れ血流に入るということは非糖尿病者においてさえも実験的に生じる。
血糖値のコントロールと同時に血圧が下がるのをみることはまれではない。
諸研究によると、多くの、もしかしたら大部分の高血圧の非糖尿病患者はインスリン抵抗性であり、したがって血清インスリンが高い。
高い血清インスリン値は、非糖尿病者において血清中性脂肪の上昇と血清HDLの低下を来す以外に、腎臓による水と塩分の蓄積を助長することが長い間知られている。
さらに、過剰なインスリンは交感神経を刺激し、交感神経刺激は心拍数を増やし、血管を収縮することによってさらに血圧を上げる。
このように、炭水化物をたくさん摂り、したがって、インスリンを過剰に産生する2型糖尿病患者は高血圧を発症しやすい。
高炭水化物ダイエットをカバーするために、通常の工業的な量のインスリンで治療される1型糖尿病かんはも同様に高血圧になりやすい。
ある目覚ましい研究は、高血圧の人の場合、血圧が血清インスリン値と直接比例していることを示した。
英国ノッティンガムからの報告は、正常なヒトに短時間インスリンとブドウ糖を静脈内注射すると血糖値が変化することなく血圧が上がることを示した。
1998年のスコットランド、グラスゴーのある研究は2型糖尿病患者で塩分制限によりインスリン抵抗性が増加することを示した。
(引用、ここまで)
外国の翻訳本ならではの、まわりくどい表現で読みにくいところもありますが、非常に示唆に富む内容が書かれていると思います。
私なりに端的にまとめれば
「糖尿病患者、非糖尿病患者を問わず高血圧の多くは高インスリン血症によるものであり、特に糖尿病患者においては塩分制限は逆にインスリン抵抗性を増加させる可能性がある。」
ということになります。
インスリンは血糖を下げるホルモンというより、栄養を蓄積させるホルモンという方がより本質に近いと思いますが、
それが作用し過ぎれば、血圧調整に重要な役割を果たす腎臓にとって水分や塩分の負荷が増える方向に代謝が動いてしまうようです。
またインスリン値が過剰すぎると交感神経が刺激されるというのは、入ってきた糖質に対してインスリン分泌が多すぎて、
このままでは機能性低血糖症になってしまうのを防ごうとグルカゴン、アドレナリンなどの血糖上昇ホルモンが臨時分泌されるためと考えられます。
いずれにしてもインスリンが過剰分泌されればいろいろなメカニズムが働いて高血圧をきたすということがわかります。
さらにそんなインスリンが出過ぎる状態が続けば、インスリンがあっても作用しにくいインスリン抵抗性が高まってきます。
インスリン抵抗性が高い状態では、通常のインスリンの作用を出すためにも、さらに多くのインスリンを要するようになり高インスリン血症はますます増悪する悪循環となってしまいます。
そして塩分制限をしてしまうと、腸管内で塩分を糖分と一緒に吸収するNa-Kポンプが、足りない塩分を一生懸命取りこもうと、いつも以上に働くことになります。
そうすれば一緒に塩分以上に糖分が取り込まれ、それによりインスリンもまた分泌される。これが2型糖尿病患者が塩分制限してインスリン抵抗性が増悪する理由なのではないかと考えられます。
糖質制限は、摂取する糖質の量を減らすことによって、その後引き続いて起こるインスリン分泌を抑えます。
従って高インスリン血症が原因で起こっている高血圧に対しては根本治療とも言える合理的な方法になると私は考えます。
興味深いことに糖尿病でなくとも、健康人で糖とインスリンを実験的に同時摂取させ血糖値が上がっていなくても血圧が上昇するというのですから、
医療現場で本態性高血圧症として原因不明の高血圧として扱われているものの多くは、無自覚の高インスリン血症が主因のものが多いのではないかという可能性も考えられると思います。
疑わしいなら本態性高血圧症の患者さんの食後インスリン値を測定してみれば真実が見えてくるかもしれません。
だから単なる高血圧の人も大いに糖質制限すべきだと思いますし、
「糖尿病の人にまず糖質制限を勧め、それでも血圧が下がらない場合に塩分制限」という考えは、
非糖尿病の高血圧にも当てはまることがわかり、根拠を持って私の中でますます強固となりました。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
血液検査の単位をわかりやすく
それはやっ味覚的にも塩分は辛く、糖質は甘く、穀物に至っては無味に近いからそうさせてるのかと思います。
血糖値の単位も100mg/dlと、一般人には何やら分かりにくいです。
1g/Lにしてくれればいいと思います。そしてそれがわすが2g/Lになると糖尿病。
いかに血糖値の正常範囲が狭く、精密なコントロール必要かがより分かりやすくなっていいと思うのです。
そこに茶碗一杯のご飯(約糖質50g強)を1日三食で食べることの無謀さが分かって、少しは糖質制限の理解が深まると思います。
いよいよ今週(土)に豚皮揚げを食べる会in京都迫りました。
たがしゅう先生はさらに遠路となり誠に恐縮です。お気をつけてお越しください。
Re: 血液検査の単位をわかりやすく
コメント頂き有難うございます。
確かに砂糖の害より穀物の害は味的に認識しにくいところがありますね。
ただ砂糖に関しては悪いとわかっていても止められない人が多いところにその怖さがあります。
たとえ単位がわかりやすいものになったとしても、行動が変わるかどうかは実際わかりませんね。
見掛けにだまされずに本質を見抜く視点を持つことが重要と私は考えます。
いよいよ1週間後になりましたね。
楽しみに参りたいと思います。何卒宜しくお願い申し上げます。
No title
ただし、ベジタリアン、宗教、アレルギーに対応した特別食に加えて、低塩、低カロリー、低脂肪ミールと幅広い選択ができるのに、なぜか、低糖質ミールがないのには違和感がありました。糖尿病対応ミールというものもあるのですが、我々が考える糖質制限食とは違うものでした。
糖質制限の浸透はまだこれからですね。
https://www.ana.co.jp/international/departure/inflight/spmeal/
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
ANAの糖尿病対応ミールは見る限り脂質制限食のようですね。
残念ながら現時点では自分で自分の身を守るより他にはないと思います。
管理人のみ閲覧できます
Re: 血圧について
御質問頂き有難うございます。
非公開希望ですが、返信用メールアドレスが記載されていないのでこちらへ御返信させて頂きます。
もしそれだと困る場合は速やかに削除しますのでお申し付け下さい。
2014年11月20日(木)の本ブログ記事
「コメント投稿時の注意点」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-487.html
も御参照下さい。
血圧の上昇に対してはBP120mmHg程度であればむしろ望ましい状態です。
体調の不調がなければ経過をみられてよろしいかと存じます。
LDL上昇に関しては糖質制限指導下で比較的よく見られる現象ですが、同時に測定した中性脂肪値が基準値内で特に体調不良がなければ適応反応として経過を見られてよいと思います。
逆にどちらかでも問題があればストレスマネジメント不良の可能性があります。例えば「LDLの上昇で動脈硬化になって心筋梗塞になってしまうのでは…?」などと考えてしまう不安そのものがストレスの元です。LDLそのものは動脈硬化のリスクではなく、現在は中性脂肪高値下における高LDL血症で認められる小粒子型LDL、酸化型LDLが動脈硬化の真犯人だという事が明らかにされてきています。
それでも誤解がぬぐえずに不安によるストレスが自己処理できない場合はゼチーアなどを内服して当座の不安材料をなくすのも一手と思います。
ただし一般的にやせ型の方はストレスマネジメントしにくい印象を持っています。糖質制限のペースについては無理せず体調と相談しながら取り組まれるのがよろしいかと存じます。
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