高血圧をもたらす真の原因

2017/04/13 00:00:01 | 素朴な疑問 | コメント:8件

今日は高血圧治療について自分なりに考えてみます。

まず、そもそも血圧はなぜ上がるのでしょうか。

もともと人体には様々な血圧を上げるためのシステムが備わっています。

例えばストレスがかかり交感神経が活性化されると、交感神経末端や副腎などからドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンといったカテコールアミンと総称される物質が分泌されます。

カテコールアミンは直接的に心臓に作用して心臓の拍出を強めたり、身体の末端の血管を収縮させたりして中心部分の血圧を上げたりします。

またカテコールアミンは腎臓に作用してレニンという昇圧物質の分泌を刺激し、それが様々な昇圧作用を持つホルモンと連携して全体として血圧が上昇する方向へも働きかけます

これだけ様々な昇圧システムが張り巡らされているという事は、血圧が上がることそのものは人体にとって必要な機能だと考える事ができます。 一方でかの有名な久山町研究では、

研究開始当初の1961年から1969年の第一集団と呼ばれるグループで、24~26%の人に160/95mmHg以上の高血圧があり、

そして脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血をまとめた脳卒中による死亡率が男性を中心に高い(男性7.5/1000人年、女性2.9/1000人年)という事が明らかにされました。

その後集団に対して、血圧140/90mmHg以下になるように減塩指導や降圧薬服用を行ったところ、

第二集団(1974年~1982年)で男女それぞれ脳卒中死亡率の低下が示されています(男性2.1/1000人年、女性1.4/1000人年)。

この研究結果が大きな原動力となり、高血圧治療の重要性が叫ばれ、

高血圧治療ガイドラインなるものが作られて、全体として血圧を140/90mmHg以下になるように強く勧められるようになりました。

だから血圧を下げる治療には妥当性があると考える医師がほとんどだと思います。

けれど、私は糖質制限を通じて、この高血圧治療についても見直しが必要なのではないかと思う事があります。


まず、血圧が上がるのは何かしら必要性があるから上がっていると考えることが必要です。

塩分の摂りすぎというのは血圧の高い人に対して決まり文句のように言われますが、

以前も記事にしたように、身体の代謝機能はきちんと働いていれば塩分を多少摂り過ぎても摂らなさ過ぎても身体の中での塩分量は一定に保たれます。

従って、塩分の取りすぎは血圧高値の根本原因ではなく、本質はナトリウム・ホメオスターシスを破綻させる代謝障害の方にあると私は考えています。

突き詰めれば、血圧の数値を減塩や降圧治療によって下げたとしても、根本的な問題は依然として放置されたままだとも考えられるわけです。

その一方で、減塩や降圧剤治療により久山町研究では脳卒中死亡率を下げるという良い結果を出していますので、減塩や降圧剤治療という方法であっても患者さんにとっての利益はあるという事になるでしょうか。

ここで見えてこないのは、脳卒中以外の集団の実情です。

例えば仮に、血圧を強制的に下げることで脳卒中は確かに減ったけど、血圧が下がり過ぎてふらふらしながら日々を過ごしていたという人が多かったとすれば、

研究ではふらふらの有無を調べようとしていない限り、その事実は研究結果としては現れて来ずに無視されることになってしまいます。

そんな話は無理矢理だと思われるでしょうか。しかし降圧剤には明らかに副作用があります。

またもともと必要があって血圧を上げようとしている身体のシステムを、無理矢理捻じ曲げて下げるわけですから身体に負担はかかってしかるべきです。

ですが、血圧の数値だけに捉われてしまうとそうした事実も容易に見過ごしてしまいます。「それはない」とは言い切れない現象なのではないでしょうか。


さらには白衣高血圧という現象もあります。

白衣高血圧というのは、自宅で血圧を図った時は正常血圧だけど、病院などの無意識に緊張しやすい場で図ると血圧が基準を上回って高くなってしまうタイプの高血圧のことです。

臨床の場ではただ緊張しただけなので真の高血圧としてはみなされずそのまま様子を見るようにと扱われることが多いのですが、

もし高血圧によって脳卒中の死亡率が高まるというのなら、緊張しようが何しようが血圧を下げにかからないといけないのではないかという考えもあると思います。

中には診察時に血圧が190mmHgとかにまで上昇するケースも珍しくありません。そうしたものを緊張だからと放置していれば、血管が切れたりしないのかと心配になるのは無理もありません。

しかし実際に臨床で診ていると、白衣高血圧というのは降圧剤の調整では治療しにくいという事実に遭遇します。

難治の白衣高血圧には私の経験上、たいてい交感神経過緊張状態が関わっています。平たく言えば不安まみれの人や非常に過敏で緊張しやすい感じの人です。

ストレスにより交感神経が刺激されることは先にも述べましたが、このシステムが過剰に駆動されてオーバーヒートしてしまうと降圧剤を使っても瞬間的な血圧上昇には対応する事ができないのです。

従って、白衣高血圧は放置しても問題が少ないから様子見になるというよりも、

実際治療しようとしてもうまく治療できない、あるいは逆に無理に治療をすることでふらつきや転倒が増える事が多くなってしまうために様子をみざるを得ないというのが実情に近いのではないかと思います。

そしてこの場合、本当に治療しなければならないのは自律神経のオーバーヒート状態です。


ここまでいろいろ高血圧治療について考えてきましたが、

私の考える高血圧の治療戦略についてまとめてみます。

ガイドラインの高血圧の治療目標は140/90mmHg以下が基本となっていますが(※疾患・病態別に多少の差あり)、血圧の数値自体にはあまりこだわりません。

しかし基本的に安静時でも血圧が高い状態が持続している時には身体に何らかの負担がかかっていることが示唆されますので、

そういう人にはまずは糖質制限を勧めます。その次に減塩、生活指導で改善困難な場合に降圧剤という順序です。

同時にストレスの関与を常に疑います。血圧が高くて心配だという人にはまず血圧というのは意味があって上がっているという事を伝えます。

血圧が高いことはむしろ身体がきちんと頑張っている証拠だと伝えます。それと同時に頑張りすぎていないか日頃のストレスの有無について問診で探ります。

問診で得られたその人なりのストレスに対してアドバイスできることがあればしますし、なければ深い深呼吸やマインドフルネスを指導し自律神経を整える方へ意識を向けてもらうよう試みます。必要に応じて漢方薬も使います。

そのように高血圧自体を治療対象と捉えず、血圧上昇システムのオーバーヒートをもたらす真の原因へのアプローチを試みるという治療戦略です。

そう考えるとひと口に高血圧治療といっても非常に奥が深く複雑であることがわかると思います。

これは減塩や降圧剤だけで解決できる問題とは到底思えません。


たがしゅう
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コメント

基準値とは?

2017/04/13(木) 08:29:53 | URL | アラジン #-
血圧もコレステロールも国の規定値が怪しいというのは一般常識となりつつあります。

血圧を上げるホルモンは身体にいくつもありますし、血糖値を上げるホルモンもいくつもあります。
コレステロールだって身体で作るほうか食べるよりも多いし・・・。

降圧剤と血糖降下剤・コレステロール降下剤は三悪の原点でしょう。

医療界の「メシのたね」であることは間違いない。

医者が増えて病気が増えるという摩訶不思議な現象。
魔界ですな。

Re: 基準値とは?

2017/04/13(木) 10:34:02 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
アラジン さん

 コメント頂き有難うございます。

> 降圧剤と血糖降下剤・コレステロール降下剤は三悪の原点でしょう。

 そう思われても無理もない状況ですし、医者をはじめとした業界の陰謀論だという話は時々持ち上がりますが、多くの医療従事者はそんなつもりは決して持っていないと思います。
 また降圧剤も食事療法やストレスマネジメントなどができない人に使わざるをえない状況はありますし、血糖降下剤、コレステロール降下剤も特殊状況において使うことがあり、その存在意義はあります。何事も存在そのものが悪という事はなく、問題なのはその扱い方にあると私は思っております。

2017/04/13(木) 13:23:42 | URL | あっぴ #-
たがしゅう先生、こんにちは!!
私あっぴは逆に低血圧です。上が70〜80台、下が40〜50台で、いつも朝はフラフラしている!?感じです。帝王切開の時は血圧が引くなり過ぎて、お医者様もビックリしていました。痩せているから体重がもっと増えれば血圧が上がるかもしれませんが、低すぎるのは長期的に見てよくないなでしょうか!?

Re: タイトルなし

2017/04/13(木) 13:53:38 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
あっぴ さん

 御質問頂き有難うございます。

 血圧の数値が問題なのではなく、要はその人に合った血圧なのかどうかが大事と思います。

 やせていて体格の小さい女性の方であれば、ポンプである心臓が全身へ血液を送り出し隅々まで行き届かせるのにそれほど高い血圧は必要ないと思います。ですので、低血圧でも症状がなければ全く問題ありません。

 しかしフラフラするという症状があるのであれば、やはり問題です。本来必要な血圧を生み出させなくする是正すべき何らかの代謝障害の存在が示唆されます。やせ型の方の場合は緩やかな糖質制限から徐々に慣らしていき、ストレスマネジメントも交えて対処していくのがよいと思います。

2017/04/13(木) 15:45:17 | URL | あっぴ #-
たがしゅう先生、お返事有り難うございます。私は2型糖尿病でスーパー糖質制限をして5年経ちます。5歳児と1歳児がいて産後のストレスはかなりあると思うので、上手に付き合って行きたいと思います。たがしゅう先生の新しい職場での活躍をお祈りしています。

No title

2017/04/14(金) 09:36:24 | URL | かんな #-
おはようございます。
スーパー糖質制限歴5年、人並み以上に健康?な、50歳女性です。

わたしは血圧が高いです。
人間ドックや献血時は当然ながら(笑)、家や会社で安静時に測ってもいつも160/110くらいあります。
その状態がもう3年以上続いていますので、それが「常態」で、わたしに必要な血圧だと思い気にしないことにしましたが、高すぎるでしょうか?
ちなみに身長158cm、体重50kg、体脂肪率22%です。

Re: No title

2017/04/14(金) 11:17:30 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
かんな さん

 御質問頂き有難うございます。

 その状況に私が対応するなら、まずは日々感じているストレスがないかどうかを確認します。
 あれば内容に応じてストレスマネジメントを追加指導しますし、なければそのままスーパー糖質制限食で経過観察です。

ありがとうございます

2017/04/14(金) 12:23:30 | URL | かんな #-
早速のお返事ありがとうございます。
子育てもほぼ終わり、同じ職場で20年ものんきに仕事をしていますので、ストレスはあまり感じていません。酒量が多すぎるかとは思いますが、酔って暴れるわけでもなく(笑)
いま計ったら160/120で、それこそ笑ってしまいました。
これからもスーパー糖質制限で経過観察します^^

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