肥満者の苦悩
2013/11/19 00:01:00 |
自分のこと |
コメント:4件
かつて高度肥満患者であった私は、肥満の人の気持ちは非常によくわかります。
肥満になると容姿が悪くなり、その欠点を覆す程の技術を持っていない限り、様々な事に自信が持てないし、卑屈にもなります。場合によってはいじめの原因になることもあります。
恋愛にも到底自信が持てません。世の中には「デブ専」と言った太った人が好きだという人がいるそうですが、そんな都合のよい話をそう簡単に信じられませんし、仮にそれが本当だったとしても自分自身に自信が持てず、相手に対して「こんな自分でいいのか?もっと他に良い人がいるんじゃないのか」と遠慮をしてしまいます。
そして肥満者である自分自身、食べ過ぎてしまっている自分に自己嫌悪を覚えているのです。「何でこんなに辛いのに食べる欲に負けてしまうんだろう」って。
だから肥満者は、もしもそれから逃れられる方法があるのであれば、基本的には藁をもすがる想いでその方法を求めるものなのです。その純粋な想いを逆手に取って、世の中では様々なダイエット産業が盛んに展開されています。
そしてそれらを行ってもやせることができなかった人は、もはやあきらめの境地に達し自堕落な生活を続けてまた太り、そこから抜けられない悪循環となってしまうのです。
そんな状況に追い討ちをかけるように、今度は病気の魔の手が忍び寄ります…。
私の場合、それは脂肪肝であり、うつ病であったりしましたが、もう一つ大きな病気として「睡眠時無呼吸症候群」というものを私は抱えていたことがあります。
睡眠時無呼吸症候群というのは多くは高度の肥満が元で、寝る姿勢をとった時にのどのぜい肉が気管などの空気の通り道(気道)を圧迫して、酸素が入りにくくなり、睡眠中に一過性の無呼吸状態を繰り返す病気です。
無呼吸中は呼吸・循環器系にすごく負担がかかりますので、心血管疾患のリスクともなりますし、寝たつもりでも無呼吸のせいで熟睡できていないので、日中すごく眠たくなるというのが症状です。この病気の存在を知っていないとただの怠けとも間違われるので注意しなくてはなりません。
かなり昔にJRの運転手がこの病気で日中眠り込んでしまったために事故を起こしてしまった、ということでも世に知られるようになりました。それほど強烈な眠気に襲われるという事です。
私の場合は眠気に加えて、起きた時に異常にのどが渇くという症状と、唾を飲み込んだ時にのどの粘膜ごと飲み込んでしまって「イタタタ…!」となって急遽つば飲みを中断せざるを得なくなるという、非常に不快な症状も伴っていました。
太っている人で意識がぼ~っとしている人をみたらまず最初に想起しなければならない病気ですが、医者の不養生というのか灯台下暗しというのか、自分が睡眠時無呼吸症候群だと気がつくのには恥ずかしながらかなり時間がかかってしまいました。単なる疲れだとかと思ってしまうのですね。
この睡眠時無呼吸症候群の治療としては、要するに気道が通っていればいいわけなので、空気を送り込んで気道がつまらないようにする機械を装着すれば無呼吸を解除することができます。その機械の事をCPAP(シーパップ;持続陽圧呼吸器)と言います。
CPAPは、寝るときに鼻と口を覆うマスクのようなものをつけて、そのマスクとホースで機械がつながっていて、機械からこちらが呼吸するタイミングに合わせて空気を送ってくれるというシンプルな仕組みです。
確かにこのCPAPを装着して寝たら翌朝のすっきり目が覚める感じになりました。
でも例えば夜にトイレに行く時などはいちいち外さなければならない煩雑さがあります。
それに遠出する場合などは大変です。電車でも飛行機でもこの機械を大荷物としていちいち持ち運ばなければなりませんし、
友人や先輩などと一緒に出かける際にも「その大きな荷物は何?」と聞かれて逐一事情を説明しないといけないことも、気を遣われないといけないこともすごく嫌でした。
そしてこの機械すごく高いです。だいたい100万円以上はします。なので基本的にはレンタルすることが勧められますが、それで保険が効いても毎月1万円くらいの出費になります。
そのくせ、もしも面倒くさくてつけるのを忘れて寝ようものなら、まず間違いなく翌朝には前述の症状に悩まされるようになります。当然ながら根治療法ではないのです。
今までやせることができた試しのない自分にとっては、これから先の長い人生、一生この機械を背負って生きていかなければならないのかと思うと相当な絶望感でした。
そんな中、運のいい事にCPAPを使用し始めて5ヶ月くらいの時期に夏井睦先生のサイトを通じて糖質制限の存在を知り、無事にCPAPから離脱し、睡眠時無呼吸症候群を完治させることができたのです。
この経験が元となり、私は肥満の患者さんへ糖質制限の選択肢を提示し続けています。
実際2人ほど肥満があって睡眠時無呼吸症候群を合併している患者さんがいて、実体験を交えて糖質制限の事を説明し指導しています。
ところが二人とも糖質制限実践できないのです。炭水化物の誘惑に負けてしまうのです。
自分からしたら考えられないことです。肥満者の苦悩は痛いほどわかりますし、おそらく二人とも同様の想いをこれまでされてきているはずだと思うのです。
それでも彼らはCPAPをつけて炭水化物を食べる選択肢の方を選んでしまっているのです。どうしてでしょうか。
これはそれほどまでに糖質の中毒性が恐ろしいということを示していると私は思います。
糖質はタバコやお酒と違って、それが中毒物質だと世間的に認知されていませんので、糖質を制限しない限り、自分が糖質中毒にあるということに気がつくことができません。
事実を知ったとしても行動を変えられない、それは個人のもともとの資質なのでしょうか、それとも糖質にそう動かされているのでしょうか。
そんな魔力のような力が糖質にはあります。
げに恐ろしきは糖質です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
はい!
(中瀬ゆかりのファンなので...)
私も幼少の頃より肥えておりました。
先生よりも一回り以上年上ですので、太った子供なんて学年で3人もいない時代でした。
そのマイノリティ感は半端ないわけで。
外国人プロレスラーのあだ名なんかをつけられていましたよ。
今思えば、BMI25程度だったんですけどね。
ただ周りが20以下とかだと、目立つんですよ。
あの頃、糖質が原因だと知っていれば、私のこの肉割れは存在しなかったと思うと、、、ああミゼラブルです。
友達にもいます。
それ(でんぷん)やめたら痩せるよと教えても、
「好物だからムリ!!」
と言って拒否します。
痩せたいという漠然とした願望は保ち続けているようで、朝食に置き換えダイエットのドリンクを何年も飲み続けています。
効果は一切現れていないというのにです。
私もここ半年全く体重が変わりません。
ただ、きゅうりに山盛りマヨネーズを掛けて食べても、カマンベールを1ホール食べても、変わらないのは凄いなぁと思います。
やつ(糖質)さえ摂取しなければ、太ることはないんだと、ようやく枕を高くして眠れる感じです。
あとは、このしつこい皮下脂肪を減らしていこうと、来年あたりから頑張ります。
いつか、たがしゅう先生のシュっとした姿を見せてください。
Re: はい!
貴重な経験を共有させて頂き有難うございます。
こども時代のエピソード、非常に共感いたします。私もこどもの頃から糖質制限を知っていればどれほどよかったかと考えることもあります。でも今知ることができたというだけでも十分有難いですし、先駆者の先生方へは心より敬意を表する次第です。
> いつか、たがしゅう先生のシュっとした姿を見せてください。
うーん。私は骨太人間なので、あんまりシュッとしてしまうと病気かも…。
糖質中毒は取れましたが、早食い癖がなかなかとれないので、その辺から改善していこうと思います。
2013年9月9日(月)の本ブログ記事
「依存症」もご参照下さい。
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-11.html
管理人のみ閲覧できます
Re: 興味深く拝読しました
コメント頂き有難うございます。
そのような状況では糖質制限がおすすめです。やはり理想は標準体重を目指すべきだと思います。
2013年12月15日(日)の本ブログ記事
「作られた嗜好性」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-120.html
2016年2月13日(土)の本ブログ記事
「理想はやはり標準体重を目指すべき」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-667.html
も御参照下さい。
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