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治療の主導権を患者へ渡す

category - モイストケア
2017/ 04/ 01
                 
私は主として神経内科医として働いてきましたので、

今まで怪我の患者さんを診る機会はあまりありませんでした。

しかし私は湿潤療法の開祖、夏井先生を師と仰ぎ、糖質制限も夏井先生から教えてもらった身です。

忘れた頃にやってくる外傷患者さんの診療には湿潤療法を試さんと日頃より機会をうかがっている所です。

そんな中、前任の病院の最後の当直で、30代の指の先端を切断されたという患者さんがやってきました。

湿潤療法を知らなければ、慌てて外科の先生を呼ぶくらいの対応しかできなかったかもしれませんが、

そこは湿潤療法を知っている者としてまずは冷静に創を観察するところから対応してみる事にしました。
            

アルミの機材を切る高速カッターで誤って指を切断されたとのことでしたが、

指先の第一関節よりも先の部分が少し斜めに切れ、爪の一部がかけている状態でした。

患者さんは「これはもう指を切断しないと腐ってしまうのか」とたいそう不安そうにされていましたが、

爪の一部どころか、爪が全部見えなくなるくらい切断していても湿潤療法で爪の再生が見られたという症例を夏井先生のサイトで写真付きで見ていたことがあったので恐るるに足らずです。

創面を見せてもらうと出血が続いていましたが、じわじわ出てくる静脈性の出血でした。

明らかな汚染もなさそうなったので、そのまま止血能力が高く傷に固着しないアルギン酸塩のシートを4つ折りにして創面に当ててしばらく用手圧迫して止血を試みました。

5分くらい経って止血が確認されたので、その上をガーゼで覆い、今夜はこのまま様子をみましょうとお話ししました。もちろん消毒は行っていません。


問題はここからです。

私はあくまで当直医として臨時の対応をしたまでの状況であり、

ここから先は専門科に任せてその後のフォローをお願いする事になります。私の病院の場合、担当は整形外科になるでしょうか。
ところがこの地域では湿潤療法を行っていると公言している医師は極端に少なく、紹介する整形外科もおそらく湿潤療法は取り入れていないであろうことが容易に想像される状況でした。

このまま湿潤療法を継続すれば、まず間違いなく爪は生えてきて指も切断しなくて済むような状況です。

ところが誤ってガーゼや消毒の治療を続けようものなら、かえって傷が深くなり本当に指切断という悲劇になりかねません。

かといって私はまもなくこの病院をさる身、自分がこの患者さんのフォローアップをすることもできません。

私はその状況でどうすべきかを必死に考えました。その結果、「患者さんに新しい創傷治療のサイトを見せてどうすべきかを自分で考えてもらう」ということにしました。

言い換えれば、医師主導ではなく、患者主導の治療スタンスを伝えるという方法です。

どの先生を選べばいいかという視点で考えている以上、はっきりいって正解が存在しないような状況です。

かくなる上は自分の頭で考えられるように情報を与えて、その情報をどう使うかは自分次第という状況に持ち込むのです。

それでも自分の頭で考えることを放棄し、治療をすべて医師任せにしてしまう人は残念ながら縁がなかったと諦めるしかありませんが、

もしも自分の頭で考えることができたなら、消毒・ガーゼ治療を受けた時点で逃げ出す決断もできるし、その気になれば自力で治すことさえできると思います。

要は「教えるのではなく、考えてもらう」というスタンスが重要だということなのだと思います。

もう私はその病院を離れてしまったので、患者さんの行く末を見守れないという事が心残りですが、

その後の治療がうまく行く事を心より祈るばかりです。


たがしゅう

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コメント

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お世話になりました
いつかまた、たがしゅう先生に診ていただき、いろいろお話したかったです。

ケトン食と、半年に1度の頸動脈エコー検査は続けようと思っています。
Re: お世話になりました
saiko さん

コメント頂き有難うございます。
こちらこそお世話になりました。saiko さんからは貴重な話を実体験と共に教えて頂き大変参考になりました。
心より感謝申し上げます。

以前教えて頂いたメールアドレスは変わりましたでしょうか。
私は変わっていないので、宜しければ一通メールを頂ければ幸いです。
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小指が生えてきた
たがしゅう先生、こんばんは。

「野人エッセイす」というブログを書いている方が、以前に調理中に小指の先を誤って切り落としたのですが、湿潤治療で再生したと述べてましたよ。

指先を切り落とした写真をブログに掲載していたのですが、グロテスクなためブログサービスの規約に抵触して閲覧不能となってしまったのですが。

湿潤治療は独自のやり方で、昆布だったかワカメだったかを患部に貼り付けて空気に触れないようにしてましたよ。

小指が完治した写真も掲載されていて、先っぽを切り落としたとは思えない回復ぶりでした。
Re: 小指が生えてきた
ミスターT さん

コメント頂き有難うございます。

実際の具体的な治療経過を、しかも写真とともに報告されるのには大きな説得力があり、治療を施す側としても大変な勇気を頂くことができます。下手な医学論文よりもよほど価値ある情報と思います。
Re: Re:Re:お世話になりました
saiko さん

御高配頂き有難うございます。

4月1日にメールを送りましたが、届いておりますでしょうか。
御確認頂ければ幸いです。