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食べなくても便は出る
眠れない、身体がだるい、足がしびれる、などといった症状を言い続ける70代の患者さんがいました。
糖質制限指導もHbA1c 6.5%程度とある程度の所まではうまく行くのですが、
完全にはよくなり切らないという事で、実は常食していた果物の摂取を控えるよう追加指導したり、
自律神経を整える漢方を2,3種類くらいとっかえひっかえ使用してみたりもしましたが、一向に症状が改善しません。
そうこうしていたらその患者さん、お腹が痛いという訴えで別の内科を受診され、
高度の便秘になっているという事が判明し、大腸癌などがないか検査入院されるという話になっていました。
糖質制限食材を選んでいても、流石に食べ過ぎだったことがいまいち糖尿病コントロールがよくならなかった要因だったのでしょうか。
たまたまその患者さんに遭遇した私は、「あなたのお腹が便の交通渋滞になっています。こういう時は一旦食べるのはお休みにして、水分だけは摂るようにして便が出るまで待った方がいいですよ。」と声をかけました。
すると、その患者さんは次のようにおっしゃるのです。
「何か食べないと便が出ないんじゃないかと思っていました」
自分が考えている常識と他人が考えている常識は往々にして異なる事があります。
医療関係者であれば絶食状態でも腸内細菌の塊によって便が出るという事はよく知られている話です。
ましてや断食経験のある私のような人であれば、「宿便」という言葉に象徴されるように、
食べない事によってきれいな便が排出されるようになるという現象を身をもって実感しています。
しかしそういう知識や経験がおそらくなかったこの患者さんは、
食べるものを食べないと便がロケットえんぴつのように押し出されないというイメージを持っておられたようです。
それでは便の交通渋滞が解消するわけもなく、あげくのはてに高度の便秘で腹痛をきたすのはある意味必然ですし、
そのように考えていたことが全ての体調不良の原因であったのではないかと思います。
そうとも知らずに糖質制限指導をひたすら繰り返し続けた私。
またしても失敗から教わることができたように思います。
私は失敗を取り返すように、「食べない方が今ある便は出やすくなるなるんですよ」とその患者さんへお伝えしました。
相手の価値観を知らずして、自分の価値観を押し付けることは、時にこのような過ちを生みます。
やはり話をする事を怠っては、真の医療を展開する事など土台無理な話です。
腸管の安静を適度に維持する事は、
食事の質、薬剤の効果よりも優先して大事にすべきことだと学びました。
たがしゅう
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