ケトン食 やめたらどうなる?
2013/09/07 17:03:37 |
糖質制限 |
コメント:2件
糖質制限の延長戦上にケトン食という食事療法があります.
糖質を制限することによって産生されるケトン体という物質にさまざまな神経保護効果があり,これが難治性てんかんをはじめ,さまざまな疾患の治療に応用されてきています.
ケトン食は糖質を制限するだけでなく,蛋白質の摂取もある程度制限されます.平たく言えば,「脂ばっかり」の食事になります.
メニューも糖質制限食に比べると大分限られてくるので,厳密に行うのはなかなかの知識と料理の腕が要求されます.
そんな継続性の難しさから,一般的にはケトン食の継続期間目標は2年程度と言われています.
この夏,ケトン食を実際に行っている病院の見学に行って勉強して参りました.
そこでは,2年が限度と言われるケトン食を4年以上続けられている小児患者さんもおられました.
親御さんに「継続するのが辛くないですか?」と伺うと,それまでに何度も発作に見舞われていた辛い日々の事を思うと,これくらいの事は苦にはならないとのことでした.お子さんの笑顔も印象的でした.
確かにこれは実際に患者の立場に立たないとわからない感覚だなと感じました.
そんなケトン食,もしもやめたらどうなるのか,ということについても一つの情報を頂きました.
継続性の難しいケトン食ですが,一般的には臨床効果が得られたら,より継続しやすい修正アトキンス食(江部先生のスーパー糖質制限食に近い食事療法ですね)へ徐々に移行していくというのがやり方のようです.
ケトン食のメッカ,Johns Hopkins大学で1993年-2004年にケトン食開始し,6か月以上発作消失後にケトン食を中止した66人(11%)がその後どうなったかを調べた研究を教えて頂きました(Martinez, Kossoff. Baltimore. Epilepsia. 2007)
・ケトン食は数か月かけて徐々に中止.
・ケトン食継続期間:0.5-8年
・発作再発13人(20%):中止後0-5年で.
・ケトン食再開した7人中2人が発作消失
・ケトン食再開せず,薬物療法開始した5人とケトン食再開で発作消失しなかった5人の合計10人のうち7人は薬物療法により発作消失
これをみると「80%の人はケトン食をやめた後も発作のない状態を維持している」ということがわかりますし,再発してしまった人もケトン食の再開で発作消失,もしくは薬物を少し足すことで発作コントロールできているという状況だということがわかります.
「ケトン食によって一度大きく増加したケトン体はその後多少制限を緩めても多くの場合ケトン体高値が維持されるのではないか」,という考えが私の頭をめぐります.ただそこにはそれまでのケトン食の継続期間や,個人の体質さが複雑に絡み合ってくるとは思います.
非常に面白い話だと思いませんか.
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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昨日の朝日新聞
昨日(10月6日)の朝日新聞に、全面広告ですが「てんかん」に関する専門家の話しがありました。
診断方法や治療法などが記載されていましたが、薬品に関しては記載されているものの、ケトン食については「ケ」の次も見当たりませんでした。
てんかんに関しても、糖尿病における糖質制限同様、ケトン食に対しては様々な「壁」があるのでしょうか?
Re: 昨日の朝日新聞
いつもコメントを頂き有難うございます。
> てんかんに関しても、糖尿病における糖質制限同様、ケトン食に対しては様々な「壁」があるのでしょうか? おっしゃる通りです。大きな壁があります。
てんかんのケトン食療法を臨床的に行っているのは全国的にみても一部の小児神経内科医のグループだけです。
神経内科医で成人へケトン食を応用している人はおそらくごく少数だと思います。
現在大多数の医師がてんかんの治療は薬物療法が第一と考えていますが、私は薬を飲まずにすむならそれに越したことはないと思っています。
これだけケトン食に関する確固たるエビデンスが出来てきているのに、極めて不思議な現象です。ここにもパラダイムがあると思います。
なお、このあたりの現実は、メリル・ストリープ主演の『誤診』という映画で極めてリアルに描かれています。ご存知かもしれませんが参考までに。1997年に制作された映画ですが、全く色あせていません。
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