慎重に減薬していかねばならない
2017/02/20 00:00:01 |
失敗学 |
コメント:6件
大病院で原因不明の不随意運動と診断され、
私が断薬サポートを行い、長年の不随意運動がものの1週間で改善したというケースを以前記事にしました。
しかしその後、この患者さんは睡眠薬を含めたベンゾジアゼピン系という薬の離脱症状としてのイライラ、焦燥感を生じ、
私の知らないところで救急受診され、別の医師の下入院になっているという事を後から偶然知るという事になりました。
私はこの患者さんの断薬治療に「失敗」してしまったのです。 「失敗」を共有する必要性を先日書いたばかりです。
今後に活かすために、この「失敗」を自分なりに分析し、そこから教訓を得ようと思います。
今回の患者さんには明確な断薬の意志がありました。
また私から断薬の後に予想される離脱症状も説明しましたし、その症状は永遠に続くわけではないので、
深呼吸や簡易マインドフルネスを駆使しながら乗り切るようにも指導しました。
さらに念のためにストレスを緩和する漢方薬も処方していました。
しかし、それでも患者さんは離脱症状に耐えきれず、結果的には救急外来を受診し入院され、再び薬を飲むという選択をしてしまったのです。
この「失敗」の原因はなんだったでしょうか。
ひとつは私がこの患者さんの離脱症状の程度を低く見積もり過ぎたという事があると思います。
長年飲んでいたベンゾジアゼピン系薬(具体的にはクロナゼパム0.5mg4錠)だったので、
一度に断薬するのではなく、1錠ずつ、場合によっては1/2〜1/4錠ずつと慎重に減薬し、長い目で断薬を目指すべきでした。
しかし、いかにも目立つ患者さんのグネグネとなる不随意運動、
早くこの苦しみから開放させてあげたく、断薬の意志が強かった本人の意志に沿って一気断薬に踏み切ったと言えば言い訳がましいでしょうね。
禁煙だけでなく、節煙も禁煙への方法として認めるべきとおっしゃった先生の言葉が胸に突き刺さりました。
もうひとつは私が漢方の効果を過信し過ぎていた、ということもあると思います。
今回、慢性化し精神症状も目立つ状況と東洋医学的診察の所見から柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)という漢方を選択したのですが、
最初の1週間の印象が良かっただけに安心しきっていましたが、
結果的にはこの患者さんのベンゾジアゼピン系薬の離脱症状を抑えるには力不足でした。
逆に言えば、単一成分で精神に作用する西洋薬の依存性がいかに強固なものかという事を痛感させられます。
そこから学べる教訓は何でしょうか。
ひとつは「たとえ本人の断薬意志が固くとも、長期間向精神薬を内服していた場合は慎重過ぎるほど慎重に減薬していく」
もしくは「どうしても断薬を希望する場合は離脱症状に対応できる入院環境を勧める」、
そして「漢方はあくまでサポート(特にまだ漢方の技術が未熟な場合)、漢方が無かったとしても成立する治療戦略を立てる」といったところでしょうか。
自分の恥をさらすようで、「失敗」を公開するのは正直まだ抵抗があります。
しかし、より良い医療を作っていくために、私はこれからも「失敗」から学び、
そして公平な場で「失敗」を公開し、その教訓を共有していきたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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患者さんにフォローしてください
Wagaです。
その患者さんへフォローしてください。
このままでは、最初に断薬を勧めたことそのものが失敗になります。フォローが大事と私は確信しております。
失敗を公開することが医師の責任ではありません。
何しろ、ベンゾは医師の無知のみによる医療過誤です。
Re: 患者さんにフォローしてください
コメント頂き有難うございます。
勿論引き続き私のできる事は続けて参ります。
私は責任逃れのために失敗を公開しているわけではないという事はどうか御理解頂きたく存じます。
No title
ベンゾジアゼピンの断薬自体は、良いことだと思います。
私は漢方も飲みましたが、それで断薬出来るようなものではないと痛感しました。一気断薬なぞしたら、社会生活が壊れます。
分子栄養学の世界も知った私なら、ビタミンミネラルを補いながら、1/16ベースで減らし、スピードアップ出来るようなら1/8にする位だと思います。ベンゾの離脱の強烈な肩凝り、不眠にマグネシウムが補えていたらもっと楽に断薬出来たのではないかと思っています。
応援しています。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
それまでどのくらいの薬にさらされてきたか、個人の薬剤に対する耐性、個人の思考パターン、ストレスマネジメントなど様々な要素が断薬の行く末に関わっています。
誰もがゆうさんのように減薬・断薬の方法を患者主導で考えていければよいですが、そもそもが医師に依存しており、していたからこその状況に追い込まれていた方が多いため、指導にもなかなか難しいものがあります。しかも実際の診療ではそれほどじっくりと時間をかける事ができない事情もあります。
他人はどこまでいっても他人のままで、医師は患者の気持ちを本当の意味で理解する事はできません。
少なくとも医師主導のやり方には限界があり、これからの医療は患者主導に切り替えていくべきだと私は考えています。
柴胡桂枝湯
http://shohei-clinic.com/so99-5.html
私は、風邪がこじれた時や筋肉痛、背中の痛みなど全般的な体調不良時に、頓服のように柴胡桂枝湯を服用しています。もう20年以上前に、近所の開業医(他界)が、「これ、試してみる?」と、気軽に勧めてくれて、それがぴったり合いました。今は娘さん医師が診療所を継いでいてその医師は、あまり漢方薬を勧めないのですが、御父上の処方なので快く継続してくださり、残薬が少なくなったら受診して処方してもらって、常備薬として置いています。けれども、精神安定剤のような効果もあることはまったく存じませんでした。
私はほとんど医者にかからないし新薬はめったに飲みません。アレルギー症状に小青竜湯、全般的な不調に柴胡桂枝湯で乗り切っています。しかもずっと服用するのではなく、症状が消えたらやめます。漢方薬は長期的にずっと服用しないと効かないというのは、私はウソだと思っています。
なお、私が飲んだ経験上、柴胡桂枝湯は胃腸にも効くと思います。万能薬ですね。
Re: 柴胡桂枝湯
コメント頂き有難うございます。
柴胡桂枝湯など構成生薬に柴胡を含むものを「柴胡剤」と総称しますが、
一般的には柴胡剤は精神に作用するものが多いと言われています。
その理由の一つに、柴胡の中のサイコサポニンという成分がステロイドと似た構造を持ち、類ステロイド作用を示す事が考えられていますが、それだけでは説明できない多面性が漢方の奥深いところです。
そして痛みと心の在り方には密接な関連がある事もわかっており、柴胡桂枝湯は心の問題を抱えつつ慢性痛を持っている患者さんに適している漢方薬ですが、必ずしも痛みの症状だけに使うとは限りません。私は今回それを向精神薬断薬の離脱症状予防に応用しようとしたわけです。
けれど結果的にはうまく行かなかったので、この失敗を次に生かさなければならないと思っています。
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