少ししかやらなくても、全くやらないよりはまし

2017/02/17 00:00:01 | ふと思った事 | コメント:3件

引き続き、江部先生講演会で感じた事を書き綴ります。

講演会の質疑応答の中で、糖質制限を指導していく上でのジレンマについて次のように語られる先生がいらっしゃいました。

「糖質制限が理論的に正しいのはよくわかる。わかるけれど全員が全員できるとは限らない。そうするとあっちではカロリー制限を指導し、こっちでは糖質制限を指導するという自分のどっちつかずの姿勢にジレンマを感じる」

これに対して江部先生は、アメリカ糖尿病学会の2013年10月の声明、「全ての糖尿病患者に適した"one-size-fits-all(唯一無二の)"食事パターンは存在しない」との内容を引き合いに出され、

カロリー制限も糖質制限も含め、ベジタリアン食、地中海食、高血圧用のDASH食など患者ごとに個別に様々な食事パターンがあってよく、

結局患者に選択肢が与えられて、患者が治療を選ぶという事が大事なのだという事を説明されました。

そしてその糖質の制限具合も患者さん毎に様々なパターンであってよく、どの糖質制限パターンでも「やらないよりはまし」だと考えればよい、というスタンスを強調なさいました。 1)スーパー糖質制限食:3食主食なし。1回の食事の糖質量10~20g以下
2)スタンダード糖質制限食:2食主食なし。昼か朝に1回だけ主食あり。
3)プチ糖質制限食:夕食だけ1食主食なし。朝昼は主食あり。
4)緩やかな糖質制限食:1回の食事の糖質量を30~40gとする。


糖質の特徴を説明した上で患者さんに自分の治療方法を選んでもらうというスタンス、

この江部先生の御意見には私も全面的に賛成です。

なぜならば相手は勿論、指導する自分にとってもストレスにならずに済むという、ストレスマネジメントの観点から重要だと考えるからです。

冒頭の質問をされた先生のように悩んでいらっしゃる先生方は他にも数多くおられるのではないかと推測しますが、

「患者さんに決めてもらう」というスタンスを貫けば、ある人にカロリー制限を指導し、また別の人に糖質制限をしていたとしても、

それは決して矛盾する状況とはならないのです。このあたりはアドラー心理学にも通じるところがあります。

すなわち他者の課題にむやみに立ち入らないことです。課題の所在は「その問題の結末を最終的に誰が引き受けることになるか」ということを考えればわかります。

できる限りの情報を伝えて、自分が勧める方法と異なる選択肢を相手が取ったとしても、その事によって被害を被るのは自分では決してありません。

それなのに自分のやり方に執着して、相手に自分の価値観を押し付ければ、新たな人間関係の問題を引き起こす種となってしまいかねません。

だから精一杯の事をしていたならば、他者の取った選択を「認める」という行為はとても大切なことになると思うのです。


もうひとつ、このお話しに関連して講演会終了後に興味深い話をされた先生がいらっしゃいました。

その先生は禁煙指導で豊富な経験を持っておられましたが、「タバコを止めるのに本数を減らすという方法も認めるべき」と主張されたのです。

一般的に禁煙指導は、「本数を減らす節煙ではうまく行かず、本数をゼロにする禁煙をすべきだ」との認識が医師の間で広く受け入れられています。

なぜならばタバコのニコチンには強い依存性があり、節煙という方法ではその強い依存性によって揺り戻しも強く襲ってくるからであり、その揺り戻しの力を禁煙によって最小にする必要があるからです。

しかしこの話を同じ依存性を持つ糖質に置き換えてよくよく考え直してみれば、

「糖質制限では生ぬるく、糖質はゼロにすべきだ」という主張と共通構造を持つ話になってしまい、

先ほどの患者ごとに多様な選択肢を認めるべきだという話と大きく矛盾する事になってしまうという事に気が付かされはっとしました。

確かにタバコを1日20本吸っていたのが、10本に減っただけでも受ける酸化ストレスの量は減っているはずです。

これは確かに一歩前進であるはずなのに、今まで私は「それではタバコを止めることはできませんよ」などと努力をないがしろにするような事を患者さんに言ってしまっていました。

本数を20本から10本に減らしてストレスマネジメントができている状態と、本数を20本から0本に一気に減らして大きなストレスを抱えているというのは意外と五十歩百歩かもしれません。

これからはタバコの害を理解し、それを少しでも減らそうとした患者さんの努力を、患者さんの選択を素直に認めるようにしたいと思います。

それが臨機応変な糖質制限指導にも通じると思うからです。


たがしゅう
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コメント

タバコは吸い方で調節できます

2017/02/17(金) 10:24:41 | URL | 宮下哲一 #-
タバコに関しては、吸いこみ方で体内に入るニコチン量を調節できるので、本数を減らすというのは、ニコチン依存症への対策にはならないように思います。副流煙等の害に関しては減る可能性が多いとは思います。

管理人のみ閲覧できます

2017/02/17(金) 11:30:07 | | #
このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: タバコは吸い方で調節できます

2017/02/17(金) 13:57:38 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
宮下哲一 さん

 コメント頂き有難うございます。

 なるほど、本数を減らせど、1本でたくさん吸えば意味なしという事ですね。

 本数を減らすという聞き取りだけでも見えて来ない実情があるという事も踏まえると、これは指導上なかなか難しい問題です。

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