不足分を適量だけ補う視点

2017/01/26 00:00:01 | 普段の診療より | コメント:0件

パーキンソン病がストレスマネジメント不足病だという見解を以前述べました。

先日重度のパーキンソン病で身体が固くなってしまい何もしゃべれなくなった寝たきりの80代女性を入院で診ていました。

それまでの経緯からパーキンソン病で不足するとされるドーパミンの補充薬やドーパミン反応を刺激する薬をたくさん使っていましたが、薬の量を増やしても一向に症状が改善せず、胃瘻造設を余儀なくされる状況でした。

それどころか熱をしばしば繰り返し、呼吸状態も悪くなり、消耗して栄養状態も悪化し全身もむくみ始めました。

最初誤嚥性肺炎を疑いましたがCTでも肺炎像は明らかでなく、炎症反応も乏しく念のために抗生剤を使用しても改善はなく、この熱や呼吸不全は別の所に起因する症状だと思われました。

治療効果が得られない状況が続き、いよいよ命が厳しいという事を家族に伝えなければならない状況となっていきました。

これ以上のドーパミン補充は人為的なストレス状態を悪化させるだけだと判断し、むしろそうした薬へ減量していく方向へ舵を切りましたが、

その対応だけでは病状の改善には至らず、悪い事態は依然として続きました。

そこで私はストレスマネジメント不足という観点に注目し、ストレスホルモンの代表格としてよく知られるステロイドの補充を行う発想を思いつきました。 パーキンソン病にステロイドを用いるという発想は一般的ではありません。パーキンソン病治療ガイドライン2011にもそうした記載はありません。

しかし私はもはや自力でストレスマネジメントを行う事ができない程に進行したパーキンソン病患者に、外部からステロイドホルモンを投与してストレス反応の肩代わりをするという事に一つの可能性を感じました。

そしてどのくらいの量を使うという目安は一切なかったため、私はヒトの身体で1日の間に生理的に分泌されるステロイドホルモン量とされる2.5~5㎎/日程度の量を参考にして、

プレドニゾロン5㎎/日を胃瘻から補充する治療を開始しました。

そうした所1週間くらいかけて熱、呼吸不全、浮腫の症状が日毎に改善していく経過を辿りました。

もともとの無動状態は相変わらずと言った所ですが、熱、呼吸不全、浮腫などの症状がコントロールできたことは本人、家族にとって価値ある出来事であったと思います。

ただ医学的にはステロイドには抗炎症作用、抗浮腫作用があるという事がよく知られていますので、

ステロイド使用によってもたらされた今回の結果自体は目新しいものではないかもしれません。

しかしここで私が言いたいのは、「パーキンソン病という病名の枠組みにとらわれていると治療の選択肢が狭まる」という事と、

もう一つは「ステロイドの補充量は本来このくらいで充分なのではないか」という疑問です。


というのは、他の神経難病に対してステロイドパルス療法と呼ばれる治療が行われる場合があります。

多発性硬化症(MS)とか慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)といった免疫が攪乱する病態の免疫を抑制する事を目的で大量のステロイドを点滴で投与する治療法です。

具体的には1回にメチルプレドニゾロン1000mgといった大量を用いるので、先ほどの内服療法の数百倍もの量です。

この治療、私もこれまでに何人もの患者さんに行ってきたことがありますが、確かに病態の火消し作業にはなります。

しかしなぜ1000㎎なのか、なぜこれほどまでに大量のステロイドを使わなければならないのかという事に関してはあまり考えた事がありませんでした。

それでステロイドパルス療法のステロイドの量の根拠について調べてみるのですが、どの資料にも明確な回答が書かれてないのです。

ステロイドの副作用は使用時間が長くなればなるほど、使用量が多くなればなるほど頻度が高くなる事がわかっています。

もし仮に1000㎎でなくても効くのであれば、私達はよかれと思って行っている治療で害を与えてしまっている可能性が出てきます。

保険診療で認められているから1000㎎を使うというのではなく、この患者さんにとって補うべきステロイドの必要量は?」という視点で考えない限り、「Do No Harm」とは程遠いと思わざるをえません。

これまでの自分がろくに考えずに行ってきてしまった事に対し自戒の念をこめて記事にしました。

今後は適切な薬の使用量というものを意識して、よりよい診療を心がけていきたいと思います。


たがしゅう
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