Post
脳の検査希望がすでに脳の疾患予備軍
日常業務の中で脳ドックを担当する機会があります。
だいたい40代〜60代くらいの年代の方が本人の希望か職場の勧めなどをきっかけに受けに来られます。
多くの場合、診察と頭部MRIの検査の結果説明を行うのがメインの業務ですが、
たいていは脳MRIには大きな異常は認められませんと説明する事がほとんどです。
しかし、実のところ「脳MRIに異常なし」=「脳疾患なし」ではないのです。
「脳MRIに異常なし」と説明すれば、脳ドック受診者も「安心した」と言って帰られるのですが、
ここで否定されたのはあくまで「脳の形態に変化をきたすような異常がなかった」という事に過ぎないのです。
例えば脳疾患の一つ、認知症で言えば、
最も多いタイプの認知症であるアルツハイマー型では、海馬と呼ばれる記憶に関わる脳領域が萎縮する事が知られていますが、
海馬が萎縮する前の段階から後部帯状回や楔前部といった脳領域の血流が低下する事があります。
つまり脳MRIでの見た目は異常ないけれど、血流には異常があるという段階が存在するということです。
それなら脳血流検査も脳ドックに入れればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、
脳血流検査(SPECT)は高額で、少し手前も時間もかかる検査なので、精密検査として位置づけられている場合が多いです。
しかも、もし仮に脳血流検査も実施して、検査正常であったとすれば脳疾患なしかと問われても、まだそうとは言い切れません。
なぜならば脳形態も脳血流も問題ない段階の脳の異常というものも存在するからです。
西洋医学的な病名で言えば、精神疾患とか自律神経失調症と呼ばれるグループがそれに当たると思いますが、
私に言わせればそれらはストレスマネジメント不足の状態です。
不安や恐怖などのストレスがかかり、自律神経の交感神経が優位になり、
ストレスホルモンを介して血糖値が上昇したり、心拍が上がったり、然るべき身体の部分の血管が収縮したりと全身的にいわゆるストレス反応が起こります。
その反応が一過性で治れば健康的ですが、ストレスマネジメントができずに長続きすれば、
自律神経機能がオーバーヒートしたり、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が無駄打ちさせられたりして、
糖質制限でも治すのが難しい振戦や耳鳴といった病態を引き起こす事につながります。
それならば自律神経機能やストレスホルモン値を調べれば完璧だと思われるでしょうか。
しかしそうした検査を行うのは安静臥床時です。実際の生活でストレスを受けるのは立ったり歩いたり走ったりいろんなことをしている時です。しかも自律神経やホルモン値は状況に応じて刻一刻と変化しています。
安静臥床時の自律神経やホルモン値が正常であった所で、実生活でのストレス反応が正しく働くかどうかの保証にはならないのです。
こうして考えていくと検査というのはどこまで行っても人間の一側面しか捉えられないという本質が、
ひいては科学の限界が見えてくるのではないでしょうか。
そもそも脳が心配だという不安から始まっているのだというのであれば、
その不安を自分の中で処理できずに脳の検査を希望するという時点で、
それはストレスマネジメントが自分でできていない事の裏返しであって、
ひいてはその事自体が脳の、あるいはストレスに起因するすべての病気のリスクを抱え込んでいるという事になるのではないかと私は思います。
それならば脳疾患にならないように私達がすべきことは、脳の検査をせっせと受ける事ではなく、
不安にうまく対処するストレスマネジメント能力を身に着ける方を優先すべきではないかと私は考えます。
たがしゅう
コメント