漢方の名医は糖質制限推進派だった
2017/01/11 00:00:01 |
漢方のこと |
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「浅田宗伯(あさだ そうはく)」という幕末から明治の時代に活躍した漢方の名医がいます。
幕府軍の洋風化に関わったフランス公使レオン・ロッシュの治療や誕生したばかりの後の大正天皇にあたる明宮嘉仁(はるのみや よしひと)親王を救ったことでも有名な漢方界の巨人です。
1815年6月29日生まれ、 1894年3月16日に80歳で亡くなられており、当時にしては長命であったことにも注目です。
2015年から2016年にかけては生誕200年という事で漢方関連の学会で「浅田宗伯」の名を目にする機会が多かったです。
本日は、そんな浅田宗伯が糖質制限を治療に応用していたという話を紹介したいと思います。 まず浅田宗伯の凄さは守備範囲が広く、非常に多くの患者さんを診て診療経験を積み、それを数々の書物に残したという所にあります。
浅田宗伯の治療経験集である「橘窓書影(きっそうしょえい)」や「勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」によれば、
消化器、呼吸器感染症などの内科疾患にとどまらず、産後の急変や乳腺炎、無月経、不妊症などの婦人科疾患、麻疹などの小児科疾患、脱肛などの外科系疾患、
他にも整形外科、皮膚科、眼科、泌尿器科、心療内科領域まで幅広く診ていた、まさに総合診療医でした。
全盛期の明治11年(1878年)、宗伯64歳の時にはなんと年間で三万人もの患者を診療していたことが記録に残っています。
今のドクターで60代でそれだけの患者を診てしかもそれを記録に残している医師がはたしているでしょうか。これだけでも浅田宗伯が想像を絶するほどすごい医師だったことがうかがえます。
一方で「橘窓書影」には次のようなことも書かれていました。
(以下、「橘窓書影」Ⅰ-50より引用)
日本橋通三街、小松屋徳兵衛、妻。反胃を患ひ数年愈えず、羸痩(るいそう)極まり自ら起臥する能はず。脈沈微、四肢微冷、腹中虚軟、時に酸水を吐し振寒す。
余、穀食を断じ、日々蕎麦餅(俗にそばがきと云ふ)少し許りを啖はしめ、楊氏丁香茯苓湯を与ふ。嘔吐漸く止み、精気稍や復す。連進半歳許り、皮肉故に帰し、平人たるを得たり。
(引用、ここまで)
読みにくいと思いますので、現代語訳にします。
(以下、引用文現代語訳)
日本橋通三通、小松屋徳兵衛の妻、嘔吐をくり返し数年間治らない。かなりやせていてひどく自分で寝起きができない。
脈は沈んでいてかすかにしか触れない。四肢は少し冷え、腹部は弱々しく時々酸っぱい水を吐き身体が振るえる。
私(浅田宗伯)は穀物を食べることを禁じ、毎日、蕎麦がきを少量食べさせ、楊氏丁香茯苓湯という漢方薬を与えたところ嘔吐は徐々に止まってきた。元気も回復した。半年間服用して体の肉も付いてきた。
症例は今風に言えばやせ型体質の人が食後に機能性低血糖症による血糖値の乱高下で嘔吐を繰り返しているような状況でしょうか。
このような患者を浅田宗伯は、糖質制限という概念が知られるずっと昔から、
穀物を断つことの効能に注目しており、結果的に患者に糖質制限をさせていたという事になります。
蕎麦がきはそば粉を水やお湯でねってお餅のようにしたものなので高糖質食品ではありますが少量使用に留めていますし、
一緒に使用した漢方薬も何かしらの良い効果を与えた可能性も高いと思います。
その漢方薬も良かったのかもしれませんが、浅田宗伯の功績の中には糖質制限が貢献した部分も結構入っているのではないかと想像する次第です。
一般的に糖質制限をしている人に漢方療法を行うと、漢方薬が効きやすいという傾向があります。
これは私自身も実感しますし、知り合いの糖質制限派の漢方医の先生からも同様の感想を聞きます。
浅田宗伯はまさにそれを200年以上も前から実践していたという事ですね。
宗伯のようなスーパージェネラリストを目指すのであれば、糖質制限も漢方療法も私にとっては外せない重要な治療手段です。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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養生訓より
今から300年前です。
飯の摂りすぎを戒めていた、江戸時代の儒学者で福岡藩の藩医でもあった貝原益軒(1630~1714年)の「養生訓」の一節です。
飯はよく人を養うが、またよく人を害するものである。
だから飯はとくにたくさん食べてはいけない。
いつもちょうどよい分量を定めておくことである。
量をたくさん食べると脾をそこね、元気を塞ぐ。
ほかの食物の過ぎたるものよりも、飯の過ぎたほうが消化が悪く大害がある。
(中略)
ご飯のあとでまた茶菓子といいて餅やだんごなどを食べたり、
あるいは後段(江戸時代に人をもてなすときに、ご馳走がすんだあと、
もう一度、ごちそうをだすこと)
といって麺類などを食べると、
腹いっぱいになって気を塞ぎ、食のために害される。
これは常の分量を過ぎたからである。
茶菓子・後段は予定以外の食物である。
少ししか食べないでもよい。
度をすごしてはならぬ。
もし食後に少し食べようと思ったら、あらかじめ飯をへらしておくがよい。
中公文庫/松田道雄訳
Re: 養生訓より
情報を頂き有難うございます。
賢人はいつも経験から大切な事を学び取っている事を示す好例ですね。
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