玉石混合の情報を取捨選択する
2017/01/05 00:00:01 |
お勉強 |
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本屋での健康本のコーナーを見ていると、
私が興味を持つ少食・断食について書かれている本を時々見かけます。
先日見かけて読んでみたのはこちらの本です。
無敵の「1日1食」 疲れ知らずで頭が冴える! (SB新書) 新書 – 2016/6/7
三枝 成彰 (著)
書かれているのは東京音楽大学客員教授で、オペラ作曲を中心に音楽に関わる総合的なプロデュース業を手掛けておられる音楽家の三枝成彰(さえぐさ しげあき)さんです。
三枝さんはニンジン・リンゴジュース断食の石原結實(いしはら ゆうみ)先生の指導の元、定期的断食や1日1食生活を取り入れて、365日ほとんど休みなく働いておられるというパワフルな方です。
少食・断食の良さを存分に活かしているようにお見受けするのですが、一方で指導者の石原先生は糖質制限反対派の医師です。
はたしてどのような事が書かれているのか、興味を持って読んでみました。
(以下、p63-64より引用)
【朝・昼・夕食はこう捉えよう】
朝食は「1日の活動エネルギーになるものだから、食べないと力が出ない」と刷り込まれていますが、それは間違い。
「昔から力士たちは朝食をひと口も食べないで朝稽古をする。朝食を食べないと力が出ないというのなら、力士たちが3~4時間の猛稽古に耐えられるわけがない」と石原さんは指摘します。
確かにその通りですから、朝食を食べないのが第一選択肢です。
それだと口寂しい場合は水分、もしくはニンジン・リンゴジュース、ショウガ紅茶を飲むようにします。
朝食を食べないと血糖値が安定してお腹はすかないはずですが、忙しく動き回っているビジネスパーソンは、
お昼あたりに何か食べたくなることもあるでしょう。あるいは同僚と連れ立って仕事をしていると、自分だけ昼食をパスするわけにはいかないケースもあるでしょう。
そんなときは基本的なエネルギー源となる糖質を含むそば、うどん、パスタ、ピザ、あるいはご飯が食べられる定食などを食べます。
とくにそばは、糖質以外にも体内で合成されない8種類の必須アミノ酸、動脈硬化を防ぐ植物性脂質、ビタミンとミネラルをバランスよく含んでいます。
そばのフィトケミカルである「そばポリフェノール」(ルチン)は血管を強くして動脈硬化を防いでくれますから、高血圧、脳卒中、認知症などの予防にもつながります。
そばやうどんに七味唐辛子とネギ、パスタやピザにペッパーソースを加えるのは、いずれも血流を促して体温を上げる作用があるため。
体温が下がると免疫力が落ちて病気になりやすいのです。
とくにネギには、血管を拡張して身体を温め、高血圧や心臓病を防ぐ働きを持つ「硫化アリル」、
高すぎる血糖値を適度に下げてくれる「グルコキニン」という有益なフィトケミカルを含んでいます。
(引用、ここまで)
この文章には正しい部分と誤っている部分とが混在していると私は思います。
少食・断食により精力的に活動できるようになった体験談には価値があると思いますし、理論にも一部は正しいものがあるとも思います。
しかし参考にしている理論が糖質制限反対派の石原先生の理論であるため、首をかしげたくなる部分も散見されています。
例えば、「朝食を食べなくても力士は力を出せる」とか「体温が下がると免疫力が落ちて病気になりやすい」という事についてはその通りだと思います。
朝食を食べなければ夕食後から睡眠を経て長時間の絶食期間が確保できるので、長持ちエネルギーであるケトン体中心の代謝になるため長丁場の稽古に耐えられるでしょうし、
体温が下がると免疫力が下がるというのも、先日の「温めることの意義」の逆を考えれば容易に理解できます。
一方で「糖質は基本的なエネルギー」とする解釈は、糖質制限の理論を理解できていれば前提が間違っているとわかります。
またあたかもそばには健康に役立つ栄養素が数多く含まれている万能食品のような書き方がなされていますが、
それぞれの栄養素がどれくらい含まれているかという情報は書かれていません。たとえ1mgでも入っていたら記載するというやり方には強固なバイアスがあると思います。
このような形で栄養を語る方法は、いくらでも自分の都合の良いような論理に組み立てる事ができるので、読む側は注意が必要です。
そもそも考えてみれば個別の栄養素を取り上げて全体の栄養を語ろうとするやり方は、「構造」を分解してしまう「逆構造主義」へとつながる考え方のような気もします。
例えば私は、鉄不足に対して鉄剤や鉄サプリメントよりも、鉄分を多く含む肉の積極的摂取を勧めます。
それは鉄分だけで補うよりも、ある種の「構造」を保っている食材で鉄分も含めて補う方が、複雑な「構造」を持つ人体の代謝へ無理をかけないで済むと考えるからです。
ただ、三枝さんが糖質を摂っているにも関わらず精力的に活動できているというのも事実です。
ということは、1日1食や断食でケトン体代謝に慣らされていれば、少々糖質を摂った所でさほど代謝は乱されないという可能性が示唆されます。
このように情報を読み解くには、自分の頭で考えて何が正しくて何が誤っているのかを取捨選択して理解する必要があります。
この本にはこれ以外にも考えるに値する内容が書かれていますので、また次の機会に紹介していきたいと思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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