仕事の目的を幅広く捉える
2017/01/01 00:00:01 |
おすすめ本 |
コメント:6件
あけましておめでとうございます。
私がブログを書き初めて4回目の元日を迎えました。
毎年元日は心機一転、一年を始めるにあたってふさわしい心構えが学べる本を紹介するようにしています。
今年まず紹介したいのはこちらの本です。
目覚めよ、薬剤師たち!―地域医療を支える薬剤師の使命 単行本 – 2013/11
鶴蒔 靖夫 (著)
医薬分業を推し進める先駆け的存在となった「ファーマシィ」という株式会社の武田宏(たけだ ひろむ)社長の理念が、批評家の鶴蒔靖夫(つるまき やすお)氏によってまとめられた一冊です。
武田社長の考え方は私の解釈で端的に表現すれば、「薬剤師の本来の在り方を思い出せ」というものです。 一度でも病院に行ったことがある方であればおそらく経験されていると思いますが、
今薬を処方された時はそのまま病院で受け取られるケースは少なく、一旦病院を出てどこかの別の調剤薬局へと移動しなければならない事がほとんどです。これを「院外処方」といいます。
院外処方が世に広まるようになったきっかけは1955年頃からサリドマイド事件やスモン事件に代表されるような薬害事件が続発してきた事です。
その背景として、当時医療機関は院内で薬を売る「院内処方」が主流で、それにより得られる薬価差益が収益の大半を占めていました。
しかも当時の医師の権限は強大で、薬価差益を得ようと薬をムダに投与する、いわゆる「薬漬け医療」が横行しており、一方の薬剤師にはそんな医師に対する発言権もなく、完全にバランスを欠いた状態が続いていたそうです。
「お金は人をダメにする」という典型のようなケースですが、こうした背景を元に様々な薬害を生じた事態を何とかしようと当時の厚生省が危機感を持って打ち出した対策が医薬分業、その具体策の一つが「院外処方」でした。
医者の処方と薬剤師の調剤を分ければ、仮に医師がとんでもない処方をした場合、薬剤師のチェックが入り危険な処方がなされるのを予防できます。
また国は積極的に院外処方を推進するため、院外処方を取り入れた医療機関に利益が出るように診療報酬改正を行いました。その最初が1974年(昭和49年)で、この年は医薬分業元年と称されています。
しかしそれでも院内処方で得られる莫大な利益を当時の医師達が簡単に手放すはずもなく、しばらく医薬分業は遅々として進みませんでしたが、
1990年代になって厚生省は医療費削減の一環として薬価の引き下げを行い、院内処方しても医師があまり儲からないシステムに変更させられた事によって医薬分業の流れは急速に加速、2011年時点で65.3%の医療機関が院外処方を取り入れるまでの状況となりました。
こうした医療改革の流れで薬剤師の立場は見直され、薬剤師は国民の健康を薬という観点から守る要としての役割が期待されるようになりました。
では実際に薬剤師の立場は向上したのでしょうか。
これに対して冒頭の武田社長は現在の状況は「薬剤師の本来の在り方からはかけ離れている」と主張されています。
少し長くなりますが、本の「はじめに」部分から一部引用します。
(p1-7より、抜粋して引用)
現代人の生活は、多かれ少なかれ「薬」とは無縁でいられなくなっている。
たとえば、病気になって医者にかかれば、たいていは薬が処方されるし、病院に行かないまでも体調不良と感じれば、
薬局やドラッグストアで一般用医薬品(OTC薬)を購入するなど、なんらかのかたちで薬に頼ろうとする。
わが国では、その薬を取り巻く環境が、ここ半世紀あまりの間に随分様変わりしてきた。
かつての薬局は"町の科学者"などと称され、地域の人たちにとっては健康に関する「よろず相談所」のような位置づけで、非常に頼りにされ、尊敬もされていた。
やれ子どもが熱を出しただの、ヤケドをしただの、何か困ったことが起きたら、まずは薬局に駆けつけたものだ。
しかし、ドラックストアの台頭により、むかしながらの"クスリ屋さん"は徐々に姿を消し、代わって1990年代後半以降、医薬分業により急成長を遂げてきたのが医師の処方せんを扱う調剤薬局だ。
さらに、ここにきて薬の販売方法にも新たな動きがみられる。
安倍政権は成長戦略の一環として、インターネットによる一般用医薬品の販売を解禁する方針を打ち出したのである。
いまではさまざまな取引がネット上で行われるようになったとはいえ、われわれアナログ世代からしてみれば、医薬品までネットで購入できる時代になったのかという驚きを隠せない。
日本医師会や日本薬剤師会などの業界団体は、安全性が確保できず、国民の健康を危険にさらしかねないとの理由から、ネット販売にはあくまでも慎重な構えだ。
では対面販売なら本当に安全といいきれるのだろうか。
実際、薬局やドラッグストアでOTC薬を購入する場面を思い浮かべてみると、われわれがかつて体験した古きよき時代の薬局と違って、はなはだ心もとない気もする。
本来ならOTC薬についても、薬の専門家である薬剤師が患者からの相談に応じ、適切なアドバイスのもとに販売されるべきだろうが、そうしたシーンはほとんど見受けられない。購入する側も薬剤師の存在すら意識していないのではないだろうか。
残念ながら世間一般が薬剤師に抱いているイメージは、「調剤室に閉じこもって調剤作業をしている人」というものだ。医薬分業が進み、調剤薬局が増えるにつれ、そうしたイメージがすっかり定着してしまった感がある。
薬剤師自身も、調剤作業が自分たちの仕事と思い込んでいる人が少なくないだろう。
処方せんどうりに正確かつ速やかに薬剤をピッキングして、できるだけ待たせないように患者に手渡す。しかし、それだけでは薬剤師としての専門性は発揮されず、患者に対し存在価値を示すことができないわけだ。
すでに調剤の現場では、さまざまな作業が機械化されているという。薬剤師がいつまでも調剤作業にばかりとらわれていたのでは、この先、機械化がさらに進めば、薬剤師不要論さえ起こりかねない。
薬剤師の本来の役割は調剤作業ではなく、患者にOTC薬を含めた服薬を指導して効果を確かめるとともに、副作用の有無をチェックすることにあるはずだ。
(中略)
こうした指摘は、当事者である薬局業界からもあがっており、本書で紹介する株式会社ファーマシィ(本社:広島県福山市)の代表取締役社長・武田宏氏もその一人だ。
(中略)
ファーマシィもいまでは中国・四国・関西圏・首都圏に74の薬局を展開しているが、大手調剤薬局チェーンのM&Aなどによる拡大路線とは一線を画す。
「薬剤師の業務の質が問われようとしているいま、優先させるべきは規模の拡大よりも、中身の徹底した充実です。むしろ規模が小さくても、どうすれば生き残れるかを考えたほうがいい。私が薬局経営に乗り出したのは、いい薬剤師を育て、地域に根ざした信頼される薬局をめざしたいというのが原点でした。その思いは創業以来、一貫して変わっていません。(※注:武田社長の弁)」
それだけに、薬剤師が単に調剤作業だけで満足してはいけないのだと、武田氏はことあるごとにいいつづけてきた。
「薬剤師は地域住民にとって健康相談のできる、いちばん身近な存在であるべき」というのが武田氏の持論だ。
そのためにも、薬剤師は調剤室を飛び出し、地域に根ざした活動に積極的に取り組んでいかなければならないという。
(引用、ここまで)
私はこの武田社長の考え方は好きです。
「もしかして薬剤師自身が薬剤師という仕事のイメージを自分の頭の中で制限し、行動をも消極化してしまっていないだろうか」という事です。
薬剤師の仕事を「調剤作業」と捉えずに、「薬を通じて人々の健康に貢献する仕事」と広く捉えれば、とるべき行動も変わってくるのではないでしょうか。
武田社長は薬剤師の仕事を調剤作業に留まるのではなく、「患者さんにとって健康相談ができる一番身近な存在であるべきだ」と主張されていますが、
この考え方をもっと突き詰めれば、薬剤師が食事療法にまで活動の幅を拡げていってもいいと私は思います。
なぜならば、この事は漢方薬を勉強しているとよく理解できますが、薬膳という言葉にも代表されるように食事療法と漢方による薬物療法には通じる部分があるからです。
「薬剤師は西洋薬を中心とした薬による治療の副作用、相互作用を起こさないように関わる仕事」という発想止まりでいてはおよそ理解できない事だと思います。
もっと言えば、こうした職業の概念を拡げる行為は、すべての職種に通じる話ではないかと思います。
アパレル産業を「服を扱う仕事」と捉えるのではなく、「ファッションを通じて人々に幸せを与える仕事」と捉えたり、
飲食産業を「食事を提供する仕事」と捉えるのではなく、「食を通じて人々の健康に資する仕事」と捉えたり、
清掃業を「掃除する仕事」として捉えるのではなく、「誰かができない掃除を代わりに行うことで誰かの助けになる仕事」と捉えたりするのです。
共通するのは、「貢献感」を持って仕事を捉える、という事です。そうすれば自分の心も変わるし、今まで見えなかったやるべき事も見えてくるかもしれません。
医師だってそうです。ただ「病気を治す仕事」と言えばその通りかもしれませんが、
その治療手段は西洋医学をベースに習ってきた私達は西洋薬、手術、点滴、リハビリなどの方法に頭の中が制限されていると思います。
ところが世の中にはそれ以外にも様々な治療法が存在しているのです。
病気を治すという目的のために手段を限定する必要はありません。治るのに役立つものなら医師として何でも学んでいけばよいのです。
それなのに西洋医学を中心とした現代医療の方法論に固執する在り方は、自分で自分の可能性を狭めている事に他ならないと思います。
私は鍼灸も勉強したいし、ヨガも瞑想も勉強したいし、音楽療法にも興味があります。それ以外に患者さんの役に立つ事は世の中にまだまだ存在していると思います。
従来の職種のイメージに捉われる事なく、
自分の立場で世の中に貢献するためにどうすべきかを広く考えるという気持ちで始める一年にしたいと思います。
本年も何卒宜しくお願い申し上げます。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
本年もよろしくお願い致します
本年も早々、先生からは重要なメッセージがあります。
もしかして薬剤師自身が薬剤師という仕事のイメージを自分の頭の中で制限し、行動をも消極化してしまっていないだろうか
最近、会社でも仕事が細分化、専門化してきており、自分たちの仕事の本当のあるべき姿が見えにくくなってきているように思います。自分の仕事は、ここだけでいいんだ、と自分の仕事を制限しているように思います。
今年一年、年初の先生からのメッセージを念頭に置き、様々なことに取り組んでいきたいと思います。糖質制限も自分なりにできる範囲で続けていきます。
よろしくお願い申し上げます。
Re: 本年もよろしくお願い致します
コメント頂き有難うございます。
世の中の人達がほんの少しずつでも仕事の幅を拡げて捉える事ができれば、大きな変化を起こすことができるかもしれないという願望も込めて年始にこの記事を書きました。
こちらこそ何卒宜しくお願い申し上げます。
iPS細胞のガン化
今年もよろしくお願い致します。
さて、記事の内容と関係なくて恐縮ですが、ご意見を伺いたいと思いました。
糖質セイゲニストの間では、ケトン体がガンを抑制することは広く知られていることだと思います。
細胞分裂を頻繁に繰り返しても発がんすることがほとんどない胎児のケトン体値が高値であることや、ケトン体値を高めることで治療効果が現れているビタミン・ケトン療法などもその良い例だと思います。
一方、iPS細胞を培養する際にガン化が起こりやすいと言われており、そのことが実用化の際の障害となっていたと聞いていました。
最近の報道では、何かの薬剤を使うことでガン化を予防できることをマウスの実験で確認できたそうですが、人間ではどうでしょうね。
そこで素人考えですが、iPS細胞を培養する際にケトン体を利用すれば、ガン化は起こらないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
恐らくiPS細胞の研究に携わっておられる研究者はケトン体の重要性に気づいてないのではないかと想像しています。
たがしゅうさんのご意見をお伺いできれば嬉しいです。
Re: iPS細胞のガン化
御質問頂き有難うございます。
> iPS細胞を培養する際にケトン体を利用すれば、ガン化は起こらないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
iPS細胞については私も素人同然ですから、あくまでも私の個人的見解という事でお答えします。
iPS細胞であろうと細胞は細胞、細胞は「解糖系を過剰に駆動させるより仕方のない状況」におかれた場合にがん化しやすいというのが私の考えです。その状況の一つが糖が周りにふんだんにあるという状況です。
そこに糖よりもケトン体の方が圧倒的に多い状況を作れば、確かにがんの予防になるのではないかと考えます。
2016年4月22日(金)の本ブログ記事
「がんはどうしてできるのか」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-684.html
も御参照下さい。
はじめまして!
初めてコメントさせていただきます。
全国MS友の会東北支部の事務局をしています。
たがしゅうさんのような医師がおられることに、救いを感じます。
病気が少しでも楽になるのであれば、自然療法、漢方薬、鍼灸、断食、民間療法、何でもトライしてみることが大事だと思っているのですが、患者会での情報は現代医療からのものばかりです。
こういった患者会では患者さんの為にならないと思い、東北支部では様々な分野からの情報をお知らせしてはいるのですが……難しいです。
たがしゅうさんのような医師が、増えていっくれることを切望しています。
今年もたがしゅうブログ、読ませていただきます。
よろしくお願いします。
Re: はじめまして!
コメント頂き有難うございます。
私のような西洋医学に限界を感じている医師であっても、今の病院体制で多発性硬化症の患者さんを診る機会があれば、様々な事情から現代医療を提供しなければならないプレッシャーがかかる状況におかれます。実際には私以外にも水面下で糖質制限の重要性に気付いている医師は結構いると思うのですが、そうした医師が増えたとしても多くは大勢には逆らえず、なかなか状況が変わっていかないというのが偽らざる現状だと思います。
かくなる上は患者さん自身が西洋医学以外の治療について積極的に学び、そうした治療に自主的に取り組むという姿勢も同時に重要になってくると思います。特に糖質制限などの病院に行かずとも自宅で実行できる治療選択肢については、しっかり学んで自分の頭で考えて納得できれば是非とも実践して頂きたいと考える次第です。実践に際しての疑問や悩みに対してならば、微力ですし限界もありますが、ある程度このブログでも御相談に乗る事はできると思います。
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