「構造」で考える時の盲点
2016/12/13 00:00:01 |
偉人に学ぶ |
コメント:8件
「ヒトがビタミンC合成能を失ったのは野菜を食べる習慣を得たからではないか」という仮説に対して
我が師、夏井睦先生から畏れ多くもコメントを頂きました。
レヴィ=ストロースの構造主義を参考に導き出した私の仮説でしたが、この考え方には大きな盲点がありました。なぜ,ヒトはビタミンC合成能を失ったか。
「要らなくなったから」という可能性も忘れてはいけません。
そもそも「ビタミンCが必須栄養素」と言うこと自体が変なのです。だって,「水溶性で体内に蓄積できず,植物からしか摂取できない」ものが生存に必須な物質・・・なんて論理的に考えるとありえないです。
ビタミンCが豊富な植物を常に手に入れられたから,という説明はちょっと眉唾。
植物にとって葉はエネルギーを産生する「生きるのに絶対必要な」最重要器官ですから,動物に食べられないように毒物であるアルカロイドをためたり,食べられないように固くしたり,トゲを生やしたりしています。だから,どの葉っぱもたいてい不味いし食べにくい(そこらに生えている雑草を食べてみるとわかります)。私たちが食べている葉っぱは食べやすいように品種改良したものです。
先史時代人が私が考えるように昆虫・小動物が常食だったら,遊びながら10分足らずで一日に必要な蛋白と脂質が採取できます。そういう彼らが,なぜわざわざ不味くて食べにくいものを食べる必要なんてありません。まぁせいぜい,遊びで口に入れ,「苦い!」と吐き出すのが関の山。果実にしても原種はそんなに甘くないので,積極的に食べたのかなぁ,と思います。
知人の生化学者に聞いたところ,「必要なのは抗酸化剤。ビタミンCは抗酸化剤の一つにすぎないので,その他,抗酸化剤として機能する物質が体内で作れるようになれば,ビタミンC合成能を放棄しても不思議ないと思うよ」ということでした。
http://www.wound-treatment.jp/new_2015-01.htm#0124-06:00-3
壊血病の発症には常に糖質過剰摂取がセットになっている印象です。
それと関係あるかどうか不明ですが,酸化型ビタミンC(デヒドロアスコルビン酸)は細胞内に取り込まれて抗酸化剤である還元型ビタミンCになるそうですが,デヒドロアスコルビン酸の取り込みはブドウ糖と競合するんだとか。
まず私は、「ビタミンCは生命維持に必要である」という前提で「構造」を組み立ててしまいましたが、
夏井先生は「そもそもビタミンCは生命維持に必要ではない」という視点を、生物学的、生化学的な傍証から説得力を持って示して下さいました。
確かに、そんなに必要な物質ならみすみす合成能力を失うとは思えません。
例えば、グルタミン酸は非必須アミノ酸ですが、裏を返せば非常に重要な物質であるが故にヒトは合成能力を持っているとも言えます。
抗酸化剤としての役割であれば、ヒトにおいては例えば尿酸が強力な抗酸化剤なので代用可能です。
またビタミンC欠乏症の壊血病、この存在がビタミンCが必須だという考えを支持するものでしたが、糖質代謝ではなくケトン代謝優位であればそういう事が起こらない可能性も見えてきます。
ビタミンCとグルコースの立体構造が似ているという点からもこれらの役割は別の何かに取って代わられた可能性は確かに十分考えられます。
もしヒトの歴史上、約6400万年前ビタミンCが合成できなくなったというのと、合成する必要がなくなったというのでは前提が大きく変わってしまいます。
間違った前提で話をしまえば、せっかく「構造」に注目して考えても、スタートが間違っているので結論も間違ったものが導き出されてしまうという事になってしまいます。これは盲点でした。
今回の御指摘から仮説を導く場合は、生化学や生物学といった基盤のしっかりした学問からの事実をうまく使うべきだという事を夏井先生から教わりました。
夏井先生のコメントに私はうまく反論する事ができません。反論できないという事は妥当性が高いという事です。
やはり私はまだまだです。生化学、生物学は勿論、様々な分野についてまだまだ学んでいく必要があるという事を強く感じました。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
ビタミンCについて
Re: ビタミンCについて
コメント頂き有難うございます。
従来の常識に捉われないのとともに、いかに説得力のある仮説を立てて未知の領域を開拓していくかという事が大事になってくると思います。多方面からの分析ができるよう様々な分野の勉強をしていきたいです。気づきは適宜紹介して参りますので、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
Vit C が必須なモルモット
実験動物の中で唯一モルモットがVit Cを合成できません。この点にも説明をつける必要があります。
Re: Vit C が必須なモルモット
コメント頂き有難うございます。
> 実験動物の中で唯一モルモットがVit Cを合成できません。この点にも説明をつける必要があります。
確かになぜモルモットだけがそうなのか、不思議ですね。実は生存に関係ない進化の自然選択の結果なのでしょうか。この辺も従来の常識を疑っていく必要性を感じます。
(今更コメントしていいのかな…)
モルモットは人間の薬を作るための実験動物だから、人間と同じくV.Cを作り出せないようにしてあるんじゃないですかね。
あと、V.C大量摂取を勧める考えもありますがどうなんでしょうね?よく「動物達は病気になると人間換算で数10gのV.Cを生成するから、我々もそのくらい摂ったほうが良い」みたいに書かれていますが。
Re: (今更コメントしていいのかな…)
コメント頂き有難うございます。
> モルモットは人間の薬を作るための実験動物だから、人間と同じくV.Cを作り出せないようにしてあるんじゃないですかね。
モルモット自体は飼いやすいから実験用の動物に使われやすいというだけで自然界に生息する動物の一種です。別に人間が改造している動物ではないので、人為的にビタミンCを作れなくしているというわけではないと思います。
ただ、ではなぜそのモルモットがビタミンC合成能を失っているのかという点に関しては私の中でも未解決問題です。また何かわかれば記事にしたいと思います。
ビタミンC大量摂取は人為的な方法ではありますが、それがデフォルト(初期状態)だとは私は思いません。デフォルトを大事にするのが基本的な私の考え方です。
↓
飢餓状態だとミトコンドリアが増える
↓
持久力UP
↓
狩に成功
ビタミンc が必要なければ最高ですね
Re: タイトルなし
コメント頂き有難うございます。
生物の精緻なシステムは、ビタミンCを始め、単独の物質に依存する単純なシステムではないと私は考えています。
単独の欠損症のように見える出来事も、その背景にはシステム全体の何らかのエラーが潜んでいるはずなので、そこに目を向けなければただひたすら対症療法に終始することになってしまうので注意が必要だと考える次第です。
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