「教える」のではなく「考えてもらう」

2016/12/01 00:00:01 | ストレスマネジメント | コメント:0件

ストレスマネジメントは大事だが伝えるのが難しい、という話をしましたが、

本来こうした事を専門的に扱うのが、精神科や心療内科といった領域であると思います。

実際、精神科や心療内科が扱う治療の中に「精神療法」と呼ばれる治療法があります。

「精神療法」というのは、医師や臨床心理士などのカウンセラーが、「言葉」を使って患者の心に直接働きかけ、患者の苦痛を取り除いていく治療法のことです。

精神科を標榜する医師が一定の基準以上の時間をかけて患者さんの話を聞いたり、何かしらの提案をしたりすれば、それは保険診療で「精神療法」と認められ診療報酬が発生します。

では精神科や心療内科で積極的に精神療法が行われているかと言えば、そういうわけではありません。 私が精神科の実際を見たのは研修医時代、スーパーローテーションという制度で精神科を1ヶ月回った時の事ですが、

そのようにじっくり話を聞くという先輩精神科医の診療を見た事はありませんでした。基本的にはさっと話を聞いて薬を出す、その作業の繰り返しでした。

当時はその作業が患者さんにもたらす悪影響にまで考えは到底及んでおりませんでしたが、

今ならそれが真の意味で患者さんのためにはなっておらず、現代医療の都合によって行われている作業だという事がよくわかります。


精神療法に効果があるのであればそれは当然広まっていて然るべきですが、

診療報酬として認められているにも関わらず、その実精神療法が広まっていかない最大の理由は「時間がかかる」ということです。

すなわち現実問題として、精神科・心療内科を訪れるたくさんの患者さん達への診療をスムーズに執り行うためには、

時間のかかる精神療法を一人一人に行うというのでは物理的に実践不可能だということです。

かといって、薬を出す診療でよいかと言われればそうではないと、しかしそれしかないという所が精神科における問題の根深さです。

しかも上述の精神療法の定義には、”「言葉」を使って患者の心に直接働きかけ、患者の苦痛を取り除いていく”というような発想は、

まさに以前私が述べた相手をコントロールしようとする発想であり、それが容易にできないというのがストレスマネジメントの世界なわけですから、

仮に時間をかけて精神療法を行えたとしても十分な効果が得られるかどうかは不確かだという問題点まであります。


ストレスマネジメントを伝える事は糖質制限と並んで健康の柱になるというのに、

現実世界の中でストレスマネジメントを伝えるためのうまい方策を見つける事ができません。

一体どうするのが一番よいのでしょうか。完全に行き詰まりです。

こういう事態を打開する時のコツは、押してダメなら引いてみるという逆転の発想です。

つまり、ストレスマネジメントを相手に教えるのではなく、ストレスマネジメントを相手に学んでもらうという発想に切り替えるのです。

具体的には栄養指導のようなスタイルでストレスマネジメントを個々に教えていくのではなく、

全体講演会のような形でストレスマネジメントを学ぶ機会を提供し続けるというスタンスです。

この方法であれば、相手に合わせて指導内容を変える必要はなく、全体に対して汎用性の高い内容を伝える事で成立します。

そもそも受け身的な患者はそんな講演会に参加しようと思わないでしょう。

また参加した人の中で正解を教わる事を望むような受け身的な患者さんは、講演会の中で具体的な解決策を求めて質問されるかもしれませんが、

そういう人の質問には質問で返すようにします。具体的な解決策を相手が求めたとしても、決して自分からは答えを教えないようにします。

あくまでも与えるのは考えるきっかけです。具体的な解決策は患者さん自身に考えてもらうわけです。

そしてもともと能動的な患者さんであれば、講演会をきっかけに自らで解決策を見つけ出す事ができるかもしれません。そういうスタイルにすることで全体講演でありながら、繰り返していくことでオーダーメイドの解決策を生み出していく事も可能になるのではないでしょうか。

まだ私の頭の中の空想でしかないので隙も多いかもしれませんが、

引き続き正しいストレスマネジメントを伝える方策を考えていきたいと思います。


たがしゅう
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