生存には関係ない進化
2016/11/28 00:00:01 |
動物から学ぶこと |
コメント:3件
「日本人は欧米人に比べてインスリン分泌能が低い民族である」
「日本人はやせ型の糖尿病が多く、欧米人は肥満型の糖尿病が多い」
このように民族差について言及される場面を時折見かけます。
民族によって違いがあるという事は生まれつきの特質だという事で、これを理由に欧米で発表された薬の効果をみる医学論文の結果を日本人にそのまま当てはめてはいけないという論調もしばしば耳にします。
確かに遺伝的素因というものは存在すると思います。
しかしだからと言って日本人と欧米人は別物として考えてもいいものでしょうか。
遺伝的素因というのはその後のすべてを決めてしまう程決定的な要因なのでしょうか。
そもそも民族の違いというものはどのようにして生み出されたものなのでしょうか。 実はそれについて、今から150年くらい前にすでに言及していた天才科学者がいました。進化論で有名な「ダーウィン」です。
ダーウィンと言えば、当時仮説止まりであった進化論の信ぴょう性を圧倒的に高めた功績で知られています。
自らが著した書物『種の起源(1859)』の中で「自然淘汰説」を披露し、さらには多くの観察例や実験による傍証などの実証的成果によって、ただの仮説を理論のレベルにまで昇華させたのです。
その「自然淘汰説」の理論の骨子は以下の通りです。
1)集団の個体の中にはさまざまな変異がある
2)それが子孫に遺伝する
3)その性質を持つかどうかで残すこどもの数に差異が生じる
4)生存・繁殖が難しい競争状況であれば必然的にうまくこどもを残せる形質が広がる
この事から生物における進化は基本的に生存に有利な方向に向かっており、その結果が現在の生物達であるという考えが一般的になりました。
ところがダーウィンの論理展開は実はそこで止まっていませんでした。
「世の中には生存有利では説明できない進化の形がある」という事実を見過ごしていなかったのです。
その理由を説明するためにダーウィンが著したもう一つの名著が『人間の由来(1870)』という書物です。
この本で主に描かれているのは動物の性差です。
昆虫などの無脊椎動物から魚類から哺乳類まで、実に様々な生物の雄と雌の違いについて述べられています。
雄と雌という区別があるのはいいのですが、動物種によって雄と雌の表現型にあまりにも差があり過ぎることにダーウィンは注目したのです。
例えばライオンの雄で立派なたてがみがあるのにメスにはないとか、クジャクの雄は優美な羽を持ってるのにメスにはないとか、そういう違いですね。
同じ動物種ですから、同じ自然淘汰圧にさらされているはずなのに、どうしてそんな進化の違いが生まれるのかということです。
それを説明にダーウィンが考えたのが次の「性淘汰」という概念です。
1)配偶者の獲得をめぐるオス同士の競争
2)メスによる配偶者の選り好み
つまりは優秀なパートナーを獲得するために、
オスはメスに気に入られるように必ずしも生存とは関係のない進化を行いアピールし、
一方のメスはメスで、オスの中での表現型の違いを弁別し、自分にとってより好ましいオスとの交配を求めるというわけです。
確かにたてがみがどうであろうと、羽が美しかろうとなかろうと生存には全く関係ありませんが、お気に入りのメスの気は引く事ができるかもしれません。
「ヒトは見た目じゃない」なんて耳障りの良い言葉がありますが、動物界での現象を振り返れば「やっぱりヒトは見た目が大きい」という部分を認めざるを得ないと言えるかもしれませんね。
この話の延長戦上にあるのが民族の違いです。
おりしもダーウィンの時代は今よりも人種差別が深刻な時代でした。
黒人と白人は人種が違うどころか、種が違うかもしれない、もしかしたら黒人は人間ではないのかもしれないという思想の下、人種差別から奴隷労働へと実際につながってしまった歴史があります。
しかし、ダーウィンは自分の足で世界を見て回り、様々な人種の人達と接した実体験を経て、「彼らが人間でないはずがない」という想いを強固なものにしたのです。
だから黒人であろうと白人であろうとアジア人であろうと、皆同じホモサピエンスだというダーウィンの考えに私も賛同します。
しかし日本人に比べて欧米人は明らかに太っている人が多いというのもまた事実です。
もしも同じホモサピエンスだというのならここまでの違いが生まれるというのはおかしいという話になるでしょうか。
私はそうは思いません。
つまり「民族の差ではなく、生育する環境の違い、ひいては文化の違いが表現型の差を生み出す」という事です。
同じ遺伝的性質を持っているはずのピマインディアンがメキシコとアメリカで全く表現型が変わるという事実もその説を支持しますし、
この話は、遺伝要因よりも環境要因が重要という論へともつながっていきます。
私達は日本人以外の人達の中で起こっている事からも多くの事を学べます。決して対岸の火事ではありません。
もっと言えば、ダーウィンが真理を見抜いたように、動物界から学べることも非常に多いということです。
私は「日本人はインスリン分泌能が低いから・・・」という人の話をそのまま鵜呑みにはしません。
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
>日本人はインスリン分泌能が低いから・・・
仰る通り、確か「、この論文は、ブドウ糖負荷試験の量が日本人と欧米人で異なったいた」とどこかに書いてあった記憶があります。これが正しければ、日本人の耐糖能の低い根拠が全くなくなるのではないでしょうか。うら覚えで申し訳ございませんです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
>「ブドウ糖負荷試験の量が日本人と欧米人で異なったいた」とどこかに書いてあった記憶があります。
その事は確か東海大学の大櫛陽一先生が以下の本に明記していたと思います。
大櫛 陽一
間違っていた糖尿病治療―科学的根拠に基づく糖尿病の根本的治療
No title
情報を教えて頂きまして大変ありがとうございました。
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