アミロイドと2型糖尿病
2013/11/05 00:01:00 |
糖尿病 |
コメント:6件
先日,病理の検討会に出て教えてもらったことですが,
2型糖尿病で亡くなった方の膵臓を詳しくみると,膵臓のランゲルハンス島というインスリンを出すβ細胞がある大元の部分に「アミロイド」という異常蛋白が蓄積されていることがあります.
そもそも糖尿病で膵臓が障害されるメカニズムとしては「糖毒性」と「アミロイドーシス」の二つが考えられています.
高濃度の血糖に長期間曝されされればさらされるほど、「糖毒性」によってβ細胞がインスリンを産生する能力が失われていくとされています.
そしてもう一つの「アミロイドーシス」とは不溶性の線維構造を持った異常蛋白である「アミロイド」が蓄積される現象です.
そして,このアミロイドが蓄積する現象はなんと1型糖尿病の方ではみられない現象なのだそうです. 糖尿病でアミロイドが蓄積するメカニズムはこうです.
血糖値が上昇すると、膵臓ランゲルハンス島β細胞からインスリンが分泌される際に、同時にアミリン(islet amyloid polypeptide, IAPP)という蛋白質が分泌されます。
アミリンとは、37アミノ酸からなるペプチドホルモンで,主に膵β細胞で産生され,摂食抑制作用,胃排泄遅延作用,グルカゴン分泌抑制作用を有しており,
これらの作用でアミリンはインスリンと共に血糖値を下げるということが示唆されています。
そして高血糖状態が続くと、先ほどの「糖毒性」などによりインスリン産生量は低下していきます.
一方,アミリンにはプロアミリンという前駆物質があるのですが,
インスリン抵抗性があると,「プロアミリン」→「アミリン」への流れがうまく進まず,過剰に余ったプロアミリンが集合してアミロイドを形成してしまうのです.
では,なぜ1型糖尿病でこの現象が起こらないのかと申しますと,
1型糖尿病はインスリンの絶対的欠乏状態なので,インスリンもなければアミリンもないということになりますので,プロアミリンの蓄積も起こらず,結果的にアミロイドは作られないわけです.
従って病理の先生が膵臓ランゲルハンス島のアミロイドの存在をみた時には,
「この人は生前に1型ではなく,2型糖尿病があった」ということがわかるのだそうです.
なおアミロイドと言えば,認知症をきたす代表的疾患「アルツハイマー病」で蓄積される「アミロイドベータ」の存在が思い出されますが,
2型糖尿病でたまる「アミロイド」とまったく同一のものではないようです.
しかし形成過程に糖質が関わっているところは共通していますし,両者の起源は酸化ストレスと共通していることが示唆されますので,
やはり同じ系列に属する異常蛋白ととらえるのが妥当でしょう.
この他にもアミロイドには多様な種類がありますので,以下にアミロイドが関わる疾患群を示します.


なんと難治性疾患の代表格である「プリオン病」にも関係していることもわかっています(※狂牛病を契機に世に知られるようになった急速進行性の感染性疾患です).
そして「アミロイドーシス」は厚生労働省から治療費援助のための公費対象となっている特定疾患,いわゆる難病です.
アミロイドの生成の原因が酸化ストレスに端を発すのであれば,
糖質制限で酸化ストレスリスクを下げることは糖尿病の予防・治療に役立つだけでなく,
アミロイドーシス,認知症,プリオン病といった難治性疾患に対する治療としても応用できる可能性が考えられます.
たがしゅう
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プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
ちょっとというか、かなり驚きです。
しかも、そんなにアミロイドタンパクの種類があるとは思いませんでした。
凄くお勉強になります。ありがとうございます。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
ラ氏島アミロイド、私もこの度初めて知りました。
これでまた、糖質の害が様々な原因不明の病気に関わっているのではないかという考えが、一層強くなりました。
糖質って・・・・
糖質とか血糖値とかいうと糖尿病関係の関連において考えることが多いですが異常タンパクの形成過程において糖質が血管にストレスをあたえることにより関係してくるということは非常に参考になります。
よくはしらないのですが血糖値なりヘモグロビンA1cが良い(見かけ上だけではなく実質的にも悪くない)ケースでも血管ストレスがありこのような異常タンパク質が形成されているとしたらコワイものがありますね。糖尿病でないと(糖尿病の人でも)糖質気にしないことが多いですからね~
血糖値やヘモグロビンA1C以外でこういう兆候を把握することができる血液検査の数値のようなものがあるといいんですけどね~
Re: 糖質って・・・・
いつもコメントを頂き有難うございます。
> 血糖値なりヘモグロビンA1cが良い(見かけ上だけではなく実質的にも悪くない)ケースでも血管ストレスがありこのような異常タンパク質が形成されているとしたらコワイものがありますね。
そうなのです。
だから血糖値、HbA1cの値のコントロールはあくまで一指標であって、
グルコーススパイク、追加インスリン分泌をいかに避けるかということが本質的に重要なことだと思います。
> 血糖値やヘモグロビンA1C以外でこういう兆候を把握することができる血液検査の数値のようなものがあるといいんですけどね~
確かにそういう指標があれば参考にはなりますが、おそらく考え出せばキリがないと思います。
でも、それがなくとも、うまく行っているかどうかは自分の体が教えてくれるのではないかと私は思っています。
No title
遅ればせながら症例の一つになるかと思い報告させていただきます。
幼少時よりずっと痩せ形
現在39歳、162cm、39kg、BMI=14.9
人生の最大体重 48kg、BMI=18.3
先天性の腎不全あり。現在透析患者。
保存期腎不全の食事は、低蛋白、高calで
脂肪が健康に悪いとなんとなく思い込んでいたので、糖質中心の食事を行っていた。
元来食が細く無理矢理calを摂取していた形になっていたので、DMを警戒していた。
夏井先生HP経由で糖質制限を知り、上記の不安もあり半ば趣味で血糖測定を行っていた。
当初は食後BS<150程度でSMBGの誤差も考えれば正常範囲だろうと暫く血糖測定を行っていなかったが、(HBA1cは正常域)
透析導入後暫くして、食後になんだが体調が悪くなるのを自覚。BS160等を記録。(プチ~スタンダードの間ぐらいの糖質制限にて)
糖質100gの食事(腎不全用の弁当)負荷をかけてみたら2hrBS 246,3hrBS 372を記録。
透析患者は本来適応外だが自己責任でスタンダードからスーパー糖質制限に移行。
以後HbA1c,GA,2hrBSなど目標値を維持できている。
なお、糖質摂取量1gに対して2hrBS+2ぐらい上がる。
FBSは<95程度なので、ある程度インシュリン分泌能は保たれていると思われる。
他、幼少時より体力が無くすぐ息切れするため運動嫌いなのもDM発症を後押ししているかも知れない。
・基礎疾患による特殊事情
透析患者で蛋白摂取量を60g/日ぐらいに抑えざるを得ないので
その他のcalをもっぱらオリーブオイルで補っています。
朝に大さじ8杯120g=1080kcal摂るようにしたら日中空腹感に襲われることがなくなりました。
かなり特殊な(変な?)食事なので万人向けではないし長期予後もどうなるのかわかりませんが、
少なくとも食後血糖が抑えられて安堵しています。
・痩せすぎについて
糖質制限当初、保存期の癖で低蛋白+糖質制限にて、蛋白不足cal不足だったと思います。
その後蛋白↑、油でcal↑するも全然太らず、筋力低下(歩行速度の低下)も自覚していたので
蛋白摂取量を60→80-90gに↑するも、体重変わらずBUN↑・アシドーシスの増悪など検査値の悪化を見るのみだった。
話題の痩せ形DMとインシュリン分泌量ですが、
先生の考察通りインシュリン抵抗性より分泌不全の要素が大きいような気がします。
幼少時より、周りに比して小食(自分には量が多すぎて給食の時間が超苦痛だった)
米と芋を食べるのが苦手・空腹を感じたことがない。(初めて空腹感を感じたのは中学生時代)
栄養を摂取して血肉にする課程でなんらかの障害があるのではないかと考えています。
ただ、同じ炭水化物でも小麦(パン・麺類・洋菓子)は比較的摂取できていたので何が違うのか謎。
(小麦は米に比して含有蛋白が多いので(蛋白制限食では凄く問題になる)相対的に糖負荷が少ないのだろうか?)
>血糖値とHbA1cだけをみて糖尿病は問題ない,とか言っている医師はダメ
本当にそう思います。
現在の検診では初期DMをピックアップできないと思いました。
糖負荷BS300越えでも、FBSもHbA1cも正常域だったのですから。
>アミロイド
種類は違うようですが透析患者で問題となる物質ですね。
三価クロム不足で耐糖能低下が起きるようですし(IVH時など)
(透析で亜鉛流出するようにクロムも流出するんじゃ?という素人発想ですが)
非DM透析患者の糖尿病発症率はもしかして高かったりするのでしょうか?
長文失礼しました。
Re: No title
詳細な実体験報告を頂き有難うございます.大変参考になります.
> 糖質100gの食事(腎不全用の弁当)負荷をかけてみたら2hrBS 246,3hrBS 372を記録。
> なお、糖質摂取量1gに対して2hrBS+2ぐらい上がる。
> FBSは<95程度なので、ある程度インシュリン分泌能は保たれていると思われる。
基礎インスリンは保たれ,追加インスリン分泌が不十分ということなのでしょうね.
スーパー糖質制限食で大丈夫と思いますが,血清リンの値に注意する必要があります.
透析患者さんの糖質制限に関しては,こちらの江部先生ブログの過去記事が参考になります.
2012年10月07日(日)の江部先生ブログ記事
「人工透析中の糖尿人と糖質制限食について専門医のアドバイス」
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-2258.html
> 糖質制限当初、保存期の癖で低蛋白+糖質制限にて、蛋白不足cal不足だったと思います。
> その後蛋白↑、油でcal↑するも全然太らず、筋力低下(歩行速度の低下)も自覚していたので
> 蛋白摂取量を60→80-90gに↑するも、体重変わらずBUN↑・アシドーシスの増悪など検査値の悪化を見るのみだった。
やはり蛋白,脂質を増量しても,そう簡単に体重が増えるというものでもなさそうですね.
ただ根気よく続けていれば徐々に吸収効率(基礎インスリンでの蛋白同化作用)が改善してくるのではないかと私は考えています.
透析導入中であればある程度の蛋白増量は許容できるかもしれません.
BUN,アシドーシスの多少の増悪があっても,自分の症状に増悪がなければあえてそのまま続けてみるというのも一案だと思います.
> 幼少時より、周りに比して小食(自分には量が多すぎて給食の時間が超苦痛だった)
> 米と芋を食べるのが苦手・空腹を感じたことがない。(初めて空腹感を感じたのは中学生時代)
> 栄養を摂取して血肉にする課程でなんらかの障害があるのではないかと考えています。
> ただ、同じ炭水化物でも小麦(パン・麺類・洋菓子)は比較的摂取できていたので何が違うのか謎。
> (小麦は米に比して含有蛋白が多いので(蛋白制限食では凄く問題になる)相対的に糖負荷が少ないのだろうか?)
この辺りの実体験は非常に参考になります.そのような感覚なのですね.
米と芋を食べると血糖値の乱高下が起こり体調を崩していたために苦手だったのかもしれませんね.
それであまり食べないように無意識に自己防衛が働いて小食になっていたと考えることもできます.
小麦が比較的摂取できていたというのも糖質量が比較的少なかったというのであれば合点がいきます.
> >アミロイド
> 種類は違うようですが透析患者で問題となる物質ですね。
御指摘のように「透析アミロイドーシス」という病態があります.
透析膜で除去されない「β2-ミクログロブリン(β2-MG)」という物質がたまることが原因だと言われています.
一般的には10年以上の透析患者さんに発症すると言われていますが,個人差もあり2~3年で発症する場合もあるようです.
従って
「β2-MG上昇」→「透析アミロイドーシス」ではなく,
「β2-MG上昇」+「α(酸化ストレス↑,など)」→「透析アミロイドーシス」
である可能性もあると思います.
> 三価クロム不足で耐糖能低下が起きるようですし(IVH時など)
> (透析で亜鉛流出するようにクロムも流出するんじゃ?という素人発想ですが)
> 非DM透析患者の糖尿病発症率はもしかして高かったりするのでしょうか?
おそらく透析自体での微量元素喪失の問題と,腎臓病食の影響で起こりうる微量元素欠乏の問題と両方があると思います.
タイムリーなことに,亜鉛と糖尿病の関係を調べた研究のニュースを最近目にしました.
糖尿病発症における亜鉛の役割を解明
~肝臓でのインスリンの過剰な分解が糖尿病のリスクを高める~(順天堂大学)
http://www.nikkan.co.jp/newrls/pdf/20130919-11.pdf
こちらは興味深いので後日記事にしたいと思います.
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