理屈は後からついてくる
2016/11/03 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:2件
まだ世の中にエビデンスが出ていない事に関して慎重なスタンスをとる医師は世の中に多いですが、
慎重と言えば聞こえはいいですが、裏を返せば「臆病」です。事実を素直にまっすぐに捉える心があれば、たとえ今エビデンスがなくとも、丁寧に考え抜けば先を見通すことは不可能ではありません。
エビデンスがないと言えば、漢方薬はそういう批判をよく受けます。だから当たるも八卦、当たらぬも八卦の世界なのだと。
しかしそういう人は決まって漢方薬を使わない、もしくは余り使っていない人です。糖質制限とも似ていますが、やってみないとわからない世界というのは確かにあるのです。
「なぜそうなるかはまだうまく説明できないけれど、確かにそういう現象は起こっている」
こういう事を素直に認めることから始めるべきだと私は思います。
先日、それこそ漢方の本を読んでいたらこんなことが書かれていました。
漢方・中医学講座-漢方診療におけるQ&A
単行本(ソフトカバー) – 2011/2/1
入江 祥史 (著, 編集)
(以下、p2-3より引用)
ところで、西洋医学でも、つい最近まで(といっても100年少し前まで)、
インフルエンザ、コレラ、マラリアなどの現在で言うところの感染症は、ミアズマによって起こるものだと信じられていた。
ミアズマとは霧状の"悪い空気のようなもの"と考えられており(日本語では「瘴気(しょうき)」と訳されている)、淀んだ水すなわち湖沼、湿地帯で発生し、人体に吸入されると発病するのだと思われていた。
また、発病した患者もミアズマを発生し、周囲の人がこれを吸うと病気が伝染すると考えられていた。
話は脱線するが、疫学の父と言われるJohn Snow(1813~1858)の話をしよう。
ある年、ロンドンのBroad Street地域でコレラが流行した。
当時コレラは、ミアズマのように空気感染すると考えられていたが、Snow医師が細かく調査したところ、患者の出た家と出ない家とが同じ地域内に混在していることに気付いた。
これは空気感染説とは相容れないため、さらに詳しく調べたところ、感染源が水道であることを突き止めた。
さらに詳しく調べたところ、テムズ川の糞尿処理場近くから給水されていた特定の水道が感染源であることを突き止め、行政に働きかけてこれを閉鎖し、コレラの流行を阻止したという快挙があった。
なお、これはKochがコレラ菌を発見する数十年前のことであり、仮に感染症を起こす病原体が不明であっても、現象を真っ直ぐに捉えることで感染症の流行を抑えるという「適確な対策」を採ることができたことの証明である。
もちろん現在では、ミアズマ説は否定されているが、ミアズマを発生させそうな土地では、確かに蚊や原虫、カビなどが増殖しやすく、感染症につながるし、
ウイルスや細菌には人から人へと感染するものも多いから、ミアズマが存在すると考えても現象論的にはOKである。
以上のように、本質とはひょっとしたら違っていても現象には符合する説明、これが漢方理論なのかもしれない。
太陽は動いて見えるが、天動説と地動説のどちらが正しいのか、ほとんどの人にとってどちらでもよいことだが、それと似ている。
(引用、ここまで)
この文章は漢方理論の不確実性を、しかしだからといって無碍にできない価値をわかりやすく例えて説明した文章であるように感じました。
世の中には理屈やエビデンスがわからなくとも価値のある現象はいくらでも存在しているという事です。
やがて漢方理論のすべてが科学によって解き明かされる日も来るのかもしれませんが、
漢方薬の複雑な超多成分系の事を考えれば、それはまだ随分先の出来事のように私には見通せます。
そうなのだけれど、漢方薬によって救われている人が確かに存在しているのであれば、
理屈はわからずとも先人の経験を大切に、本質にあたらずとも遠からずの経験法則を使いながら病気の治療に利用していくというスタンスが大事なのではないかと私は思うのです。
そういう意味では、糖質制限にも共通するところがあって、
最近はあまり聞かなくなりましたが、糖質制限には長期のエビデンスがないという事でよく批判されてきました。
しかしそんな人には「現実を直視しましょう」と、私は言いたいわけです。実際に目の前の患者さんが糖質制限をすることで血糖値が下がっていますよと、
体調が良くなっていますよと、なぜだか花粉症やアトピー性皮膚炎まで治りましたよと、太った人はやせて、やせた人は標準体重に近づきましたよと、
そこにはエビデンスはありませんが、よくなったという確かな事実が存在しています。
しかし、エビデンスベースの考え方をしていると、不思議な事にそういう事実には目が向かなくなってしまうのです。
その事実を大事にして、なぜそうなったのかを考え続ける姿勢を持っていれば、
理屈は後からついてくると思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
いつもありがとうございます。
いつも大変読み応えのある記事を
公開して下さっていて、ありがとうございます。
エビデンスという言葉には
前から違和感を持っておりました。
お医者様の世界でいう「エビデンス」というのは
一体何を指しているのでしょうか?
グーグルで検索して調べてみても、ピンとこないのです。
たとえば、抗がん剤を投与されて
あっという間に弱って亡くなった方を
何人も知っています。
このような抗がん剤にはエビデンスがあり、
目の前の人が抗がん剤で苦しみ
亡くなっていくという事実は
エビデンスではないのでしょうか?
私は、医療の世界で言われる「エビデンス」
という言葉に強い不信感を持っております。
たがしゅう先生のように
「現実を直視しよう」という姿勢の
お医者様が増えて下さることを
切に願っております。
Re: いつもありがとうございます。
御質問頂き有難うございます。
> お医者様の世界でいう「エビデンス」というのは
> 一体何を指しているのでしょうか?
医学界におけるエビデンスとは、
突き詰めれば「何かと何かを比べた結果あるいはその集合体」です。
抗がん剤で言えば、「Aという抗がん剤はBという抗がん剤に比べてどうか」という調査の結果がエビデンスです。
しかしそれは生存率や無増悪生存期間などの言わば正の目標に対しての比較であって、副作用や有害事象のような負の目標についてどちらがどうと論じられたエビデンスは私の知る限りありません。
非常に重要な点を御指摘頂いたと思います。後日記事にさせて頂きます。
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