Post

        

漢方薬は次善の策

category - 漢方のこと
2016/ 10/ 26
                 
先日、とある漢方の勉強会に出席していると、

食事性低血圧(食後低血圧)」の話題がありました。

その名の如く、「食事をすることで、その後過度に血圧が低下する現象」のことで、

糖尿病パーキンソン病にも合併しやすい症候という事でもよく知られています。

この食事性低血圧、詳細な機序は不明とされていますが、ブドウ糖、次いで炭水化物が血圧低下作用が強いという観察事実が報告されています。

教科書的には確立された治療法はないとされていて、

大食やアルコールを避けなさいとか、少量の低炭水化物食を頻回に摂りなさいとか、

あるいは降圧剤を飲んでいればそれを中止せよとか、塩分保持のためにNSAIDsを内服させよとか、

挙句の果てに重症例では腸への血流を減少させるという目的でオクトレオチドというホルモン抑制作用のある誘導体を使いなさい、などと書かれていたりします。
            

しかし当ブログの定期読者の方ならもうすぐにお分かりのように、

「そんなことより糖質制限すればいいじゃん」なのです。

それが唯一の根本的解決法なのに、そこに目を向けないのは世の中の「炭水化物(糖質)は摂らなければならないもの」という常識の中で考えているからだと思います。

そして詳細な機序がわかっていないと言いながら、「炭水化物(糖質)の害」という視点にさえ注目すれば、食事性低血圧のメカニズムはかなりわかっているという事は以前も勉強しました

よしんばメカニズムがわかっていなかったとしても、ブドウ糖、炭水化物が血圧低下作用が強いという観察事実がわかっていながらそれを避ければよいという発想に行かないというのは、

同じものを見ていても、見る視点によってまったく気が付かない世界があるという事を強く感じさせます。


さて、話は漢方に戻りますが、先日聞いた発表では、その食事性低血圧が補中益気湯という漢方薬を使用したら改善したという内容でした。

補中益気湯は自律神経の改善作用がある事も証明されている漢方薬ですので、その辺りが奏功したのかもしれないと推測しますが、

漢方薬の多面的な作用はそうシンプルに理解することはできません。あくまでそういう側面もあるという理解に留めておいた方がいいのです。

さもなくば「補中益気湯には自律神経改善作用がある」と一義的に理解して、自律神経障害のある患者さんに一律に処方してしまえばどうなるかと言えば、たいていの場合は効きません。

話が違うじゃないかと思われるかもしれませんが、そういう所が漢方薬が信用されにくい一つの要因でもあるのですが、

漢方薬は西洋医学的なものさしで作られた薬ではなく、あくまで検査もできない何千年も昔の時代に五感をフルに使って得られた情報を指標にして創り出した薬です。

例えば補中益気湯なら「手足がだるくて、しゃべる声が小さくなっていて、目に勢いがなく、口の中に白い泡があり、食べたものの味がせず、熱いものを好んで、臍の近くに動悸を感じ、脈が大きく触れるも力がないような患者さん」に飲んでもらうとよいと昔の古典には書かれています(津田玄仙『療治茶談』より。たがしゅう意訳)。

結果的にその患者さんの自律神経機能を高めるということであり、間違っても「自律神経障害のある患者さんには補中益気湯が効く」ではありません。

こういうとそんなピンポイントな患者さんなんかいないじゃあないかと思われそうですが、それはその通りですが、それに近い患者さんに使えば奏効率が高まる、なぜならば経験的にそういう人達に効いてきたから、そういうのが漢方の世界なのです。


今回、「補中益気湯が食事性低血圧に効く」という情報を得たわけですが、これとて同じことです。

食事性低血圧の患者さんが来たからといって問答無用で補中益気湯を処方していればきっと当たるも八卦当たらぬも八卦の世界です。

食事性低血圧があって、上述の補中益気湯が効きそうな患者さんの特徴が多く当てはまるような人ならば効果があるかもしれません。それでも100%とまではいかないでしょう。

しかし糖質制限であればほぼ100%、食事性低血圧の症状を改善させることができます。原理的に食事性低血圧を起こしうる物質を身体に入れないからです。

だから私がもし食事性低血圧の患者さんを診たらまずは、何はともあれ糖質制限を勧めます

先ほど紹介のメカニズムも織り交ぜながら納得してもらえれば次から即座に実践してもらいます。このコースに入った人は食事性低血圧の根治を目指せます。

ところが、現実的にはすべての人が糖質制限を理解してくれるとは限りません。理解できない人にいくら糖質制限をゴリ押ししても無駄どころかストレスマネジメント的に有害にさえなり得るので深入りできません。


こういう場合の次善の策として私は漢方薬を利用するのです。なぜ西洋薬ではなく漢方薬かと言えば、漢方の方が自然のメカニズムを利用している率が高いからです。基本的に自然のメカニズムを利用していれば極端な事が起こりにくくなります

例えば、食事性低血圧に昇圧剤を使おうとすればこれは不自然に血圧を上げ続けますので、

低血圧が起こった時はいいですが、それ以外の時間帯も不要に血圧を上げ続ける事になります。しかも悪い事に食事性低血圧を起こしやすいのは高齢の自律神経障害をきたしている方です。

そういう方はだいたい血圧の激しい乱高下を起こしており、高い時には普段から血圧180-190mmHgとかだったりします。そんな状況に昇圧剤を使えば薬が原因で高血圧性の脳出血をきたす可能性さえ否定できません。

あるいはマニュアルに沿って、NSAIDsを使おうという事になれば食事性低血圧がうまく緩和されたとしても、抗炎症薬ですから細菌やウイルスなどへの免疫を働かせるのに不利になりますし、

NSAIDsを連用すれば胃潰瘍や腎機能障害、肝機能障害など様々な副作用をきたしえます。これでは食事性低血圧が治ったとしても割に合いません。

オクトレオチドに至っては、成長ホルモン、グルカゴン、インスリンの作用を強く阻害する作用を持っており、10%以上の患者に、頭痛、甲状腺機能低下症、刺激伝導系変化、消化器系症状(腹痛、嘔気、嘔吐、下痢、便秘等)、胆石、インスリン分泌低下、高血糖症、低血糖症の副作用をきたす事が知られています。その副作用の多彩さからもこれがいかに不自然な状況であるかという事が伺えます。

一方の補中益気湯は重大な副作用として間質性肺炎偽アルドステロン症、ミオパチーなどの記載はありますが、頻度不明レベル、即ち発生頻度が少なすぎて数値化できないくらいだという事です。

また補中益気湯が人によって効き方が異なるという多面的な作用を持つ事から考えても、一方向的な作用の西洋薬と比べて安全性が高い事は想像しやすいと思います。

このように言っていると私が漢方を積極的に推奨しているように感じられるかもしれませんが、

漢方薬はあくまでも妥協点、西洋薬に比べてマシと呼べるレベルのものであり、使わなくて済むならそれに越したことはないのです。

"本当はヒトにとって有害なものを取り除く方法が一番安全だ、しかしそれができない人にはせめて害の少ない薬で対応したい"



早く糖質制限をするのが当たり前の世の中になり、

社会の構造もそれに合わせて変化し適応していってもらいたいと願いますが、

理想通りにはいかない世界での困難に立ち向かうための、

具体的かつ実践可能な手段が必要です。


たがしゅう

関連記事

            
                                  

コメント

非公開コメント
        

糖質制限と漢方治療の併用について
はじめまして、参考になる情報いつもありがとうございます。
漢方は次善の策ということは、糖質制限をきっちり出来ている人は糖質制限のみで治療した方が良いということでしょうか?漢方薬は結構糖質が含まれていますし。
糖質制限をしっかりしたいのに、なかなかうまくエネルギー変換ができない場合には、漢方と糖質制限の併用も有効だということですか?
Re: 糖質制限と漢方治療の併用について
りんご さん

 御質問頂き有難うございます。

 概ね御指摘の通りです。
 付け加えるなら、糖質制限がきっちりできているにも関わらず克服できない問題がある人にも漢方の併用を私は考慮します。
 そして調子を取り戻したら再び糖質制限単独でのコントロールに切り替えていくのが私の基本的な治療方針です。

 なお御指摘のように漢方薬にも糖質が含まれますが、基本的な量は乳糖3.0g/日であり、後は多糖類の生薬が含まれているものを除けば許容範囲内であると思います。
続きです
ありがとうございます。少し相談になってしまうのですが、、、
内臓下垂で胃腸の糖化がひどく、食欲がなく全く食べられない、固形物を全く受けつけない、機能性胃腸症として処方された消化管運動改善薬も効かない、糖質制限で治したいが、鶏ガラスープやかつおだしはなんとか飲めるが、胃に水分が停滞しやすく量はあまり摂れない、ただの水さえ負担に感じるという症状です。断糖できたのがつい最近なので、すぐには糖の過剰摂取で疲弊した胃腸が動きだすとは思っていません。
漢方で、六君子湯よりもさらに著しい虚証に処方される四君子湯を服用しようか迷っています。
先生のブログ内容を拝見して自分でも考えていたのですが、
鶏ガラスープ+四君子湯 よりも、鶏ガラスープだけのほうが効率的だと考えてよろしいでしょうか?
Re: 続きです
りんご さん

 御質問頂き有難うございます。

 漢方の選択は自己判断しない方が無難です。
 お近くの漢方医に相談される事をおすすめします。

 あと糖質制限されて間もないのであれば、あまり結果を焦らないことです。
 時間をかけて胃腸の調子を戻していくスタンスも必要だと思います。
お返事
1週間前から全く食べられないのでフラフラで、歩くのもやっとでちょっと命の危険を感じています。だけど、一般の病院で点滴で糖を入れらるのは絶対いやです。
機能性胃腸症歴は7年なので、何年もまともな食事ができませんでした。タンパク質も野菜も消化できず、食べてもほぼ糖質だけ。そのため、年々消化機能がさらに衰え、今は胃が死んだみたいに動かなくなりました。力尽きたのですね。ですから、断糖して胃腸が動き出すまでに、半年とか1年以上かかるかもしれませんが、耐え抜きたいと思います。

漢方は、おっしゃる通りもう少し様子を見てから考えようと思います。漢方医の処方で何種類か服用していた時期もありましたが、その時は糖分を摂り続けていたので効果がなかったんだと思います。今までの処方から、自分の証はだいたい解っているのですが、もちろん次回試すとしても漢方医に判断していただくつもりです。

相談にお返事くださり感謝いたします。ありがとうございました。