読む人の気持ちになり文章を書く
2016/10/24 00:00:01 |
ふと思った事 |
コメント:4件
私はカルテを書く量が多い医者だとよく言われます。
医師になりたての研修医の頃からそうなのですが、その事は私の中で若干コンプレックスに感じているところでした。
というのも経験豊富な医師ほど余計な情報を排除しシンプルにカルテをまとめる事ができると、自分にはそれができないからだと考えていたからです。
それも医師経験を積めば次第に洗練されてくるだろうとも思っていましたが、10年以上経過した今でも私のカルテは他の医師と比べて長いです。
しかし最近は考え方を改めて、「それは必要のある長さなんだ」と思えるようになりました。 カルテの書き方としてはSOAPと呼ばれる方式を用いるのが一般的です。
SOAPはカルテの記載内容を4つのグループに分類したそれぞれの頭文字を表します。
S(subjective):主観的情報 (患者さんの訴えや様子から感じられる事)
O(objective):客観的情報 (医師が診察して得た所見や各種検査データ)
A(assessment):評価 (SやOを総合した結果導き出される診断や病態、問題点など)
P(plan):治療 (Aに対して行うべき治療方針、対処、解決方法)
この形式で書くと初学者でも比較的まとまった形でカルテを書く事ができると医学部教育の中で教わります。
今でも私はこの基本的な方法を遵守し続けているのですが、細かいところではいろいろと工夫をこらしています。
例えば、患者さんに「ごはんをどのくらい食べますか?」という質問をした場合、
「ごはんはちょんぼししか食べていません。」と答えられた場合、この返答はカルテのSの部分に書く事になります。
これに対して実際のカルテのSの部分にどう書くかですが、ある医師は「S)食欲不振あり」と書くかもしれません。
こういう風に書いていくとカルテはシンプルにまとまっていく事になりますが、私はあえてそれをせず、できるだけ患者さんが話した内容そのままの表現で、「S)ごはんはちょんぼししか食べていません」と書くようにしています。ニュアンスが大事だと思っているからです。
「食欲不振あり」はシンプルですが、それ故に情報量が少ない表現です。食欲不振という事以外の情報を何ももたらしません。
ところが「ごはんはちょんぼししか食べていません」と書けば、食欲不振という情報以外にも「自分は少ししか食べていない」、すなわち「過食の自覚はない」という情報も引き出す事ができます。
もっと言えば、その言葉をにこやかに言っているのか、落ち込み気味で行っているのかでは意味が全く違ってきます。
そういう客観的に捉えた情報をカルテのOの部分に書くわけですが、もしも先ほどのセリフをにこやかに言っているのだとすれば、むしろ「食欲不振なし」という風に捉えられる可能性があります。
さらにOに体重も記載し、もしそれが標準体重よりもずっと多い値だったとすれば、SとOを総合すると患者さんの現実逃避的な性格傾向が見えてきます。これをカルテのAに書くわけです。
このようにSやOの書き方一つでAが変わり、それに対応して当然Pも変わります。言わばSOAP方式は医師の思考過程を簡潔に示しやすいカルテの記載方法であるわけです。
SOAPをしっかり書く事はしっかりとした病態の評価を生み、ひいては適切なマネジメントにつなげる事ができます。だから私はカルテをいつもしっかり書くよう努力するのです。
私のカルテが長い理由はもう一つあります。じつはこちらの理由の方がもっと大事です。
今多くの病院では電子カルテが導入されており、私が勤める病院も御多分に洩れません。
一般の人にはピンと来にくい話かもしれませんが、電子カルテはデータの電子化により情報管理のしやすさをもたらしただけではなく、
電子カルテによって院内スタッフ間での情報の共有化が容易に図れるようになりました。それはもう紙カルテの時に比べると全然違います。
紙カルテの場合は、そのカルテのある場所に行かないとその情報にアクセスできませんし、
正直言って看護記録はたまに読んでもリハビリ療法士や薬剤師など他のコメディカルスタッフの記録は意識しない限りはなかなか見る機会を作るのが難しかったです。
一方、電子カルテは院内に設置されたパソコンのある所ならどこからでも患者さんのカルテ情報を確認する事ができますし、
日毎に医師だけでなくコメディカルのカルテ記録も併せて表示されるので自分がカルテ記載する時に他のスタッフの記録も確認しやすくなります。
自分が記録を確認しやすいという事は、裏を返せば「相手からも確認されやすい」という事でもあるわけです。
つまり私はスタッフの皆さんに自分のカルテ記事を読んで自分の評価や治療方針を分かってもらいやすいように丁寧にカルテを書いています。
ひと昔前は、年配の先生の、以前主流だったドイツ語の走り書きの紙カルテが読めずに苦労するという出来事もありましたが、
手書きからパソコンでの打ち込みになって読めないという事態は無くなりましたが、どういう考えの下にどういう診断でこの薬を出しているのかわからないという他医師のカルテはいまだによく見ます。発熱に抗生物質などというカルテはその典型です。
だから私はOで所見を英語の略語を使う事はあれど、AやPでは略語や通称などのわかる人にしか分からない表現は避け、たとえ長くなったとしても、誰が読んでもわかるというのを最優先に丁寧に書く、というこだわりを持っています。
そして今、ブログを書くようになり、読者の方々に伝わる文章を書くというために、
そうした経験の積み重ねが役立っているのかもしれないとふと思った次第です。
しかし、それでも長い文章にはまだまだ無駄が多いはずです。
ここから先は長くなり過ぎないようにし、それでも読む人に分かってもらうためにはどうすべきかを、
追求すべきステージに来たのかもしれません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
豚皮揚げを食べる会in京都、ご来訪ありがとうございました。
さらにモノマネまで披露して頂きありがとうございました。
時短クッキングでは利野先生のアシスタントもして頂きました。先生のマルチの才能には驚きました。
中でも二次会での夏井先生がたがしゅう先生への指南されていた時の真剣な眼が見れたのが良かったです!
本当にたがしゅう先生のことを大事に思われてるんだなと改めて感じました。
また春にも京都市で開催を予定しております。ご来訪よろしくお願いいたします。
Re: 豚皮揚げを食べる会in京都、ご来訪ありがとうございました。
コメント頂き有難うございます。
またこちらこそ先日はお招き頂き誠に有難うございました。
おかげ様で大変楽しい時間を過ごす事ができました。
夏井先生にもいろいろ教えて頂けて大変有難かったですし、そういう場を作って頂いた岸和田のセイゲニストさんには心より感謝申し上げます。
来年春も是非お邪魔させて下さい。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。
言葉のニュアンスは大事
私も身体を壊し、幾人もの医師たちと出会いましたが、「目線の低さ」は一つの評価基準です。
酷い人だと、不安な患者に対し「これは難病で、治りませんよ」「病変を見せて下さい」など、冷たい専門用語を軽々しく発する医師もいます。
医療現場では言葉のニュアンスってすごい大事だと思います。発する側も受け取る側も、本人のさじ加減一つで心の揺さぶりを大きくも小さくもできます。
これからも心の機微のわかる医師であり続けてください。
そしてたがしゅう先生に出会え感謝です。
Re: 言葉のニュアンスは大事
コメント頂き有難うございます。
人は人とのつながりの中で初めて幸せを感じるという事を忘れてはいけないと思っています。
という事は人にわかりやすく想いを伝えるという事は、自分が幸せになるための術でもあるということです。
世の中に難しい内容の話を難しく解説する人はたくさんいますが、
こういうブログ作業を通じて、「シンプルイズベスト」という言葉の重みを痛感している次第です。今後も精進して参ります。
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