減薬がよいとは限らない

2016/10/21 00:00:01 | 普段の診療より | コメント:2件

私は最近、糖質制限以外にもう一つの注目ポイントとして、

ストレスマネジメント」の事を意識して診療に当たるようにしています。

それはうまくストレスマネジメントしている人が長生きであったり、がんを克服していたりすることなどからも重要性はうかがえるのですが、

診療で失敗するケースの多くでストレスマネジメントの観点が不足している場合が多いと感じるからです。

例えば、もしあなたが医師だとして、診ている患者さんが昔からある得体のしれない高価なサプリメントを信じて飲んでいる場合、

診ている病気とそのサプリメントとが関係ないと思ったら、患者さんへそのサプリメントを飲むのを止めるよう勧めますか? ちょっと前まではそんなサプリメントはお金がかかるばかりで、業者に騙されているだけだから悪い事は言わないから止めなさいという態度を取っていたのですが、

「ストレスマネジメント」の観点で考えると、必ずしもそうするのが正解とは限らないかもしれないとも思えるのです。

というのも、仮にそのサプリメントがほとんど何の薬効も持たないただの粉であったとしても、

患者さんが効くと信じ込んでいると、薬効のない薬を飲んでも身体が症状を改善させる方へと働きかける反応を出す事があります。これを一般的には「プラセボ効果」と呼びます。

私がサプリメントを止めさせることは、まずこの患者さんからプラセボ効果の可能性を奪う事になりえるわけです。

別の視点でみれば、そのサプリメントは薬効の有無にかかわらずその患者さんにとってのストレス緩和剤になっているとも言えると思います。

また患者さんにしてみれば、医師によって今まで信じていたサプリメントを否定される事は、それ自体大きなストレスになるはずです。

その事がストレス性の様々な疾患のトリガーとなって、患者さんの症状を悪化させてしまうかもしれません。

さらに言えば、悪化した場合に「やっぱりサプリメントが効いていたんじゃないか」とクレームを受ける事につながってしまう可能性さえあります。そうなればドツボにはまってしまいます。

正論だけでは通用しない世界があるという事を学んでいく必要があると思っています。


この話に通じますが、私は糖質制限推進派であると同時に積極的減薬派の医師です。

できるだけ不要な薬は排除するように日常診療で心がけていますが、そうしていても患者さんの薬絶対主義は強固です。

あるいは複数のかかりつけ医がある場合、他所の医者の薬絶対主義も同様に強固です。痛み止めとかめまい止めとか下剤とかが漫然と投与され続けている事は無数にあります。

そのような状況の中で、いくら私が減薬に積極的でも実際にはうまく勧められないケースがほとんどでいつも頭を悩ませています。

そんな中、私が最近別の医師から引き継いだ92歳の男性の患者さんで、

めまいを理由に、とあるめまい止めの薬を何十年も飲み続けているという方と出会いました。

この患者さん御高齢ですが快活で非常に元気な方です。幸いこのめまい止め以外に飲んでいる薬はありません。

その時点で患者さんにめまいは全くなく、「この薬のおかげでめまいが治まっている」とおっしゃいます。

普通のお医者さんなら何も考えずに同じめまい止めを出し続けるのでしょうけれど、たがしゅうの場合はこう切り出します。

この薬は良い薬ですが、すべての薬には副作用があります。またお年を召されれば今まで大丈夫だった薬も効果がきつく出過ぎてしまうこともあります。落ち着いておられたら少しずつ薬の量を減らしていった方が体にはやさしいですよ。

そうお話しした所、患者さんは納得されてまず1日3回飲んでいためまい止めを1日2回に減らしました。

次の診察の時、めまいは治まったままで落ち着いていたので、続いてさらに1日1回へと減らしました。

その次の診察でもめまいの再発はなく、病状が落ち着いていたため、「大丈夫そうですね。ではそろそろお薬を止めてみましょうか。」

とお話したところ、急にその患者さんの顔色が変わり、こうおっしゃるのです。

いえ、それはよして下さい。もう年ですので。

このセリフを聞いて、私は直ちに考えを改めました。

この患者さんにとってはめまい止めがあるのとないのとでは大きな違いで、

めまい止めの存在がこの患者さんにとっての強力なストレス緩和剤になっている部分があると思ったのです。

1日1回のめまい止めなどに効果はないと他の医師に批判されそうですが、この患者さんにとってはストレスマネジメントの観点で十分意味のある薬になっていると私は思います。

なおかつ薬の有害性を最小限にする事もできたので、これはこれでこのまま様子をみるのもアリではないかと思った次第です。


医療が善意の押し売りになってはならないと思います。

常に患者さんとの対話の中で、相手の気持ちを考える想像力を働かせて

最善と思える方法を模索していきたいです。


たがしゅう
関連記事

コメント

素敵なお話

2016/10/21(金) 07:12:35 | URL | エリス #-
こんにちは。
なんだかさわやかな話だと思いました。
ほとんどライナスの毛布のような話ですね。
いつかその92歳の患者さんが、自分から、「先生、大丈夫そうですから薬を止めてみたいのですが?」と言ってくださるといいですね。
もしそうなったら、92歳の男子の成長の物語になりますね。

Re: 素敵なお話

2016/10/21(金) 07:29:19 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
エリス さん

 コメント頂き有難うございます。

> いつかその92歳の患者さんが、自分から、「先生、大丈夫そうですから薬を止めてみたいのですが?」と言ってくださるといいですね。

 本当ですね。

 私はただ静かに患者さんの流れを邪魔しないように見守り続けたいと思います。
 

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する