「触れる医学」を意識する
2016/10/15 01:00:01 |
普段の診療より |
コメント:2件
東洋医学では「冷え」という概念を重視します。
西洋医学的には診察で冷えを診たとしても、血行が悪くなっているとの判断で、
温めるようにと当たり前の生活指導を行うか、対処したとしてもプロスタグランディン製剤で血流改善を試みるくらいの選択肢しかないのではないでしょうか。
一方の東洋医学では、大きく分けて冷えの原因を4つに分けて考えます。
①血流不足(血虚)、②うっ血(瘀血)、③水分の偏在(水毒)、そして④消化吸収・新陳代謝機能低下(脾虚・腎虚)です。
そして①〜④のいずれかを東洋医学的な診察で見抜き、どのタイプかによって用いる漢方薬が違ってくるので、かなり冷えに対してオーダーメイドな治療を行う事ができます。
なぜ東洋医学の方はこんなにも冷えに細かいのか、それはとりもなおさず東洋医学が「触れる医学」だからではないかと私は思います。
東洋医学の治療法が生まれた数千年前は、今のように血液検査や脈波検査、動静脈エコー検査など行いようがありませんでした。
そうなると患者さんの症状を良くするためには、五感をフル活用して情報を集め、自然物を利用して対処するしか方法がなかったわけです。
先日の五感の一部に障害があると他の感覚が鋭敏になり鍛えられやすいという話にも通じますが、
当時の医師はそれこそとにかく必死で患者さんを見て、聞いて、匂いを嗅ぎ、そして「触れることによって」情報を集めようとしたはずです。
また自分が誤っても後方病院がフォローしてくれるという今ならあるような安心感もありません。そんな状況でなんとかしてほしいと患者さんに頼られた日には、きっと医者も必死に対応して然るべきだったと私は思います。
そういう決死の想いが込められた貴重な経験の積み重ねの結果が、今の東洋医学の「冷え」への対処の細かさに現れていると思うのです。
さて、糖質摂取と冷えにも関連があると私は以前記事にしました。
その理由は血糖値の乱高下で酸化ストレスを介して血流が悪くなることと、食事誘発性熱産生が高いタンパク質が取れなくなり代謝が落ちることが主なものではないかと考えています。
私は漢方診療を日頃から取り入れているので患者さんをよく触わる方の医者だと自分で思いますが、
かなり高頻度で気がつくのは患者さんの手が冷えている人が多いという事です。
そういう人には私はもれなく「おそらくタンパク質が足りません。肉をしっかり食べましょう」と助言するのですが、
先日診た糖尿病性腎症のある60代男性も御多分に洩れず両手にかなりの冷えを感じました。
よほどの腎障害でない限り、私はタンパク質を減らすより糖質を減らす方が腎保護への益が大きいと考えますので、
この患者さんにも同様に糖質制限とともに肉をしっかり食べるようにおすすめしました。
ところがこの方、すでに他院で栄養士から糖尿病性腎症に対する食事指導を受けられており、低タンパク食の観点から肉は控えるように指導されているとの事でした。
私の指導方針とぶつかってしまい、じっくり説得する時間も余裕もなかったため、その場は私が一歩引いてそれ以上肉の事は言わない事にしました。
せめてもとエネルギー不足にならないようにしてもらうために、生クリームやマヨネーズを多用し脂質でエネルギーを確保するよう簡易口頭指導をして外来終了と致しました。
終了後、ふと思ったのですが、
低タンパク食を指導した栄養士さんはその後指導がうまくいったかどうかをどうやって評価しているのでしょう。
指導内容を遵守していればそれでよしなのでしょうか。それとも主治医のカルテ記載を見てうまく行っているかどうかを確認しているのでしょうか。
うまく行っていればいいですが、行っていない場合に栄養士さんはどういうアクションを起こすのでしょうか。
そもそも栄養士さんは患者さんの手を触っているのでしょうか。
もしそれらの事が行われず、ただガイドラインに定められた食事内容をいかに遵守させるかという事だけで動いているというのであれば、それは目隠し運転のごとく危険な行為です。
そのやり方では、もしもガイドラインが間違っていた時に、善意で行なった事が結果的に害をもたらすことにつながってしまうからです。
実際、栄養のガイドラインが大きく誤っている事は糖質制限を通じて明らかにされてきたので、これはまさか起こらないだろうという話ではありません。
栄養士さんは医師の指示の下に動くという事が法で定められているので診察に当たる行為はできません。しかし手を触わるくらいならできると思います。
手を触り、低タンパク指導をする事でより手の冷えが悪化するのを感じた時、栄養士さんが指導を見直すきっかけになり得ないでしょうか。
あるいは触らなくとも東洋医学の診察の原則のように、相手の表情をよく見て、詳しく話を聞くのです。
そうする事で自分の指導が妥当であったかどうかをフィードバックできます。逆にそれをしなければ栄養指導とはあまりに無責任で医療者側の自己満足になってしまうのではないでしょうか。
五感を大事に、患者へ「触れる医学」だからこそわかる事があると思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
ところで、私は潰瘍性大腸炎にかかり7年になりますが、ここにきて断食や糖質制限の効果を感じ始めた次第です。単に腸に負担がかからないから、という単純なものでなく、治っていく感触があります。今後も続けていこうと思います。
今後も、拝読させていただきます。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
潰瘍性大腸炎を絶食療法(断食)で克服した経験が書かれた本では下記がわかりやすくておすすめです。
マンガでわかる「西式甲田療法」―
一番わかりやすい実践入門書 (ビタミン文庫) 単行本 – 2008/4/15
甲田 光雄 (著)
ここに糖質制限の理論も組み込むと、さらに病状がコントロールしやすくなるのではないかと思います。
2013年12月22日(日)の本ブログ記事
「難病を起こす体質と増悪因子」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-127.html
も御参照下さい。
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