共感覚は世界を豊かにする
2016/10/13 00:00:01 |
ふと思った事 |
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天才に多くみられる「共感覚」というものに興味を持ち始めています。
共感覚とは端的に言うと、ある刺激によって本来刺激されない周辺の脳領域も一緒に刺激されるという脳の過剰興奮性がもたらす現象です。
文字を見て色を感じたり、音を聞いて臭いを感じたりするのがその具体例ですが、
今日のテーマは、共感覚は鍛えることができるのかということです。
答えを先に述べれば「Yes」です。例えば、そろばんでの暗算を思い浮かべて下さい。
私自身はそろばんをしていなかったので想像で述べますが、あれは数字からそろばんの形をイメージして計算をします。
視覚野と計算に関わる脳の領域を同時に刺激し、素晴らしいパフォーマンスをもたらす、これは一種の共感覚利用ではないでしょうか。 また先日紹介した本、「天才の病態生理」によれば、アルフレッド・ビネ―という心理学者は、
音を聞くことによって色が見えるようになる「人工的色聴」は訓練によって鍛えることができると記載しているそうです。
さらに他にも興味深い文章が書かれていました。
(p101より引用)
ゴルトン(1883)は文字の色は人によって異なること、この性質に遺伝的傾向があることを指摘している。
そして「色と音が同時に連想される現象は大人ではごくわずかであるが、子供では不完全な形でではあるがかなりよくみられる」(p.147)と述べている。彼はこの現象によほど興味があったのであろう。
(中略)
共感覚については上記ゴルトンの著書がよく知られているが、この現象が古くから存在したことはいうまでもない。
ある盲人が見えるものについての光や色の名前を理解しようと努力してきたが、緋色という色を理解したと自慢した。そこで友人が緋色とはなにかと聞くと、その盲人はトランペットの音のようだと答えた。
と、1690年にジョン・ロック(John Locke)が書いているこの文章は、色・音の共感覚に関連した古い記載としてシトーウィック(1980)やクリッチリィとヘンソン(Henson)も原文を引用している。
(後略、引用ここまで)
ここでのポイントは二つです。
一つは、「こどもが持っていた共感覚の才能が大人になるとごくわずかになっている」ということ
もう一つは、「視覚を遮断された人ではそれ以外の感覚での共感覚が生まれやすいかもしれない」という事です。
共感覚が鍛えられるものだというのならば、なぜ大人になるにつれてほとんどの人で共感覚が無くなってしまっているのでしょうか。
それは五体満足に生まれた人達は恵まれたようでいて、それぞれの単感覚に頼りすぎるあまりに共感覚を使う必要性が乏しくその能力をさびれさせてしまっているからではないでしょうか。
人間の能力は使い続けてこそ高まるものです。廃用症候群からも学べるように、使わなければ衰えていくのは自然の摂理です。
一方で視覚や聴覚など身体感覚の一部が障害された方では、生きるために共感覚を鍛えてパフォーマンスを上げる必要性が出てきます。
共感覚を使わなくてもそれなりに生きられる健常者と、共感覚を使わなければ生存に不利になる障害者とでは、持っている感覚を研ぎ澄ましていく事に対する真剣味がかなり異なるのではないかと思うわけです。
そんなことを考えていると、世界的に有名な盲目のピアニストの辻井伸行さんの母、辻井いつ子さんのインタビュー記事を目にしました。
ダイヤモンド・オンライン
辻井伸行の母はどう息子の才能を見抜いたか
辻井いつ子
【第1回】 2016年10月10日
(以下引用、前略)
最初に断っておきたいのですが、私は伸行がまだ子どもだった頃、プロのピアニストにしようだなんて大それたことは少しも考えていませんでした。
私自身が音楽に関して素人でしたし、どこをどう見たら音楽の才能が分かるのか、見抜く術を持っていたわけではありません。
それでも、結果的に息子の伸行がプロのピアニストになって、世界中のお客様の前で演奏できるようになれたのは、小さな頃から「この子がこの子らしく生きるにはどうしたらいいのだろう」と考え、その通りの子育てを実践してきたその先に、道が拓けてきたということなのかもしれません。
(中略)
伸行が生まれて間もなく気づいたことは、かなり音に敏感な子だということでした。
掃除機や洗濯機といった「生活雑音」が鳴り出すと、火がついたように泣き出すのです。
今でこそ、鋭い聴覚の持ち主だから、人一倍音が気になったのだと分かるのですが、その当時は、伸行が泣き出すたびに、掃除や洗濯を中断しあやさなければなりません。泣き止まない我が子を抱きながら「泣きたいのはこっちよ!」と何度思ったことでしょう。
(中略)
生後8ヵ月を迎えたころ、私はあることに気づきました。
ショパンの「英雄ポロネーズ」をかけると、曲が盛り上がるところで決まって伸行が寝ている部屋のふすまがバタバタと音をさせるのです。
そっとのぞくと腹ばいになった伸行が、足をふすまに当てて全身でリズムをとりながら、バタバタと音をたてていて、しかもそのバタバタがCDの演奏と見事に合っていました。「伸行は本当に『英雄ポロネーズ』が好きなんだなあ」と、日々ほほえましく眺めていたものです。
ところが、あまりにも毎日聞きすぎるので、CDに傷がついて音が出なくなってしまいました。私は、もう一度あの喜ぶ顔が見たくて、同じ曲が入ったCDを買い直して聞かせたところ、まったく喜ばなくなってしまったのです。
「あんなに喜んでいたのに、どうしてだろう……。伸行の喜ぶ顔がもう一度、見たい」と思い以前のCDと見比べてみた時、思わず「あっ!」と叫びました。
最初に伸行が喜んで聞いていたものと、後から買ったCDの演奏者が違うのです。
でも、まさか、まだ話すことすらできないあの子に演奏者の違いが分かるなんて。半信半疑でCDショップに向かい、再び前のCDと同じブーニンが演奏したものを買い求めて聞かせると、再び足をバタバタさせて喜ぶではありませんか。
赤ちゃんだから飽きたのだろうと、あきらめていたら、それに気づくことはなかったと思います。
私の中の「まさか」は、この瞬間「確信」に変わりました。伸行が好きだったのは、「英雄ポロネーズ」ではなく、「ブーニンが演奏する英雄ポロネーズ」だったのです。
(後略、引用ここまで)
大変勉強になる記事でした。おかげで私の頭の中が少し整理されました。
辻井伸行さんの場合は視覚障害があるという条件とその子らしさを大事に育てた母親のいつ子さんの作った環境とがあいまって、
聴覚を中心に感覚を研ぎ澄まし、ピアノの触覚と融合して共感覚を鍛え抜くことによって、世界的ピアニストの才能が開花したという事です。
これは生まれつきの天才というよりも、後天的に天才なるべくしてなったように私には思えます。まさに見習うべき見本となる教育方法とさえ思います。
翻って、私達がいかに共感覚を使わずに単感覚で生きているかという事を考えさせられます。
また共感覚を引き起こす基盤となる脳の異常興奮性は、うまく使えばこれほどのパフォーマンスをもたらしうる事であるのならば、
そのトリガーとなる血糖上昇自体はあながち悪い事でもないという想いも改めて強まります。
問題はその血糖上昇が自然か不自然か、という事だと思います。
ここから私が学ぶのは、『不自然な血糖上昇をもたらす糖質の摂取を避け、身体的かつ精神的ストレスなどによる一過性のストレスに伴う血糖上昇は良しとする』ということです。
あわよくば今からでも共感覚を鍛える方法がないかも考えていきたいと思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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