がんを生み出す異常代謝環境
2016/10/12 00:00:01 |
素朴な疑問 |
コメント:8件
抗がん剤と呼ばれる薬剤群の中に「分子標的治療薬」というものがあります。
一般的な抗がん剤が細胞分裂阻害などの作用によって、がん細胞を殺す代わりに正常細胞も一緒に殺してしまう殺細胞性抗がん剤であるのに対して、
分子標的治療薬というのはがん細胞だけに特異的に出現するとされる分子をターゲットにしてがん細胞を死滅させるというコンセプトで開発された薬です。
そのため、分子標的治療薬が初めて市場に出た時は、それまでの抗がん剤よりも副作用が少なくなるのではないかと期待されていたのですが、
現実はそんなにうまく行きませんでした。
週刊日本医事新報
No.4823 2016年 10月 1日発行
抗癌剤の副作用対策:分子標的薬の有害事象
門倉玄武(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科)
(p41より引用)
(前略)
分子標的薬は細胞の増殖シグナルを標的とするため、
従来の殺細胞性抗癌剤よりも高い選択性が期待され、当初、有害事象は軽微であると予測されていた。
しかし、薬剤が標的とする分子は正常細胞の分化誘導にも関連しており、実際は、殺細胞性抗癌剤とは異なる特徴的なプロファイルを持つ有害事象が認められた。
したがって、分子標的薬を使用するにあたっては、それによる有害事象のマネジメントにも精通している必要がある。
(中略)
(p47より引用)
【他科からのQuestion】
(中略)
Q. 分子標的薬は、殺細胞性抗癌剤より有害事象が軽いのでしょうか?
A. 一概にそうとは言い切れません。
分子標的薬が標的とするシグナル伝達経路は、正常細胞の増殖や分化誘導などにも原則的には不可欠であり、
それらが阻害されることで正常細胞も障害を受けるため、従来の殺細胞性抗癌剤とは異なる有害事象が生じます。
低分子チロシンキナーゼ阻害薬など内服投与される薬も多いため、殺細胞性抗癌剤より有害事象が軽いと考えられがちですが、
実際は多彩かつ重篤な有害事象を生じる可能性が十分にあり、殺細胞性抗癌剤とは「生じうる有害事象が異なる」というのが正しい表現となるでしょう。
したがって、分子標的薬投与の際も殺細胞性抗癌剤と同様に、しっかりと投与適正を検討する必要があります。
(引用、ここまで)
がん特異的な分子だけを攻撃したはずなのに、副作用の頻度も程度もこれまでの抗がん剤と大差ないというのです。
そもそも、これまでの抗がん剤のデメリットを克服しようとしてがん細胞の分子に注目したというのに、これでは本質的には何も変わりません。
むしろ今までの抗がん剤の使用の歴史からは予想困難な分子標的薬特有の有害事象であるという分、新薬使用時には一層の注意観察が必要になります。
どうしてこんな事になってしまうのでしょうか。当初の見通しが甘かったという事なのでしょうか。
それとも、がん細胞の標的となる分子をさらに細かく解析して本当にがん細胞だけにしか関わらない分子を発見して、それをターゲットにすれば理想の抗がん剤を作る事ができるのでしょうか。
ここで考えるべきは、がん細胞はそもそもどうしてできるのか、という事です。
一般的には遺伝子の突然変異によって細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)できなくなる事が原因だと言われてると思います。
一方でがん細胞は糖質とアミノ酸を主なエネルギー源として嫌気性代謝を回すことで生き続けている細胞です。
多くの人のがんに対するイメージは、何らかのきっかけで正常の細胞が、全く別の悪い性質を持った細胞に変貌してしまったものという感じではないかと思いますが、
もしかして、異常な代謝環境に合わせて正常細胞が適応して作りだした環境適応装置(あるいは装置のできそこない)だったとしたらどうでしょうか。
二つの発想は似ているようで大きく異なります。なぜならば、
前者のように考えていれば、がんにだけダメージを与えようという治療を考えると思いますが、
後者のように捉えれば、治療のターゲットはがんそのものではなく、がんを生み出す異常代謝環境の方という事になります。
「がん細胞というのは異常な代謝環境に適応するために自然発生したもともと正常細胞であった細胞」との認識があれば、
がん細胞に備わったシステムはすべて正常細胞由来、もともと正常細胞が持っていたシステムの変形あるいは不良品だと考える事ができます。
そうすればたとえ詳細にがん特異的な分子を見つけたとしても、その材料は正常細胞にも元々備わっていたはずです。
そうであるならば分子標的治療薬での経験がそうであったように、がんだけをやっつけようとする作戦ではどこまで行っても正常細胞もやっつけてしまうのではないでしょうか。
そういう意味でオートファジー阻害剤をがん治療に応用する治療戦略にも私は賛成できません。
今流行りの超高額の免疫チェックポイント阻害剤にも勿論賛成できません。本質的にはいずれも同じことです。
がんを悪者とするのではなく、がんを生み出す異常代謝環境に目を向け、
そちらを整えるのが本来進むべきがん医療の方向性だと私は考えます。
では、一体何ががんを生み出す異常代謝環境を作るのでしょうか。
ひとつ糖質過剰摂取は間違いないでしょうが、太古の昔にもがんは発生していたようです。
となれば原因はそれだけではないという事で理解を深めていく必要があると思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
こんばんは
読ませていただいております。
ありがとうございます(^^)
今日は、二つ質問があります。
がんを生み出す異常代謝環境は
糖質の過剰摂取の他に
どのようなことが考えられますでしょうか?
がん細胞だけを攻撃するものとして
ビタミンCを点滴する考え方がありますが
先生は、この治療法について
どのように思われますでしょうか?
以上、2点よろしくお願いします<(_ _)>
Re: こんばんは
御質問頂き有難うございます。
> がんを生み出す異常代謝環境は
> 糖質の過剰摂取の他に
> どのようなことが考えられますでしょうか?
例えば、がんサバイバーの精神状態が非常に穏やかである事から逆算して考えて、
ストレスから来るストレスホルモンの頻回過剰分泌状態はがん促進的な代謝環境を作る可能性があると思います。
2016年9月4日(日)の本ブログ記事
「難病を克服するメンタリティ」
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-721.html
も御参照下さい。
> がん細胞だけを攻撃するものとして
> ビタミンCを点滴する考え方がありますが
> 先生は、この治療法について
> どのように思われますでしょうか?
結果的にがん細胞だけを攻撃していますが、
行っていることは異常代謝環境の強制的正常化だと思っています。
個人的には実臨床での使用経験はまだありませんが、
講演会などで理論を学んだり、実績を聞く限りでは、なかなかよくできた治療法だとは思います。
No title
私も問題視すべきはガン自体ではなく、ガンを生み出す体内環境だと思います。免疫学者の安保徹さんも著書「人が病気になるたった2つの原因」の中で、ガンは「悪化した内部環境への適応反応」と述べておられます。にもかかわらず、西洋医学はガンを攻撃して死滅させることしか考えていませんね。
従来の糖尿病治療と同じで、うまくいってないのなら、考え方が間違っていると考えるべきなのに、相変わらず同じ考えの延長線を進んでいると思います。
少し話は変わりますが、研究者が「病気のメカニズムを解明した」というニュースの際に、必ず「新薬の開発につなげられれば・・・」というコメントをしますが、その前にすべきことは「予防法の確立」ですよね。お金にならないことには人は動かないことがよくわかります。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 従来の糖尿病治療と同じで、うまくいってないのなら、考え方が間違っていると考えるべきなのに、相変わらず同じ考えの延長線を進んでいると思います。
ですね。「押してダメなら引いてみな」的な逆転の発想が必要な場面ってあると思います。
> 「新薬の開発につなげられれば・・・」
> その前にすべきことは「予防法の確立」ですよね。
こちらも同感です。
そして優れた治療法は、そのまま予防法につながりうるものと思います。
ご参考までに
2016年12月2日
藤川 徳美医師のFacebookより
「ガンと診断された方へ、一年前とは世界が変わっていることに気付いて直ちに行動すべき
断糖食(ケトン食)+高濃度B+C点滴でガンは治る時代になった。
これが発見されたのが一ヶ月前。
飲水も出来なくなっていた末期ガン患者が歩いて退院できた。
凄い時代になった。
最大のポイントは断糖食(ケトン食)でケトン体を上げることに尽きる。
これは患者自身の自己学習が最も大切。
ガンと診断された方、宗田哲男先生、新井圭輔先生、西脇俊二先生、古川健司先生の本は必読です。
荒木裕先生、福田一典先生の本も読むべきです。
理解できなければ繰り返し読み、頭の中に叩き込むこと。
パラダイムシフト好きの外科医先生のブログも全て読むこと。
http://blog.livedoor.jp/skado1981/
水野先生のブログも全て読むこと。
http://ameblo.jp/naikaimizuno/
ビタミン・ケトン療法グループに参加すること。
https://www.facebook.com/groups/vktherapy/
自分のノート、生化学的に正しいがん治療~断糖食(ケトン食)+高濃度B+C点滴、がんは脚気+壊血病、も全て読むこと。
そして直ぐに行動することが必要。
手探りでも良いから断糖食を始める。
この段階まで来て初めて「断糖食(ケトン食)+高濃度B+C点滴」のスタート台に立てる。
このような治療は一年前には存在していなかったし、一年前にはこのようなことができるようになるとは想像さえしていなかった。
ネットで優秀な医師達と情報交換しているうちに急激に進歩した。
一年前とは世界が変わってしまったことに気付いて直ちに行動すべきだ。
行動を起こしたもののみ救われる。
当院でも、ケトン食を行っているガン患者のビタミン・ケトン療法を受け付けています。
ケトン体簡易測定器、B50、ベンフォチアミン、フソーC2g、すでに準備済み。
ただし、ケトン体が500に届かない人はやっても意味がないので行いません。
ガンは他人に治してもらう病気ではなく自分で治す病気。
ケトン体1000~2000に上げて、高濃度B+高濃度Cで治る。
注意)未だに、どの医者が良いのですか、どの病院が良いのですか、などと的外れのことを言う人はどうしようもない情報弱者、どこまで他力本願なのか。」
Re: ご参考までに
情報を頂き有難うございます。
ビタミン・ケトン療法、従来治療に風穴を開けている事は確かですが、それで全てが解決できる程甘くもないと私は考えています。傲慢さは医療の障壁、相手をコントロールしようとする発想にはどこまで行っても限界があるという事です。
管理人のみ閲覧できます
Re: もしかしたらご存知かもしれませんが
情報を頂き有難うございます。
いろいろな御意見も参考に、これからも私が考えた事を愚直に公開し続けたいと思います。
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