競争を意識しない生き方

2016/10/07 07:40:01 | 偉人に学ぶ | コメント:2件

ノーベル医学生理学賞を受賞された大隅良典先生の受賞直後の会見では名言連発でした。

急な会見であれだけの事が言えるということは、いかに普段から自分の考えをしっかり持っているかという事だと思います。

なんで?というのは科学の基本です

世の中にはわかっているようでわかっていないという事が結構たくさんあるということです

こども達に何とかなるさという気持ちでいろいろなことにチャレンジしていくという精神が伝われば嬉しい

"役に立つ"という言葉は社会をダメにする。最初からがんや難病の治療に役に立つと思って研究したわけじゃない。ゆとりをもって科学を支えられる社会になってほしい

そんな中、一番印象に残ったのは、大隅先生が、

もともと他人と競争するのが嫌いで、他人がやらない事をやろうとした結果、酵母の世界に目を向けたという話です。 受験戦争に象徴される詰込み型学校教育に象徴される競争心をあおる教育のやり方が批判され、

勝ち負けを決めずに自主性を重んじる教育の良さに注目した「ゆとり教育」という言葉が世の中を席巻した事は記憶に新しい話です。

しかしその教育で育った「ゆとり世代」が必ずしも高い学力や運動能力を発揮できなかったり、あるいは社会人としてのマナーができていなかったりということで、

今度はゆとり教育が再び見直されて、「脱ゆとり教育」なる言葉がマスコミに報じられてきている状況です。

しかし大隅先生はゆとり世代でもない世代で、競争心を意識しないゆとり世代的な生き方で今回ノーベル賞を受賞したわけです。

それを思うと、「ゆとり教育」は方針はよかったが、やり方が間違っていたのではないか、という気がしてきます。


この話を聞いて思い出したのは、哲学者ジャン・ジャック・ルソーが、

架空の少年エミールを教育する家庭教師が抱く理想の教育論について記した『エミール』という本のことです。「100分de名著」とう番組で学びました。



いろいろ興味深い内容が書かれている本なのですが、

この話に関連してルソーは次のような事を記しています。

(1)   自己愛は、すべての情念の源でありその根本である。自己を保存する自己愛は常によいものである。

(2)   自己愛が、悪い方向に変形していくと、「自尊心」になる。いつまでたっても満足することはできない。

(3)   自己愛が、良い方向に変形していくと、「他人への愛」になる。自分に対する愛があるからこそ、他人を愛することができる


つまりこの言葉は「自分を好きになる」ことから始める重要性を示していますが、

それをはぐくむ教育の過程で競争心をあおってしまうと自分を愛する「自己愛」がいつの間にか「自尊心」に変形していってしまう危険性を述べています。

自分の世界で好奇心を持って経験を積み重ね育っていく分にはいいけれど、

その過程の中で他者との競争を意識して、「アイツよりも能力が高いオレってすごいだろ」を追い求める感覚が育ってしまうと、

世の中には上には上がいるものなので、もっと高く、もっと高くと考え続けて、いつまでたってもその自尊心が満たされることはないという事なのです。

一方で自分の世界での発展を続けたらずっと独りぼっちなのかと言えばそういう事ではありません。それがまさに大隅先生の生き方だと思います。

つまり一人の世界に飛び込んで研究に没頭し続けていても、世の中というのは必ず社会とつながる仕組みを持っています。人間は一人では生きていけないからです。

しかし競争心を意識するのではなく、ただ自分のできる事を黙々と積み重ね続けて行く事で、

つながる社会への貢献を感じられ、自分への愛が他人への愛へとつながり、ひいては世界への愛へとつながっていくのです。

まさに大隅先生の生き方がルソーが「エミール」の中で記した理想の教育論が示したかった一表現型だったのではないかと勝手ながら私は感じた次第です。


同様の考え方はアドラー心理学の中にも出てきます。

それは人を「ほめてはいけない」という方針です。人をほめるという事はほめる者とほめられない者との間での優劣を作り競争心をあおるからです。

また、タモリさんの「友だちはいらない。諸悪の根源である」だとか、蛭子さんの「ひとりぼっちを笑うな」などの言葉にも通じる話です。

こうしてみると偉人というのは、時代も立場も全く異なる背景を持っているにも関わらず、

意識下にせよ、無意識下にせよ、人生を生きていく上で大切な共通原理というものを外していない人達であるように思えます。

複数の偉人に共通する思想や行動原理を学べば、自分が生きる糧にもなりそうです。

引き続き偉人から学び続けたいと思います。


たがしゅう
関連記事

コメント

2016/10/07(金) 21:35:07 | URL | ささ #-
いつも、素晴らしい記事を読ませていただき、ありがとうございます。

我が家には小さな子が4人いますが、できなかったことができたり、より上手になっていたりすると自然と「すごい!よくできたねー!」と言ってしまいます。
それもどこかで上から目線ということなのでしょうね。
子供と対等でいたい、と思いつつ、現実は難しいです。

日々勉強ですね。

独り言のようなコメントですみません。

Re: タイトルなし

2016/10/07(金) 22:00:10 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
ささ さん

 コメント頂き有難うございます。

 ルソーやアドラーは、ほめてしまうと「ほめられないことはやらない子になってしまう」という事を注意喚起しています。
 その代わりに「有難う」とか「助かったよ」とか感謝の意を述べたりするのが対等な関係作りに大事なのだそうですが、実際にはそれだけでは対応できないパターンなどもいろいろとあると思うので、各論は正直言って私もまだまだわかりません。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する