ジストニアと糖質制限
2016/09/28 01:00:01 |
糖質制限 |
コメント:2件
引き続き、豚皮揚げを食べる会 in 横浜での気づきについて書きます。
ピアノが上手である事で有名な夏井先生の主催する会という事もあったので、
参加者の中には夏井先生のピアニスト仲間の方もおられ、少しお話しをさせて頂きました。
その方自身は糖質制限の実践で長年患っていた花粉症がよくなったという事をおっしゃっていました。
それ自体は糖質制限実践者の間ではよく見聞きする話なのですが、話題は移りピアニストの中に局所ジストニアと呼ばれる職業病があるという話に移りました。
ジストニアというのは筋肉が自分の意図とは関係なく異常に緊張した状態のまま固定してしまう症状の事で、ピアニストの場合は鍵盤を弾くときの手の局所だけにその症状が出たりします。
その局所性ジストニアをきたすピアニストがきまって糖質ばっかり食べているので、もしかしたら糖質制限でジストニアもよくなるのではないかというご意見を伺ったのです。
おそらく糖質制限とジストニアの関係を論じた人は過去にいないと思います。曲がりなりにも私は神経内科医ですので、今回はこの問題について考えてみたいと思います。 まず、どうしてジストニアが起こるのかという病態生理についての定説ですが、
大雑把に言えば、脳の中で細かい運動調節を司る大脳基底核という部分における相対的なドーパミン過剰状態、それに伴う同領域の神経回路の興奮性の増大だと考えられています。
遺伝子異常やパーキンソン病治療薬の副作用など原因が明確なものもありますが、原因の同定が困難な場合も多々あります。
ジストニアに対する一般的な治療法は、過剰興奮した神経回路を抑制する内服薬や、異常緊張した筋肉を微量の神経毒で強制的に緩めるボツリヌス毒素注射の他、
外科的には電極を埋め込み電流刺激を加える事で神経興奮状態を解除する深部脳刺激術(Deep Brain Stimulation:DBS)や、手だけであれば視床凝固術などの選択肢があります。
しかし内服も注射も原因が特定されてなければいつまでも延々と使用し続けなければならない事になりますし、
外科治療は物理的な脳損傷でジストニアが治る以外の後遺症をきたすリスクを避ける事ができません。
そんな状況で糖質制限はジストニアにどうかという事ですが、
まず糖質摂取はドーパミン分泌刺激になりますので、糖質過剰摂取を頻回に繰り返す事で相対的ドーパミン過剰状態になることは十分起こり得る話です。
ただその影響は全身に及んでしかるべきなので、全身性ジストニアの原因にはなれど、ピアニストのように手だけという局所性ジストニアの原因としては根拠不足です。
そこでもう一つ、以前紹介した「パーキンソン病は利き手から発症することが多い」という論文の話を思い出してみます。
あの時利き手から発症しやすい理由を説明する仮説の一つは、「利き手は使用度が高いために黒質~大脳基底核~皮質のネットワークの代謝要求がより高く、酸化ストレスにさらされやすい」というものでした。
また過剰な運動は酸化ストレスを増やす事は一般的によく知られている事実です。
日常生活の手使いの運動負荷でもパーキンソン病を発症しうるのであれば、いわんやピアニストの指さばきをやです。
そしてまた糖質頻回過剰摂取自体も血糖値の乱高下、高インスリン血症を介して強烈な酸化ストレス源となります。
つまり糖質頻回過剰摂取しているピアニストは、その刺激によりドーパミンを無駄打ちし、強烈な酸化ストレスを加え、
その状況にピアノをひくのに手を酷使する状況が加わるため、局所において酸化ストレス量が自身の抗酸化能を上回ってしまい、
神経の過剰興奮につながり、局所におけるジストニアを引き起こしてしまうのではないかという仮説が成り立つのではないでしょうか。
ですので私とお話ししたピアニストさんがおっしゃるように、糖質制限がジストニア症状の改善に寄与する可能性は十分にあると考えます。
ただ一方で、ジストニアというのは言わば、「もともと備わった機能がオーバーヒートした状態」です。
機能のオーバーヒート状態は、一般的に治療抵抗性であることが多いと私は思っています。
具体的には不安症などの交感神経過緊張状態、耳鳴、本態性振戦などですが、いずれも糖質制限が効きにくい印象を持っています。
しかし理論上、ジストニアを改善こそすれど、逆に悪くする要素はありませんので、糖質制限をやってみる価値は十分にあると思います。
発症して間もない時期なら速やかな改善が得られるかもしれませんが、
たとえなかなか改善しなかったとしてもあせらずじっくりと糖質制限に取り組み続ける事が大事ではないかと私は考える次第です。
ここまで語りましたが、実は私自身は、
この記事執筆時点で糖質制限によってジストニア患者さんを治したという治療経験はありません。
もしも、これに関してブログ読者の中で御意見や御経験のある方がいらっしゃれば、コメントを頂けると幸いです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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ピアニストクランプ
お久しぶりです。
とある患者さんの声を思い出しましたので、引用させて頂きます。
引用
差出人 : 匿名希望
病名 : ジストニア(ピアニストクランプ)→全身に進行(私はまだ難病指定を受けていません)
————————————————
メッセージ本文 :
3つの願いがあります。
1.医療大麻の臨床研究、および処方が法律で許可される事。
2..ジストニアも医療大麻の適応症として、臨床研究、および処方が法律で許可される事。
(もちろん、生活保護等を受給されている患者さんにも適用)
3.そして可能なら、自分も医療大麻で治療し、
職業演奏者として復帰する事。
もしも2が無理であるのなら、
嗜好用としての大麻も法律で許可される事。
(ジストニアの患者が、法を犯さずに自ら治療出来るようにする為)
日本の現状において、2や3はなかなか難しいのかもしれませんが、
まずはこの3つを願っています。
URL(下記リンク)は、ジストニアの為に演奏が不可能になったピアニスト
(2004年当時38才)の症例だそうです。
(ドイツ・ハノーバー医科大学の研究)
http://cannabisstudyhouse.com/22_medical_research/22_recent_research_on_mmj/04_dystonia.html
医療大麻の成分(THC)を5mg投与後、わずか2時間で
技術が要求されるレパートリーの演奏が
再び可能になったそうです。
他、ウィルソン病(銅の代謝異常)によるジストニアも、
医療大麻の成分により、著しい改善がみられたそうです。
私もピアニストクランプと診断され、
脳手術を受け、一時は改善しかけたものの、
こわばりや痛みがあちこちに再発し、
車椅子が必要になったりもしました。
脳の再手術は不可能であり、
今までの処方薬は効果がみられず、
執刀医にも「一生このままです」と言われました。
私の他にも、症状の重い
ジストニアの患者さん達が沢山います。
一日でも早く、医療大麻が解禁される事と、
ジストニアにも適用される事を願っています。
引用終わり
一日も早く偏見と誤解が解かれ、法改正されますよう啓蒙活動をやっております。
Re: ピアニストクランプ
コメント頂き有難うございます。
糖質制限では解除しにくい生理的機能のオーバーヒート状態を医療大麻が回復できるというのは非常に興味深いです。
植物の持つ力の凄さを強く感じるとともに、こうした自然物をいかに上手に使うかが今後の医療の鍵を握るように私には思えます。
それにしても大麻は不思議な植物です。これだけ強力な作用を持っていながら神農本草経における上薬に分類されているわけですから。何かまだ私が気づいていない秘密がありそうなので引き続き勉強させて頂きたいと思います。
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