公平な情報公開を利用する
2016/09/17 16:05:01 |
ふと思った事 |
コメント:6件
ファッションモデルや俳優など、
テレビなどのメディアで他人から見られる仕事をしている方々は、
他人に見られるという事自体を仕事をする上でのモチベーションにしている部分があると思います。
裏を返せば、他人に見られているからこそ油断はできないというプレッシャーもかかっているだろうと思いますが、
これは仕事の上での「公開性」を有している事で、仕事の質を担保している状況ではないかと私は思います。
他人の目がある事で私達は「ズルいことはしてはいけない」という自制心が働く側面があるのではないでしょうか。
逆に密室の中で行われる仕事には「公開性」が乏しいために、
少々適当な事をしてもわからないであろうというズルさが生まれるリスクがあるという事になります。 私は自分の仕事のことしかわかりませんが、
医師と患者の診察の場は基本的に密室空間です。
看護師が診察に立ち会う場合もありますが、
病院によっては本当に医師と患者だけの間で執り行われるプロセスです。
そうなると診療の質はその医師の匙加減で大きく変動するリスクがあります。
医者がズルをしようとしているとまでは言いませんが、
医者も人間です。誰も見ていなければ適当に差し障りのない診療をしてぱぱっと終わらせてしまおうという考えの医者が出てきてもおかしくないという事です。
「公開性」の乏しさという点では医師自身も、
他の医師の実際について知る機会が乏しいという側面もあります。
私自身、他の医師が普段どのような診療をしているのかを知る機会はほとんどないので、
自分の診療技術が全体の中でどの程度のレベルに達しているのかを知る事はなかなかできません。
他の医師の診療の実際を知れるのは、せいぜい研修医時代や病院を見学した時くらいでしょうか。
ただ近年は電子カルテなるものが普及してきて、
複数診療科にかかる患者さんを通じて、他の医師の診察の実際をカルテ記事という文字情報で部分的に知ることができるようにはなりました。
他の医師や医療関係者すべてに見られるとあって、医師の側にもズルさを抑える抑止力が働きます。
一方で紙カルテの時代には、走り書きをする医師の文字は非常に読みにくいのにそれが黙認されていた状況がありましたし、
ましてや年配の医師だとドイツ語で記事を書いていたりするので、
診察を見るという意味でなくとも、診療を引き継いだりするのに非常に不都合がある極めて公開性の乏しい情報でした。
その意味で電子カルテの導入により診療の公開性は上がったと言えると思います。
ただそれでも電子カルテになってもカルテ記事を一行や二行しか書かないような強者医師も結構いますので、
電子カルテの抑止力がすべての医師に働くとは限らないという事が言えそうです。
また実際に見学するのと、カルテ記事だけ見るのとでは情報量に雲泥の差があるのは想像に難くないと思います。
その医師がきちんとカルテを書いているとは限りません。診療の実際を丁寧に書き記すかどうかはその医師の裁量次第という事になります。
公開性という意味では、たまに診察の場に音声を録音するICレコーダーを置かれる患者さんがおられます。
患者さんからすれば医師の話を復習してしっかり理解しようという努力の現れなのでしょうけれど、
診る側の医師の立場で言えば、小さな言葉尻を捉えられたり、何かあった時に訴えるための証拠にされたりするのだろうかと、
そういう目で見られているかと思うと、チャレンジングな治療法を提案しようという気は一気に失せます。それこそ無難で差し障りのない診療で終えようと思うものです。
ICレコーダーを置かれること自体は公開性を上げる行為ですが、
単に公開性を上げればいいという単純なものでもないという事がわかると思います。
診療の質を高めるのに公開性を上げるという方向性自体は間違っていないわけですが、
その公開性の上げ方に一工夫要るというわけなのでしょう。
そのための工夫が「公平性」になると私は思います。すなわち「誰も損しない情報公開の仕方が重要」ということです。
その意味でブログを書く事は「公平な情報公開」です。
私は診療の実際をブログに書き公開していますが、
それが全くのウソだとすれば、私はたちまち信頼を失う事になるので、
私には真実を書いた方がメリットがあるというインセンティブが生まれます。
かたやそうした情報を読む読者の側の視点に立てば、
ブログの情報が合っていると思えば取り入れればいいし、間違っていると思えばコメントで意見してもいいし無視するのも自由なので公平です。
そして私は叱咤激励を読者からもらいつつ、失敗や反省を繰り返し診療の質を高めていく事ができます。
私はこの視点を病院単位でも持つべきではないかと思っています。
先述のICレコーダーの例は、不公平な情報公開だから良くないのではないでしょうか。
医療に限らず、仕事の質やパフォーマンスを高める鍵は、
「公平なる情報公開」にあるように思えてなりません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
糖質制限ダイエット
先生は糖質制限で30kg痩せ、その後なかなか体重が落ちないと言っておられましたが、最近はどうなのでしょうか。
公開性という内容だったので、ずっと気になっているので、聞いてみました。
Re: 糖質制限ダイエット
個人情報の公開は不公平な情報公開なので、私の中でコントロールさせて頂きます。
ただ私の中で糖質制限で痩せ切らない壁があったという事は間違いありません。
No title
私は6年前に手術の事前説明を受けた際、横にいた妻がメモを取ろうとしたのです。そうしたら説明していた担当医に非常に嫌な顔をされ「それはやめてくれ」といわれました。やはり記録に残るのは嫌なものなのでしょう。
しかしその先生の執刀医としての腕は抜群で、「私が手術すればコップ一杯の出血くらいで済む」と言われて安心したものです(私はもし輸血になった場合のエイズ感染を恐れて質問したのです) 愛想はいまいちだったけれど、その先生に手術してもらってよかったと思っています。
私はブログを書くときに他人のプライバシーには非常に気を付けています。そのなかで自分だけでなく、他の人にも役に立てる情報になればいいなと思っています。自分だけの日記として書くのならば、あえて公開する必要はないわけですから。これからも頑張ってください。
No title
歯科の世界で正しい虫歯治療が行われたか否かは(その場では)誰にもわかりません。中途半端な状態で終了し再び痛みが出た方が保険点数が上がると恥じらいもなく豪語?する愚かな歯科医も居ます。1本の歯の中での出来事ですから患者側は相手を信用するしかないわけです。
又そこまで悪徳でなくても従来の虫歯治療そのものが本当に正しく患者にとって有用なのかという疑問もあります。それは私自身、歯科医のミスで今も苦しんでいる事があるからです。公正な情報公開されていれば、もっと早く回復していた可能性もあるわけです。
歯科医療における「公正な情報公開」とは何かな、と考えてしまいました
くんだみえ
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 手術の事前説明を受けた際、横にいた妻がメモを取ろうとしたのです。そうしたら説明していた担当医に非常に嫌な顔をされ「それはやめてくれ」といわれました。やはり記録に残るのは嫌なものなのでしょう。
確かにICレコーダーの例の延長戦上にある行為でしょうね。
医師と患者の考えが食い違う可能性のある瞬間とも言えると思います。
それでも信頼関係が成り立っているのであれば、御指摘のように安心材料となり問題はないと思います。
かたや「相手に任せる」という行為にはリスクをはらむという事も理解しておく必要があるとも思います。
> 私はブログを書くときに他人のプライバシーには非常に気を付けています。そのなかで自分だけでなく、他の人にも役に立てる情報になればいいなと思っています。
その点は完全に同意します。
公平なる情報公開になるように常に留意する必要がありますね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
歯科診療にも医療と負けず劣らず深い闇がありそうですね。
専門性の高さは心理的な密室空間を作ります。その密閉性を少なくするには、いかに治療内容を誰にでもわかる形で相手へ伝える事ができるかという事に尽きるのではないかと私は思います。
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