栄養の専門家はいかにあるべきか
2016/09/13 17:00:01 |
読者の方からの御投稿 |
コメント:10件
ブログ読者のあひる さんより、
「あまくない砂糖の話」上映会&幕内秀夫トークショーについての御報告を頂きました。
この映画に関しては以前私もレビューしましたが、単に砂糖だけではなく糖質全体の問題に切り込む良い作品だと感じました。
この映画のプロモーションのために映画関係者は、日本で砂糖の問題に切り込む第一人者として管理栄養士の肩書を持つ幕内秀夫氏に白羽の矢を立てたようです。
しかし残念ながらその人選は不適切であったと言わざるを得ないと私は考えます。
なぜならば幕内氏は砂糖の事は問題視していても、本映画で問題視している「あまくない砂糖(糖質)」を制限することに批判的な考えを持っている人だからです。
まずは、あひるさんから教えて頂いた、その幕内氏のトークショーの様子を御一読頂ければと思います。
先日「あまくない砂糖の話」上映会&幕内秀夫トークショーに出掛けて来ました。
(中略)
会場には若い(30代くらい)お母さん方が小さなお子様を連れての参加が殆どで、中年の夫婦は私たちくらいかな? でした。
最初に司会者の方(生後2か月位の赤ちゃんを抱いた女性)、学校給食をすべて米飯にしようと活動をされている方でした。
いきなり。 ご飯には砂糖が入っていません、パンには砂糖が入っているのでご飯を食べましょう! と言われ目が点になりました。
幕内氏登場
砂糖と油脂類の過剰摂取が悪い、「ドラッグ食」という本を出したとまず本の宣伝。
この映画はオーストラリアの話、オーストラリアに一番近い島沖縄も肥満が多い、沖縄は昔から豚肉を食べていたと言われているがそれはウソ! 主食は芋、野菜だったから長寿だった。
それが豚肉を食べるようになったので肥満が増えた。
オーストラリアの主食はパン、パスタ等。
パンには見えない砂糖が沢山入っている、砂糖を使うととパンの色がキレイになる。
日本の主食の米、うどん、そばには砂糖は入っていません。
調味料には食品添加物が入っているので沢山の添加物が書かれている。
沢山書いてないものを買いましょう。
米には添加物は何も入っていない。
カタカナ食(パン、ハンバーガー、ドーナツ)にはカタカナ調味料(マヨネーズ、ケチャップ、ソース)が合う。
カタカナ調味料には砂糖がいっぱい入っている。
日本食は砂糖や油脂が少ない。
たとえ煮魚に砂糖が多く入ってもたいした問題ではない!
米飯給食にすると砂糖や油脂の過剰摂取を防げる。
遺伝子組み換え食品やポストハーベスト、農薬も添加物も減らせる。
自分は全国の学校、幼稚園、保育園を米飯給食にどんどん変えてきている、規模の小さい園は園長が賛同してくれればすぐに変わる。
続いてQ&A
Q・どんな砂糖を選んだらいいか
A・砂糖は基本使わない。 みりん「、日本酒がいい。
三温糖はカラメルで着色してある。
蜂蜜は白砂糖から作られているものもある。
Q・希少糖が入っているものを買っているが希少糖って何でしょうか
A・希少糖??? 知りません・・
会場に問いかける、希少糖を知っている人はいるかと・・
歯科医の方が手を揚げ、自分も詳しくは知らないが、四国の大学が見つけたもので、体にはいいが大変高価なもの、と答えられた後の幕内氏。
A・そんな高いものは使わない方がいい。
Q・自分は走る前にスポーツドリンクを飲んでいるがどのスポーツドリンクがいいのか。
A・スポーツドリンクより水がいい。
乳児用のドリンクがある。
粉ミルクに混ぜないでと書いてあるが、ずっとミルクに混ぜて飲まされてい た子が死んだ。
以上がトークショーでの様子でした。
科学的根拠はまるでナシ!
突っ込みどころ満載。
この話を熱心に頷きながら聞いているお母さん方を見ていて悲しくなりました。
(後略)
幕内氏の憶測、決めつけ、結論ありきの論理展開は相変わらずのようです。まさに文字通り「突っ込みどころ満載!」です。
幕内氏の見解へはこれまで私も何度か反論してきました。同じような反論をしていても発展性がないので正直言って気は引けるのですが、だからといって言われっぱなしも嫌なので一応改めて簡単に反論しておきます。
①「ご飯には砂糖が入っていません、パンには砂糖が入っているのでご飯を食べましょう!」について
→ごはんには砂糖は入っていないかもしれませんが、主成分は糖質です。見えない砂糖が入っているのはパンだけではなく、ごはんも同様です。むしろその「あまくない砂糖」の存在が恐ろしいという事がこの映画の主題であったのではないでしょうか。その意味で、ごはんもパンも五十歩百歩です。
②「砂糖と油脂類の過剰摂取が悪い」について
→これは幕内氏の代表的な主張であり、以前も反論させて頂きましたが、もしもその主張が正しいのだとすれば、久山町研究で砂糖と油脂類を厳密に管理し食生活指導を行ったはずの集団で糖尿病をはじめとした生活習慣病が増え続けているのはどう説明できるというのでしょうか。
③「沖縄は昔から豚肉を食べていたと言われているがそれはウソ! 主食は芋、野菜だったから長寿だった。 それが豚肉を食べるようになったので肥満が増えた」について
→沖縄の歴史を本当に御存知なのでしょうか。沖縄は、米を税の中心として位置付ける日本本土の政権の統治下になく、肉食がけがれと見なされなかったために、家畜を肥育して食用とすることに抵抗のない食文化が存在していた唯一の都道府県です。沖縄の肥満化や短命化が深刻化してきたのは近年に入ってからの話で、昔から常食していたはずの肉を原因だとする説にはどう考えても無理があります。
その後の論理展開も間違った前提を元に結論ありきで組み立てられている主張が続き似たり寄ったりの主張なので、今回の反論はこの辺りにしておきますが、
一方で何気に「規模の小さい園は園長が賛同してくれればすぐに変わる」という点は実は本質をつかれていて、ある意味怖い所でもあります。
というのも、先日私も記事にしましたように、裏を返せば「大きな組織ほど変革を起こすのは難しい」という事になるのですが、
糖質制限を広めたいという立場の私達からすれば、そうした小さな集団から着実に勧めていきたいと思うわけですが、
それは「糖質制限の普及を阻止したいと考える側にとっても同じ事が言える」という事を意味しています。
それでも情報を受け取る側にしっかりと自分の頭で考える力が備わっていれば、
糖質制限推進派と糖質制限批判派の主張のどちらを受け入れるかは自明なのですが、
そうでなければ権威的に意思決定を左右されてしまっても不思議ではありません。今までの文化や感覚も後者の受け入れを後押しします。そういう意味では糖質制限推進派はまだまだ多勢に無勢で圧倒的不利な状況です。
あひるさんが御指摘のように、本来糖質制限について真剣に考えるべき若いお母さん達が、幕内氏の言葉に熱心に耳を傾けて、結果的に糖質制限から離れていく方向に行ってしまう事には非常にやるせない思いがいたします。
けれど、アドラー的に考えれば、自分の課題と他人の課題は分離すべきです。
権威を鵜のみにしてしまったり、自分の頭で考える行為を怠り、糖質制限批判理論を受け入れてしまう方々の事に頭を悩ませていても事態は好転しませんし、私自身も幸せになる事はできません。
それはそれとして、「正しい事はいつか伝わる、たとえどれだけ時間がかかろうとも」の信念で、自分にできる事を着実に一歩ずつ前に進めていくしかないのだと私は思います。
最後に幕内氏の専門家としての姿勢に一言ものを申します。
砂糖の問題を扱う栄養の専門家として希少糖の事を知らないという事はまずは恥ずべきことです。
百歩譲って仕事の忙しさなどでその情報を手に入れられなかったのだとしても、
それを聴衆から教えてもらい、しかもその場の情報だけで希少糖に関する質問に結論を出すなど科学者としてあるまじき行為です。
その場であなたがすべきであったことは、教えてくれた人に感謝の意を述べ、持ち帰り今後の研究対象の一つにすると宣言することであったと私は思います。
申し訳ありませんが、私はあなたの事を栄養の専門家として認めません。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
No title
も放送されています、こちらは今でも視聴可能で、山田悟医師が(正直我々からしたら物足りない内容ですが)糖質の害についてちゃんと解説してます。
幕内氏のような自分の頭で考えることを放棄した人は係わるだけ無駄でしょうね。率直に言えば最新情報を追わず自分の頭で考えることを放棄した人は知識人として死んだということでしょう。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
同じ映画を見ても、糖質の問題を解説できる解説者と、砂糖の問題にすり替える解説者が出てくるという事ですね。
どちらが望ましいかは言うまでもありません。言われたことを鵜呑みにすることがいかに危険なことであるかが、そういう所からもうかがえると思います。
No title
山田悟医師のことはそんなに評価してなかったのですが、アメリカ人がこんなに太りだしたのはここ二十年ほどで低脂肪食がブームになってらだと指摘してました。つまり今までの減量法は日本でも間違っていたと公共の場で明言したわけで立派な方だと思いました。
つい先日一泊二日入院したのですが、糖質量の多さもさることながら、味が薄いのにも閉口しました。我々からすると脂や蛋白質の旨味が足りないのですね。考えてみればアメリカ人こそ自前で安くて美味しい肉や乳製品があるのに塩、砂糖であじつけしたジャンクフードばかり食べさせられた被害者ですね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
低脂肪食の味の悪さは、その食事が本来の食べ物ではないという事を教えてくれているのかもしれませんね。
かといって高糖質食のうまさの方も、本来の食べ物ではないというのだから、なかなか難しいものです。総合的に考える視点が重要ですね。
No title
私も幕内氏の著書=「世にも恐ろしい糖質制限ダイエット」を読みましたが、これから糖質制限を開始しようとするヒトやはじめて間もないヒトを混乱さす内容だと感じました。専門家が言うという事だけで信じる場合が多いですから。
著書を読んでいましたから、トークショウの内容にも今更驚きませんでした。
>>自分の課題と他人の課題は分離すべき、と言うのはヒトにヒトを批判できないという事なのでしょうか。私も糖質制限に出会う前には糖質摂り放題でした。だから現在の私がすべて正しいとしてヒトに押し付ける事は絶対しません。その延長線上として幕内氏を否定批判しない方がよいのかな、とも思いました。
がしかし先生もおっしゃるように、幕内氏の話で糖質制限から離れていくヒトが出るのは残念な事です。やはり管理栄養士としての責任ある発言が必要だと思いました
くんだみえ
Re: No title
御質問頂き有難うございます。
> >>自分の課題と他人の課題は分離すべき、と言うのはヒトにヒトを批判できないという事なのでしょうか。
なるほど、一見理にかなっていそうな御意見ですが、一概に批判してはいけないというわけでもないと私は思います。
誰の課題かを考える時には、「その行為をしない事によって生じる不利益を最終的に誰が負う事になるか」というのを考える事です。
私は医師であり、糖質制限を肯定するブログの発信者でもあります。かたや幕内氏は糖質制限を否定する栄養の専門家です。
幕内氏の発言について私がコメントしない事は、それを容認する行為にもつながり、ひいては私の発言の信ぴょう性を落とし私の不利益につながりうる行為なのです。従ってこれは私自身の課題でもあるのです。
一方で幕内氏がどう考え、どう発言するかという事自体は幕内氏の課題なので、私の関する事ではありませんし、
幕内氏の話を聞いた聴衆の皆さんがどう思うかという事も、それぞれの皆さんにかかってくる問題なので、やはり私の課題ではありません。そこに関してはあれこれ悩んでいても仕方がないと、少しややこしいですが、そういう事だと思います。
No title
ご説明いただきまして有難う御座います。
これで記事の内容が整理でき、うまく理解できました
自分で考えることの難しさ
幕内先生、一時は、粗食本でブームになりましたね。
まだ糖質制限の考えが広まってないころです。
中年になり健康が気になりだしたとき、
ご多分にもれず、「健康になるには粗食、そして米がいいんだ」とせっせと実践したひとりです(笑)
今は糖質制限ブーム。
でも実践してこちらのほうが断然効果あると思いました。
悲しいかな、いつも自分の頭で考えて選択せよといっても医療の素人。
有名医師の著書を読むと「ふ~ん、そうなんだ~、一度やってみよう」
逆の提案、反論本を読むと
「一体どちらが、どうなんだ???」と混乱。
訓練も医学教育も受けている医療の専門家さえ、
判断できない人、理解できない人が多いのに
まして一般人となると、、、
糖質制限推進派、オピニオンリーダーを信じてついていってる状況です。
Re: 自分で考えることの難しさ
コメント頂き有難うございます。
> 訓練も医学教育も受けている医療の専門家さえ、
> 判断できない人、理解できない人が多いのに
> まして一般人となると、、、
そう思ってしまうかもしれませんが、医学教育を受けていれば判断しやすくなるという事でもないのです。
大事な事は、すべてを相手に委ねないという事、信じてもよいが信じる事にはリスクがあるという事、信じて間違いだと思えば考えを見直し軌道修正するという事です。そうした姿勢なら心がけ次第で誰でも持つことができるのではないかと思います。
ありがとうございます
コメントいただきありがとうございます。
医学教育を受けていても、、という先生のお言葉。
そうなんですね。
リスクの話も心に響きました。
お忙しい中、返信していただきありがとうございました。
いつもブログを楽しみに拝見しております。
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