変革的治療を実現するための条件

2016/08/30 08:00:01 | ふと思った事 | コメント:2件

私は医師3年目の後期研修医の時代に、

とある小さな病院で褥瘡のラップ療法を初めて導入しました。

職員の誰もがその存在を知らない環境の中でかなり挑戦的な試みでしたが、

スタッフ全員の協力あって無事にこの治療を当地へ根付かせる事に成功しました。

かたや医師4年目で働いた大きな病院では同じことを試みても成果を成し遂げられませんでした。

一体何がこの違いを生み出すのか、改めて考え直してみたいと思います。 まず、この件に限らず私が普段から感じている事に「大きな組織ほど変えがたい」というのがあります。

大組織になればなるほど、良きにつけ悪しきにつけ、様々なシステムが複雑に運営されています。

この褥瘡治療に関して言えば、小さな病院の場合はシンプルに主治医の治療方針に基づき治療される形ですが、

大きな病院の場合は、主治医の治療方針とは別に、褥瘡治療の専門家とされる形成外科が診療に介入したり、

そうでなくとも褥瘡対策チームなる認定看護師を中心に組織される集団が治療に関わるようになります。

従って小さな病院でラップ療法を導入しようと考えた場合は、主治医の意識が変わる事が最重要案件となりますが、

大きな病院では主治医の意識が変わるだけでは変革には不十分です。主治医以外に形成外科や褥瘡対策チームの意識も変わってもらう必要があります。

しかし、当ブログ読者の方々ならもうおわかりのように、専門家程最も変革を嫌う人達なのです。

なぜならば変革を起こすことは、専門家の最先端の治療を否定することにつながるからです。

患者の立場であれば、専門家の最先端治療であろうと、ラップ療法であろうと、治る治療であれば何でもいいと思うのでしょうけれど、

専門家にとっては専門家の治療以外で治されることは俄かに受け入れがたい事であるからです。

従って、治療方針の変更をめぐってまず第一の壁が立ちはだかる事になります。


また、うまく治療方針が変更できたとしても、それだけではまだ不十分です。

治療というものは医師一人ではできません。常にメディカルスタッフの協力あっての作業です。

なぜラップ療法がいいのか、看護師さんに理解してもらうとともに、治療効果を実感してもらう経験が必要です。

いくら主治医の治療方針があるからと言って、スタッフの納得がいかない状況の中で無理に推し進めれば必ずひずみを生じます。

それは主治医への不信頼という形かもしれませんし、治療のボイコットという形かもしれませんし、最悪の場合離職という事につながるかもしれません。

すなわち「変革的な治療を実践するためには仲間の理解と協力が不可欠」だという事です。

仲間の協力と理解を得るためには、変革者がそれ相応の行動を起こす必要があります。

私が褥瘡のラップ療法を小さな病院で導入する際には、毎日写真を撮って傷をよく観察し、危ないと思ったらすぐに従来の治療に戻すことをスタッフへ約束しました。

そして院内の各部署に褥瘡のラップ療法について紹介するDVDを無償で提供したり、月1回の委員会でそのDVDを見てもらう機会を提供したり、

さらにラップ療法を行った症例の経過を毎月写真入りで報告する事を義務化し、圧倒的な効果をスタッフに示し続けました。

その甲斐あって私がその病院を離れた後も、褥瘡のラップ療法は無事に受け継がれ変革させることに成功したと私は思っています。

かたや大きな病院であれば関わるスタッフの数も膨大になりますし、

大病院の一部署でそれを行えたとしても、病院全体としてそれを認めるかどうかはまた別の問題になり、

上層部に理解が得られていなければ、せっかくの変革的治療もただの問題行動とみなされてしまいます。たとえどんなに素晴らしい治療効果を上げていたとしてもです。


もう一つの必要条件は、「現場が治療のニーズを感じているかどうか」です。

そもそも既存の治療に問題点があるからこそ、変革的治療の必要性が生まれるわけですが、

現場が治療の問題点に気が付いていなければ、そもそも変革的治療が必要と感じる機会がないわけです。

ここで問題なのは、「専門家の治療が最善」と考える現場の中にいると、それ以上の治療は存在しないと考えてしまう心理です。

つまりニーズが存在するのに、目の前のニーズに気が付かない盲目的な状態となってしまうのです。

客観的にみてどう考えても現在の褥瘡の標準的治療はうまく行っていません。

特に巨大褥瘡は「治らなくても仕方がない」「患者の栄養状態が悪いから仕方がない」と思われる風潮がはびこっています。

しかしひとたび専門家最善の先入観を捨てて、広く世の中を見渡した時にはラップ療法という素晴らしい治療法が実在するのです。

それならばまずは現状が最善という考えを見直すことから始めましょう。

常識的なものの見方を外し、もっとよい治療はないかと考え続ける歩みを止めないことです。

その事にみんなが気付き、患者さんの治療が第一だという原則を思い出す事ができれば、変革的治療を起こす事は可能だと思います。

褥瘡のラップ療法でそれを実現したように、

同じことを糖質制限でも私は成し遂げたいと考えています。


たがしゅう
関連記事

コメント

コウノメソッドについて

2016/08/30(火) 19:58:47 | URL | 精神科医師A #wKydAIho
 私が今の勤務病院でコウノメソッドを開始したときは、すでに病院にある薬の中からコウノメソッドに従って処方するというやり方で開始しました。 これなら主治医一人の決定ですべてができるからです。次第に成果が上がっていき、若い医師たちから質問されるケースもでてきました。

 次にとりくんだのは保険適用外のサプリメント・フェルガードの導入です。認知症の患者に朝夕与えることは夜勤の病棟スタッフの協力があってできることですが、サプリで著効が出るケースが出てきて、皆の理解が得られるようになっています。

 組織の中で徐々に自分の方法をすすめ、皆に理解してもらうことはすぐにはできない事ですが、さらに進めていこうと思っています

Re: コウノメソッドについて

2016/08/31(水) 00:08:07 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
精神科医師A 先生

 コメント頂き有難うございます。

 御指摘のように、大変革でなくとも今の環境の中でできる所から変革を起こしていくスタイルもその気になればできますね。
 いずれにしても実績を見える形で示し続ければ、良識ある方々ならきっとわかってくれるはずです。

 フェルガードの効果には私も驚きました。怪しまれがちなサプリメントの世界にも、良いものは確かに在るという事を教えてくれた存在であったように思います。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する