「お医者様」なんて思わないで
2013/10/30 00:01:00 |
ふと思った事 |
コメント:9件
イメージというのは恐ろしいものです。
医者は一般的に「頭がいい」と思われていないでしょうか?
でも何十年もの間、「カロリー制限がおかしい」ということに医者は誰一人気がつかなかったというのが実情です。
一方で日本における多くの医師-患者関係は医師主導、患者従属のパターナリズムがいまだにはびこっています。
パターナリズムとは、『強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること』です。
医療に関して言えば、医学的な専門知識を持った医師が強い立場にあり、それを持たない患者が弱い立ち場にあるというから、「医師の言う通りに従っていればまず間違いはない」と考える人が実に多いと思います。
しかし、そういう時代はもうすでに崩壊しています。なにしろ医学的な知識は手に入れようと思えばネットなどでいくらでも手に入れることができます。
情報化社会という抜本的に変わった構造の中で、自分の身を守れるのは医者ではなく、他ならぬ「自分自身」なのです。 だからといって何も自分が医師として職務を放棄しているというわけではありません。
私は医師として患者さんに正しい医療情報を伝えなければならないと思い、いろいろなジレンマを抱えながらも日々自分ができる事を一生懸命に伝えているつもりです。
しかしながらこのパターナリズム構造が残っている限り、私がせっかく与えた情報も無に帰してしまうということとがあるのです。
私が糖質制限の話をして、理解して実際に行動に移して頂ける方は多く見積もって1~2割といったところです。
話をしても理解して頂けないという8~9割の方はある意味もう仕方がないと思っています。この大きな原因はやはり「文化の壁」「常識の壁」が大きいです。
しかし残りの1~2割の方は私の指導の下、実際に糖質制限を実行されて、糖尿病の血糖コントロールがよくなったり、血圧が安定したり、減量に成功されたりしています。
そうするとそうした実践者の方々からは私に対して感謝の意を述べて下さる方も出てきます。医者としては嬉しい瞬間でもあります。
しかし、最近そうした自分の頭が考えて行動したように見える方々の頭にもパターナリズムが残っている場合があることがわかってきました。
言い換えれば、「お医者さんが言ったから、その通りやったらよくなった」という考えです。
この思考回路では自分で考えた事になっていません。
先日、もともと肥満体型であったけれど1年近く糖質制限を実践され標準体重を取り戻した70代女性の患者さんが私の再診外来に来られました。
その方はかなり私の指導を忠実に守っておられたので、「もう免許皆伝ですね」とすっかり安心しきっていたのですが、
先日の受診ではまた少しずつ太っている事ということがわかりました。
まぁ、多少の変動はあるだろうと診察時にはあまり気にはとめていなかったのですが、
後日測定したケトン体(糖質制限を遵守していれば基準値よりも高くなる)の数値が低い値に戻っていることがわかったのです。
さすがに1年間も実践していたので、もう糖質制限の事を完全に理解していたと思っていたのに、実は違っていました。
彼女にとっては「医師の言う通りにしてやせることができた」という時点で、糖質制限を続ける意義がなくなってしまったのでしょう。
糖質制限をきちんと理解した人であれば、糖質制限を一時的に緩めることはあっても、止めることは決してしないはずです。
つまりこの患者さんは実は自分の頭で考えておらず、ただ医師の言われるがままやっていただけだった、ということです。
…指導の難しさを感じます。
日本は「お医者様至上主義」とでも言うような医師をたてまつる傾向があります。
パターナリズム構造がなくならない限り、本当の意味で糖質制限を理解してもらうのは難しいです。
それには、それぞれに「自分で考える力」を身につけて頂くしかありません。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
あと10年ぐらい
本当の意味で患者さんが、ネット、本、その他で知識を得て、医師と病気の議論、治療の進め方が、ある意味対等に話できるのには、それくらいの時間が必要と思います、ネットで育った方が病院にかかる時代になれば、医師も今よりもっと勉強しないと、臨床だけでは患者さんは納得しないとおもいます、医師でなくても知識はいくらでも勉強できますから、早く医師と患者が一緒に病気と戦える日がくればと心から内側思います。その日がくるまでがんばってください。陰ながら応募しています。。。。。おやじからのエール!
Re: あと10年ぐらい
いつもコメントを頂き有難うございます。
糖質制限、湿潤療法についてよく知った研修医が指導医の立場になるまでの10年、というのと同様に
ネット世代が自分でも情報を集めて治療法について考えて選択できる患者になるまでにも10年、ということですね。
御指摘のように、医師側と患者側、両面から変わっていく必要性を感じます。
目的意識の有無
一時的に糖質摂取が増えていたことがあります。
フランスパンを焼くのが趣味になって、ほぼ毎日パンを焼いていたので…。
それでも、食べるのは日に1食でしたけれど。
私は糖質制限のきっかけがダイエットだったので、
体重と体脂肪率さえ自分好みにコントロールできていればいいや、という気安さで糖質制限と向き合っていて、
真剣さや切迫感が無かったんです(^^;)
実際、理想の数値を維持できていましたし…。
グルコーススパイクのことを知っていたら、
絶対にパンを焼くのを趣味にはしなかったと思います。
実は、6年前からパニック障害の治療と投薬を受けていて、
「薬は嫌がって避けるとしがみついてくるが、安心して頼ると離れていく」
というかかりつけ医の言葉を信じて服薬しています。
しかし、一向に離れていく様子がないので、
薬以外の方法を併用することも模索しています。
その選択肢のひとつに、今よりも更に糖質摂取を減らすことも考えています。
なんらかの効果が感じられればいいな、と、今度はちゃんと目的意識を持って…。
Re: 目的意識の有無
コメント頂き有難うございます.
検査値よりも,自分の体調が大事だと思います.
糖質制限を強めることで今よりも体調がよくなる可能性があると思いますので,是非とも挑戦してみて下さい.
糖質制限の2つの段階
こんな風に考えたら如何でしょうか。
・糖質制限の2つの段階
第一段階:その方の理想の体重まで痩せること。
第二段階:糖質制限を続けると、体調がよくなり、
スロー・エイジングが期待できる。
この女性患者さんには、「このまま糖質制限を続ていけば、ますます老いて健やかな日々を送ることができますよ。ですから、これからも頑張りましょう」と説明されては如何でしょうか。
---------
Dr・カルピンチョ先生のお勧めの本
「糖質制限実践マニュアル 記入式 ダイエット外来の減量ノート」(中部徳州会病院ダイエット外来・今西康次)・筑摩書房・p42より。
<症状が改善されたとの声があったもの>
・不定愁訴
・手荒れ/肌荒れ
・下痢/便秘
・逆流性食道炎(胸焼け)
・自律神経失調症
・関節炎
・喘息やアトピーなどのアレルギー症状
・湿疹/にきび
・歯周病
・睡眠時無呼吸症候群
・生理痛/生理不順/PMS(月経前症候群)
・更年期障害
・薄毛/白髪
・性欲減退
・その他
*以上は個人の体験談であり、効果が保証されるものではない。
棗 さん
「薬は嫌がって避けるとしがみついてくるが、安心して頼ると離れていく」
というかかりつけ医の言葉を信じて服薬しています。
私も、かって、SSRIであるパキシルを服薬していたことが、1年余りありましたが、効果がないので減数してやめました。
私の個人的な経験では、糖質オフをして仲間と語らうことが、一番良いようで す・・・・
わんわんさん・たがしゅうさん
仲間と語らう…そうですね、しかもそれがネット上だけでなくリアルで仲間と会えれば、
かなり効果があるんじゃないかという気がします。
ひとりで外出するのに不安があるので、
なかなか実現できずにいますが、そうなれたらどんなに楽しいかな~!
生活スタイルもぐっと変わって来るだろうし…。
今はひとり家で友人とチャットしたりして、孤独を紛らせている毎日ですが、
きっといつか実現したいものです。
私の薬はSSRIではなくデパスで、
トランキライザーとしては中程度らしいですが、
年々増えているのでちょっと気になってます。
糖質制限は私にとっては慣れた方法なので、
より抑えることも気負いなく続けられるし、
さっそく昨日からスタートしました。
私がうまくいけば、同じ病を持つ方々にも朗報になるかも知れないですね!
Re: わんわんさん・たがしゅうさん
デパスは一般的に頻用されている抗不安薬ですが、これにも依存性があります。
デパスを連用されているという状況なのであれば、デパスの効果が切れる時に不安が助長されているという可能性もあります(タバコや糖質で一時的に満たされてもその後すぐにニコチン欠乏によるイライラ、眠気/空腹感が襲ってくるのと同じ構図です)。
依存症の症状(不安)を断つには、依存性のある物質を断つのが最善の方法です。
糖質オフで体調の改善が得られたら、また状況が許せば、デパス中止を目指してゆっくりと減量していくことをお勧めします。よろしければ主治医の先生とも相談してみてください。
Re: 糖質制限の2つの段階
> この女性患者さんには、「このまま糖質制限を続ていけば、ますます老いて健やかな日々を送ることができますよ。ですから、これからも頑張りましょう」と説明されては如何でしょうか。
> Dr・カルピンチョ先生のお勧めの本
> 「糖質制限実践マニュアル 記入式 ダイエット外来の減量ノート」(中部徳州会病院ダイエット外来・今西康次)・筑摩書房・p42
貴重な御助言を頂き有難うございます。
言えばわかる人だと思いますので、御助言を参考に次回の外来の時に再度お話ししてみようと思います。
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