舌で消化管の弱りを推測する
2016/08/24 18:00:01 |
漢方のこと |
コメント:5件
消化管は生物の起源です。
進化の歴史をさかのぼれば原始生物に消化管だけの生物がいる事からもその重要性を伺い知る事ができます。
また「脳腸相関」の観点からも消化管の重要性が注目されてきています。
その重要な消化管の働きが悪くなるとすれば何が大きな原因でしょうか。
それはやはり食べ物ではないでしょうか。 多くの人は食べる事を栄養を取り込むための大切な行為だと信じて疑わないと思いますが、
食べる行為は栄養を取り込む行為であると同時に、毒を取り込む行為でもあります。
言い換えれば、食べることには正の側面と負の側面とがあるという事です。
えてして私達の意識は食べる事の正の側面に偏り過ぎているのではないでしょうか。
例えば、タレントのタモリさんは生放送の27時間テレビの司会をされた時、
「食べることがいかに体力を消耗する行為か」という事をおっしゃって放送の間一度も食事をすることなく仕事をやり遂げました。
おそらく食べることの負の側面を体感的に知っていたのではないかと思われます。
また風邪を引いた時に食欲がなくなる事があると思いますが、
それはエネルギーを消耗する「食べる」という行為を節約して、ほとんどのエネルギーを身体の正常化に費やすために
言い換えれば、食べる事による負の側面から身を守るために自然に起こっている現象ではないかと私には思えてくるのです。
さらに医療の中でみてもリフィーディング症候群のように、
栄養を取り込む事が逆に栄養を枯渇させるという現象があります。これも食べる事での負の側面を表しているのではないでしょうか。
こうした現象は、特に消耗して身体の予備能が少なくなっている時に起こりやすいように感じられます。
元気な時には大量の糖質点滴を投与してもリフィーディング症候群にならない場合が多いと思いますし、
糖質制限実践者である私の場合、風邪を引いても食欲が落ちる事は特にありません。
そういう観測結果から、消耗している時には「食べるのを一旦止めるべき」という考えが浮かび上がってくるわけですが、
世間の多くの人達は身体が弱っている時には、「食べて栄養をつけないといけない」という発想こそあれど、その逆の発想をする人はなかなかいないと思います。それは糖質制限実践者の中でも同様です。
では身体が消耗している、ひいては「消化管が休みを必要としている」という事を何らかの手段で知る事ができれば、
その時は一生懸命食べるのを一旦止めて、プチ断食あるいは超少食にしてみるという選択肢を取りやすくなるのではないかと思います。
実は消化管の弱りを推測する手段が漢方にはあります。「舌を見る」という事です。
自分の舌をまじまじと見る機会はあまりないかもしれませんが、
漢方診療では舌診(ぜっしん)と言って、舌は非常に多くの情報を含むものとして有効利用しています。
また漢方には「表裏」という概念があって、病気を臓器別に見るのではなく、病気が身体の表層に近い部分に位置するか、深層に位置するかで捉えようとするのです。
具体的にはアゴから頭、首筋、背、腰にかけてを「表」、首から胸、腹にかけて、口、咽喉、食道、胃、小腸、大腸、種々の内臓を「裏」と表現します。
従って今回注目している消化管は「裏」に当たるわけですが、さらにその次に「寒熱」で病気を表します。
消化管が冷えて機能障害を起こしている場合を「裏寒」、逆に消化管が働き過ぎて熱を持っている状態を「裏熱」と言います。
そして舌の中央に黄色い苔がある事を「黄苔(おうたい)」と言うのですが、これは「裏熱」の状態を表していると言われているのです。

すなわち「消化管が働き過ぎて一旦休ませた方がいいかどうかを知りたければ、舌に黄苔があるかどうかが一つの目安になる」という事です。
なぜ黄苔だと裏熱なのかについては、一つは舌も胃腸も同じ消化管の状態を反映するということ、
もう一つは一説には、炎症が進行し熱を持てば、免疫能の低下も相まって、細菌繁殖を助長する結果、黄色の着色が亢進するからとも言われています。
もちろん、漢方は経験医学なので、絶対という事ではありませんが、
一つの指標として見てみても損はないのではないかと思います。
特にやせ型で食べても食べても全然太らないという人は、
食べる事の負の側面を大いに抱え込んでしまっている可能性があります。
そういう人は一度自分の舌をみてみて、もし黄苔があるようなら、
一度逆に消化管を休ませてあげてみてはどうかと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
私も体調が悪い(悪くなる)かな、と感じた時には食事を抜いて水分だけを摂ります。これが回復力を高めるという事が感覚的にわかるからです。糖質制限をベースに時々「不食」を取り入れる事が身体に合っています。
舌の話、とても興味があります。精神的ストレスや寝不足の時、舌苔が付着します。舌苔の状態で体調がわかると思っています。
消化管が弱っているときには舌苔が強固に付着し、なかなか取れない(取りにくい)と考えていましたが、「黄苔」についても観察してみます(私自身の舌で)。最近1日1、5食にしてから、消化管が弱っているな・・と感じる事は少ないのですが。
くんだみえ
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
舌は機械を使わずとも直接観察できる消化管であり、非侵襲的かつ簡便に臨床情報を得る事ができるので本来重宝すべき診察項目なのですが、現代医学ではなぜかあまり重要視されていません。
一方で東洋医学においてはかなり重要な位置を占める診察項目です。脳腸相関の観点からも重要であるこの舌診について私は今後も深く学んでいこうと考えております。
No title
味覚のことでご相談です。ここ1年くらいで分からなくなり、食事が全く楽しくありません、
耳鼻咽喉科に行っても亜鉛の数値を診ただけで異常がないと言われ、味覚のこと私が通院している先生に尋ねたら口腔外科で一度診てもらったらといわれました。
それでも分からなかったら神経内科にと。私は30年まえに三叉神経痛の手術、ガンマーナイフを受けました、しかし未だに痺れ痛みは残ってます、薬は服用してません。これだけではわからないと思いますが、先生はどこの科が良いと思われますか?お返事よろしくお願いします。
田中ひろこ
Re: No title
御質問頂き有難うございます。
三叉神経は味覚にも関連する神経なので、これの手術後という状況なら、左右が一致するのであれば手術後の後遺症という可能性がまず考えられます。
ただ手術が30年前、味覚障害を感じたのが1年前だとちょっとタイミングが合いません。例えば味覚障害を自覚するよりも前に強度のストレスがかかる出来事などはなかったでしょうか。そういうことをきっかけに味覚障害が顕在化する可能性もございます。
特に思い当たる節がなければ、例えばなんらかの頭蓋内腫瘍が隠れている可能性も考えられると思います。
基本的には通常の病院医療は西洋医学中心型なのですが、こうした医療は見た目で明らかな原因があるかないかを調べるのには向いています。今回の場合は、まず脳神経内科を受診して相談し、頭の写真(できればMRI)を撮ってもらい、万が一異常があれば必要に応じて脳神経外科に相談、というのをおすすめします。
ただし西洋医学中心型医療は明らかな原因が認められなかった場合の治療手段は、私見ですがおそまつである場合がほとんどです。なのでそうした病院は脳に明らかな異常がないか検査をしてもらうだけという利用の仕方で割り切り、実際の治療は漢方の専門医に相談されるのが安定感があると思います。その受診の際、「◯◯病院で脳の検査をしてもらったけれど、異常はないと言われました」という一言を添えるとスムーズなのではないかと思います。
少しでも参考になれば幸いです。
No title
来週診察に行って参ります。
たぶん最終は漢方外来になります。
そのとき舌の診察もお願いしようとおもってます。
では、行ってきます。感謝してます。
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