昆虫は動物としての大先輩

2016/08/11 21:00:01 | イベント参加 | コメント:2件

夏休みシーズンですね。

とある植物園にて夏休みの自由研究用にということで、

昆虫研究特集展といったイベントがこども達向けに開催されていました。

将来訪れるとされている人類の食糧危機に「昆虫食」が注目されているということは知識としてありましたし、

動物学の観点からも、昆虫から学べる事があるかもしれないと思いまして、

こども達に交じって大の大人が一人でそのイベントに参加してみる事にしました。

するとなかなか面白い事がわかりましたので、今回はそれをレポートしてみたいと思います。 まず昆虫というのは実に多様な進化を遂げた生物群ですが、

その歴史はかなり昔にさかのぼり、起源は約4億数千年前だと言われています。

ヒトの起源が約700万年前で昆虫は今も世の中に存在する事を考えれば、昆虫は生物としてヒトの大先輩に当たると思います。

また昆虫の種類も実に多く、ぱっと思い付くだけでもチョウのように空を飛ぶ昆虫、カブトムシやクワガタムシのように子供に人気の力強い昆虫、

はたまたゴキブリのように衛生害虫として嫌われている昆虫や、蚊のように感染症を媒介するような性質を持つ昆虫まで実に幅広い種類の昆虫が現存しているわけですが、

現在確認されているだけでもその種類は約100万種、未確認のものも含めれば1000万種ではないかとも言われているそうです。

ヒトを含む哺乳類が約4500種である事を思えば、その多様性は圧倒的で、地球の歴史上最も繁栄した種族と考えられているそうです。


そんな昆虫ですが、我々ヒトと無関係の生物ではなく、共通の祖先をもつ事もわかっています。

昆虫は節足動物という動物門に属していますが(対してヒトは脊索動物という動物門に属しています)、

身体は節と1対の付属肢が付いた体節と呼ばれる同様な形をした部品(モジュール)を連結させる構造をとっています。

実はヒトの身体にもその名残があり、その体節構造を脊椎で確認する事ができます。

即ち、頸椎、胸椎、腰椎の構造は椎骨、血管、筋節、および神経のすべてが前から後に向かって、モジュールの繰り返しというパターンに従っているのです。

こうした連結構造の形成に必要な遺伝子がショウジョウバエの研究で「ホックス(Hox)遺伝子」であるという事がわかり、

この遺伝子がヒトだけでなく、魚類から哺乳類まで動物門レベルで異なる系統的にかけはなれた動物にも広く存在している事がわかりました。

昆虫は私達と全く関係のない生き物では決してなかったのです。


次に昆虫食という観点で昆虫に注目してみます。

そもそも昆虫を食べようという発想は今になって初めて現れたものではありません。

歴史的には昆虫は古来より世界各地で食されてきており、中国ではシロアリの卵の塩漬けに、

古代ギリシャでや古代ローマではセミなどを食べたという記録が残っています。

アフリカ、南米アマゾン、東南アジアなどの熱帯地域などの多くの地域では現代でも昆虫が食べられていますし、

日本においても同様で、日常的に昆虫食というわけではありませんが、群馬県、長野県、岐阜県、宮崎県など一部の地域において昆虫食は食文化として残存しているそうです。

そんな昆虫食ですが、今なぜ注目を集めているのか、その理由が下記の文献にまとめられていました。

臨床栄養 129巻2号 2016年8月号
昆虫食の現状と将来-FAO報告書からの国際的動向と日本の現状 松井欣也


(以下p156-157より引用)

食材や飼料に昆虫を活用することは、環境、健康、社会、経済にも多くの利点がある。

●環境的利点:

昆虫は変温動物で飼料変換効率が高く、コオロギでは1kgの生産に2kgの資料しか要しないが、牛肉を1kg生産するためには8kgもの飼料が必要である。

また、豚は、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)の10~100倍の温室効果ガスを産生すると言われている。

昆虫は生活廃棄物(食材、ヒト由来廃棄物、動物由来廃棄物、堆肥)を餌にし、家畜飼料に活用できる良質なタンパク質に転換できる。

さらに、昆虫は家畜ほど水や土地を利用しない。

●健康的利点:

昆虫は魚や肉と比べ、良質なタンパク質や食物繊維のほか、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、リン、セレンなどの微量栄養素も多く含んでいる。

昆虫は牛海綿状脳症(BSE)や鶏インフルエンザ(H1N1)のような動物由来感染症を伝染する危険度が低いとされている。

●社会的・生計的利点:

野生の昆虫は直接、簡単に採集でき、養殖のための基本的道具に必要な資本も少なくて済む。

昆虫を原野で採集、養殖、加工し販売することは、性別によらず、土地を所有しない貧困な人々にもできる。

(引用、ここまで)



なるほど、確かにいろいろな面で優れている事がわかります。

それからこの文献の中には、家畜と比べて食用昆虫の栄養価がどうかという事も紹介されてました。

食材            タンパク質(%)  脂肪(%)  炭水化物など(%)
牛肉(かたロース)    56.0        41.0     3.0
鶏肉(むね皮つき)    52.0        46.0     2.0
豚肉(かたロース)    72.0        24.0     4.0
鶏卵             51.5        43.1     5.4
カイコ蛹(さなぎ)     63.0        30.0     7.0
イナゴ            76.8        5.5      17.7
コオロギ          66.6        22.1     11.3
マダガスカルゴキブリ  70.1        25.5     4.4
セミ幼虫          67.5        17.6     14.9
シロアリ           25.6        64.1     10.3
    (内山昭一.昆虫食入門:平凡社:2012.p152より)


こうしてみると昆虫は全体としてかなり低糖質であり、

肉類と比べてみてもかなり優秀蛋白源である事もわかります。

また細かくみればシロアリだけはなぜか、高脂質という構成になっているという所や、

幼虫には炭水化物が多めという辺りも、なぜそのようになっているのかを考えると面白いです。

自分なりの仮説はありますが、長くなりそうなので今回はここまでにしておこうと思います。


昆虫の世界も想像以上に深いものがありました。

今後も気づきがあれば、適宜ブログで発表していこうと思います。


たがしゅう
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コメント

昆虫食

2016/08/17(水) 10:37:33 | URL | へるみ #-
昆虫食、面白いですね。私は医療用のウジが経管栄養剤の原料に使えるのではないかとアボット社をけしかけたことがあります(あまり賛同してもらえませんでしたが)。経口摂取に抵抗がある人でも、胃瘻からの注入なら使えると思うのですが…
ウジならコオロギと違ってすりつぶして粉にする手間も省けますしね。

Re: 昆虫食

2016/08/17(水) 11:15:04 | URL | たがしゅう #Kbxb6NTI
へるみ 先生

 コメント頂き有難うございます。

> 医療用のウジが経管栄養剤の原料に使えるのではないか

 斬新なアイデアですね。とても良いと思います。

 ただ壁になるのは昆虫食に対して世間が持つネガティブなイメージですね。克服すべきは技術的な問題よりもむしろ「いかにイメージを変えていくか」という所にあるような気が致します。

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