植物が生きていくための戦略
2016/08/06 10:40:01 |
植物から学ぶこと |
コメント:10件
食べる事は「他の生物を自分の身体に取り込む行為」です。
食べ物には都合よく身体に必要な栄養成分だけが含まれているのではなく、身体に不要な毒の成分も入っていて然るべきです。
食べ物に毒が含まれている理由を考える時、食べられる生き物の側に立つと見えてくるものがあります。
一つは食べる側の生物に一矢報いるためです。ヘビやフグなど動物の中にも毒を持つものがいると思います。
ただそうした動物は少数派です。多くの動物は弱肉強食の世界に生きており、強い生物が自分より弱い生物を食べる事によって、その生物構成成分をさしたる害なく有効利用できる構図となっています。
一方で食べられる側が植物となると、大分事情が違ってきます。
なぜならば植物は動物と違って、ほとんど動けない状況で生命を維持していく戦略を進化させてきた生物であるからです。
そもそも植物はどうすれば生命を維持していく事ができるでしょうか。 植物の主なエネルギー調達は光と土壌からです。
植物は光合成というシステムにより、光を利用して水と二酸化炭素から酸素と炭水化物(デンプンやショ糖など)を産み出します。
これはヒトを含む動物が持つ解糖というシステムと逆の反応になりますが、植物には葉緑素がある事でそうした反応が可能になるわけです。
そして光や二酸化炭素は大気中から吸収し、水は土壌から吸収して材料を調達する、それが植物の基本的な生命維持システムだと思います。
そんな中、植物が持つ炭水化物はエネルギー源として(あるいは単純に嗜好物として)他の動物達から狙われます。
逃げられればいいですが植物はほとんど動けません。動けなければ動物に食べられるのはある意味必定ですが、そんな時に植物が利用してきたのが「毒」です。
植物の場合の「毒」戦略は巧みです。動物の場合は毒を持っていても食べられたら生命終了なので、
動物にとっての毒は相手に一矢報いるくらいの価値しかありませんが、
植物はたとえ大部分が食べられても、根さえ残っていればまた時間をかければいくらでも復活できるというシステムを発達させています。
従って、食べられて相手に毒を与えても、それでも自分はまだ生きている状況を作る事ができる、ここが動物との大きな違いです。
しかも植物の毒は、ただ相手を苦しめるものだけではなく、むしろ相手に多幸感を与えるようなものまで幅広くあります。
植物に苦い毒を仕込んでおけば、食べた動物は二度とその植物を食べようとは思わず、これにより自らの安全が確保されます。
ただこの戦略だと苦味に適応した動物やヒトのように調理という手段を覚えた相手に対してはやっぱり食べられてしまいます。
それでも植物は数で勝負しているような所もあるので、少々食べられた所で全体としての種の保存はまだまだ安泰なわけですが、
もう一つ植物が取った戦略が「甘い毒」を仕込むという方法です。
甘くて美味しければ、どんどん食べられてしまうため植物は生存にとって不利になるのでは、と思われるかもしれませんが、
ここで「食べられても生きている」という植物の強みがぐっと効いてきます。
たとえ食べられても、たとえ根ごと持っていかれても、全体としてはまだまだ生きている状況の中で、
甘い毒を仕込んでいれば、それを食べた動物をその毒のとりこにしてしまいます。
その結果がその動物は他の動物に取られまいとその植物を守ったり、さらに増やそうとしたりします。
植物にしてみれば、一歩も動かずして自分を守ってくれる護衛兵を雇ったような状況です。すごいよく出来ていると思いませんか?
その植物の一つがコメやコムギで、護衛兵が私達ヒトだとすれば、私達は見事に植物の戦略にはまっているのではないでしょうか。
そう考えると植物全体を俯瞰して見た時に、ヒトにとって都合の良い成分から都合の悪い成分までさまざまなものがある理由も理解できるように思えます。
動物学と同様、植物学から学ぶこともいろいろありそうです。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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漢方薬の処方は
「植物の甘い毒」ですか!
たがしゅう先生のご考察には、いつも驚かされます!
さて、先日、エアコンと扇風機を浴びて裸で就寝してたら夏風邪をひきました(恥)
糖質制限のお陰か熱は出ませんので日常生活に影響は少ないですが、空咳が止まらず、先生にお聞きししていた「麦門冬湯」を服用することで治りました!(感謝)
そこで、質問なのですが漢方薬は市販薬とお医者さんで処方されるものとでは、効能(濃度?)に差があるのですか?
近隣の漢方を処方してもらえる先生を探すには「日本東洋医学会」などで探せばよろしいのでしょうか?
http://www.jsom.or.jp
Re: 漢方薬の処方は
御質問頂き有難うございます。
> 漢方薬は市販薬とお医者さんで処方されるものとでは、効能(濃度?)に差があるのですか?
細かい事は置いておけば基本的には大差ないと思います。ただ市販で買うと結構高いと思います。処方薬なら保険が効きます。
> 近隣の漢方を処方してもらえる先生を探すには「日本東洋医学会」などで探せばよろしいのでしょうか?
希望の処方が決まっている場合は近所の内科医院を受診されても頼めば処方してもらえると思います。
処方を医師に選んでもらう場合は、漢方と標榜しているクリニックへ受診された方が確実です。ただ漢方医の腕は結構ピンキリな所があります。
きれいも戦略
私が思ったのは、きれいな花を咲かせて、人間を感動させて、人間に世話をさせて、子孫を増やして盛隆を謳歌してる種類もあり、バラ、百合、蘭、桜、etc. クイーン感で人を動かし、優雅やわ。植物界の華麗なる一族(笑)。
Re: きれいも戦略
コメント頂き有難うございます。
御指摘のように美しさを進化させる事で生き残ってきた植物もありますね。実に見事です。
No title
「甘い毒」で小学校の時の理科の授業を思い出しました。
「花の蜜を使い虫を引き寄せて受粉させる。」
「果実を甘くして鳥に食べさせ、消化できない種子がフンで落ち、子孫が広がる。」
どちらも糖をうまく利用した、計算された戦略ですね。
農耕社会移行時に古代中国では
http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-214.html
ただし、それがメジャーにならず、一部のモノ好きの健康法となってしまった
こと。戦うべきは、植物でなく人類であった。ということで、植物の戦略が一枚
上手でした。
そう考えると、動物に対する殺生を禁止して、植物を食べることを推奨する
精進料理の考え方もひどく偏っているというか、人間中心の発想ですね。
管理人のみ閲覧できます
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
御指摘のように、「甘さ」にはいろいろな意味で容易に逃れ難い魔力のようなものがあるように思えます。
※御指摘の箇所を修正し、再掲載させて頂きます。なお、コメント投稿時にパスワード設定をしておけば、投稿者側でコメントの修正も可能です。
>たがしゅう先生、こんにちは。
>植物界では、甘い蜜でおびき寄せ受粉をさせる?現象や、人間界では、甘い言葉で誘惑や、甘い罠を仕掛けるなどの表現があることなどからも、
>もしかすると、「甘い」には抜き差しならない「何か」が潜んでいることを、
>人類は早くから知っていたのではないか、などと、ふと、思ってしまいました。
>それでも、「甘い」への探究心は衰えることなく、アッという間に、「甘い」物事に飲み込まれてしまっている現代社会を見知ると、
>「甘い」の仕掛けに抵抗するのは、地球侵略にやってきた異星人のマザーシップに、竹槍で闘いを挑むかの如くなんでしょうか。(最新作を見たばかりでしたので、つい、引用を、失礼。笑)
>とにかく、これでは、確かに、糖質の呪縛から解き放たれる為には、それ相応の時間が必要なんでしょうねぇ~、とも感じてしまった記事でした。(笑)
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
> 「花の蜜を使い虫を引き寄せて受粉させる。」
> 「果実を甘くして鳥に食べさせ、消化できない種子がフンで落ち、子孫が広がる。」
あなどるなかれ植物の多彩な戦略、ですね。
Re: 農耕社会移行時に古代中国では
コメント頂き有難うございます。
> 動物に対する殺生を禁止して、植物を食べることを推奨する
> 精進料理の考え方もひどく偏っているというか、人間中心の発想ですね。
私もそう思います。
植物も立派な生物です。
動物を食べる事を殺生だというなら、植物を食べる事も本質は一緒だという事を考えるべきだと思います。
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