シンプルな中の深いメッセージ
2016/07/10 23:40:01 |
偉人に学ぶ |
コメント:5件
「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」
という詩で有名な相田みつを先生の作品を展示している美術館に行ってきました。
実際の書を見たことがある人ならわかると思いますが、シンプルな言葉を温かみのある文字でしかも力強く伝えるメッセージ性があり、
以前より私は相田先生の作品に何となく好感を持っていました。
ですがその詳しい人物像について今まであまり知る機会がありませんでしたが、
今回の美術館訪問を経て、相田みつをという人がいかにすごい人であったかを思い知る事になりました。
それと同時に今までの自分には相田作品のすごさの表面的な部分しか見えていなかった事にも気が付かされました。
今回は相田みつを先生から学んだ事を少しまとめてみたいと思います。
まず私は「相田先生は独特の感性を持って素朴なタッチで心に突き刺さるメッセージを書く詩人」というくらいの認識でいたのですが、
これが実は大きな誤解で、相田先生は10代の事から書の道の優れた師匠に師事し、徹底的にその道を究めた書のスペシャリストでした。
相田先生の20代の頃の展示作品をみると、驚くほど綺麗な文字でバランスよく読みやすい形で並ぶ長文の作品などが数多く並んでいるのです。
冒頭の「にんげんだもの」などの作品で知られる独特の字体は、実は基本をしっかり押さえた上で、あえて形を崩して計算に計算を重ねて作られたものだったのです。
例えば、ひらがなをよく使っているのは、誰にでも分け隔てなくメッセージが伝わるようにするための工夫ですし、
作品によってはひらがな、カタカナ、漢字がすべて組み合わされたものもありますが、それらの配置も試行錯誤を重ねて一番おさまりがいい形を模索した結果だというのです。
また相田先生の作品は短くも深く心に突き刺さるものが多いですが、
その背景には相田先生に短歌の素養があったという事もわかりました。
短歌は31字のルールという制限の中で、伝えるべきメッセージをいろいろと考えるわけですので、
シンプルに伝えるためのコツというものが繰り返し短歌を作っていく中で相当鍛えられたのではないかと察します。
そう思って相田先生の作品を見直すと、考えに考え抜かれて行き着いた完成型という風に見えてまた深みが増してきます。
例えば私は勉強のためにいろいろな講演会に参加するわけですが、
高度な内容や専門的な話題など難しい話というのはいくらでもあるわけです。しかしその難しい話も聴衆に伝わらなければ意味がありません。
その難しい話をいかにシンプルに伝えられるかは演者の腕にかかっていると私は思っています。
相田先生からはシンプルに伝えることにいかに努力が必要かという事を教わったように思います。
もう一つ、私の心を打った詩で、「みんなほんもの」というものがありました。
「トマトがねえ トマトのままでいればほんものなんだよ
トマトをメロンにみせようとするからにせものになるんだよ
みんなそれぞれほんものなのに骨を折ってにせものになりたがる」
自分には情けない面があります。
人に見せたくない一面も、人に誇れない一面もあります。
そして大人になればなるほど世間体や仕事の立場などが手伝って、様々なもので自分の愚の側面を隠そうとします。
けれど本当はありのままの自分でいいんです。良い部分も悪い部分も含めて自分なのだから。
この言葉を受けて、糖質制限を認めない糖尿病専門医を眺めれば、トマトをメロンに見せようとした偽りの専門家という姿が見えてきます。
かたや自分自身にこの言葉を向ければ、
自分が完全に患者さんを治すための全力が尽くせていない現状も浮き彫りにされます。
やはり私も周囲の反応を気にして理想の医療ができずに妥協を続ける日々を送っているのです。
取り繕いのメッセージでは伝わりません。
いかに正直であれるか、いかにありのままの自分をさらけ出せるか、
それが今後人生を生きていく上で何をするにも大事になってくることではないかという事を教わったように思います。
他にもお気に入りの言葉はたくさんあるのですが、
また折を見て触れていこうと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
薬局勤務の薬剤師です。
たがしゅう先生の独自の目線と考察に日々勉強させていただいております。
わたくしも日々の業務の中で葛藤や妥協を常に感じています。
糖質制限や栄養療法などのすばらしい治療を知っている身でありながら、患者さんにはそれを教えることができず、さらにはSU剤やスタチンなど本来使うべきではない薬を調剤して渡さなければいけないからです。
「患者さんのため」などいくらきれいごとを言っても本当に患者さんのためになることを提供できていない状況にもやもやします。
「調剤は薬剤師の業務だから仕方ない。」と立場に甘えて自己正当化しているわけですが、いっそ処方医への気遣いや薬剤師の責務などすべて取っ払って「ありのままの自分」で患者さんと接することができたらどれだけいいだろうと常日頃感じます。
現在は食事療法を望む患者さんや自身のブログで糖質制限や栄養のことを細々と発信しています。
近い将来大手を振って「ありのままの自分」でいられるように、日々の学びを欠かさないようにしたいです。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
また辛いお立場、お察し申し上げます。
確かに葛藤や妥協の日々を過ごし続けるのは辛いですが、
そういう時も相田先生の言葉を借りれば、ただただ黙ってその道を歩き続けていくとよいのだそうです。今できる事を確実に積み重ねていくのです。
そうすればいつか状況が変わり、変わった時に人間としての深みが増しているはずです。
これは「道」という詩からの引用です。お互い頑張りましょう。
芸術
じーんとしました。
SMAPの「世界に一つだけの花」やアナ雪の「レットイットゴー」も同じことを言っていますね。
すぐれた芸術に接すると心が揺さぶられ、生きるよろこびや尊さを、再確認させられるかのような気がします。
Re: 芸術
コメント頂き有難うございます。
音楽にも人の心を動かす素晴らしいパワーがありますよね。
そういう芸術を作る事ができる人の才能ってものすごいものがあると思いますし、作品に込められた想いを想像するとまたさらに深みが増してきます。
同感
作品も素晴らしいけれど、それを創造できる芸術家の努力と才能もまた素晴らしいですよね。
「どんな気持ちでこの作者はこれを創ったのだろう?」とは、私もよく考えます。
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