真の熱中症予防はこまめな水分摂取ではない
2016/06/19 07:50:01 |
素朴な疑問 |
コメント:4件
梅雨の合間ですが暑くなってきました。
暑い時期は熱中症になられる方が増えてきます。
テレビなどでよく「熱中症予防にこまめに水分を摂りましょう」などと呼びかけられますし、
場合によっては「喉が渇いてから飲むのではもう遅い。渇く前からこまめに水分を」という言われ方もすると思います。
しかし、それってどうなんだろうと私などは思うわけです。
「食べるから喉が渇く」のではないでしょうか。
その事は断食を経験しているとよくわかります。 私は月に数回ある当直日には断食することが習慣になっています。
従って私は糖質制限実践者でかつ間欠的断食実践者です。
なぜ当直の時に断食を実行するかと言えば、
食欲は環境によって誘発されるからです。当直中は自分が持ち込まない限り食品が周りにない環境で過ごす事ができるので、
食欲をコントロールしやすくなる糖質の実践者においてはあまり苦もなく断食期間を過ごす事ができるのです。
この感覚は1日3食以上糖質を摂っている人には理解しがたいものかもしれません。
逆に言えば糖質制限実践者でも、周りに食品が十分にある環境において断食を行うのはなかなかに精神力を要求される至難の技です。
さて、その断食の時間がある程度経過して徐々に軌道に乗ってくると、
不思議な事に水分を摂っていなくてもあまり喉が渇かないという感覚を得ることがあります。
でも考えてみれば、断食中のメインエネルギーはケトン体です。
ケトン体をエネルギーとして細胞の中のミトコンドリアで利用すれば最終的に水と二酸化炭素を生じます。
だからケトン体の元である脂肪があれば、少々飲まず食わずでも十分にやっていける水とエネルギーを産み出すことができるわけです。
一方で、動物に目を向ければ砂漠で生きるラクダがいます。
ラクダはこぶの中に脂肪を蓄え、その脂肪を分解することで水分とエネルギーを得ています。
もしラクダがこまめに水分を摂取しないと熱中症になってしまうのなら、おそらく生存は無理でしょう。
そう考えるとケトン体代謝でいることは、外から摂る水分の節約になるのではないかと考える次第です。
いや水分だけではなく、食事の節約にもなっているという事は糖質制限実践者ならばよく感じる所だと思います。
ところが、断食中に想定外に、たとえ糖質の少ない食品であっても、食事を摂ってしまった際には、
これがまたてきめんに喉が渇きます。水やお茶が欲しくなり、せっかく断食で落とした体重が摂った水分で元に戻るのじゃないかというくらいのなかなか強い口渇欲求です。
食べ物を消化・吸収・代謝・排泄するには、エネルギーだけでなく水分も必要だという事の裏返しなのかもしれません。
別の見方をすれば、生理学的に口渇のトリガーとなるのは浸透圧の変化です。
浸透圧の計算式から導かれる浸透圧の規定因子はナトリウム(塩分)、ブドウ糖、尿素窒素(←タンパク質)です。
これらの摂取量が多ければ濃度が高まり浸透圧が上昇し、酸素を運ぶ赤血球をはじめ身体のさまざまな細胞の恒常性維持にとって不利な条件となってしまいますので、
その高濃度の是正のため水分で薄めようとするがゆえに口渇を生じるわけです。
塩辛いものを食べると喉が渇くというのはそこからも説明する事ができますし、
たとえ糖質制限をしていても塩分やタンパク質が多く含まれていれば喉が渇くという現象へとつながります。
そして浸透圧の式からは、糖質を摂っていればより口渇が強くなるであろう事もわかります。
しかも糖質代謝だとケトン代謝に比べて作られるエネルギーと水は少なめです。
その結果、「こまめに水分を摂らないと熱中症になる」という状況が生み出されるのではないかと考える次第です。
糖質制限がもっと普及すれば、
熱中症で救急搬送される患者さんの数も、
激減するのではないかと私は思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
なるほどー!とうなりました。最近の記事はどれも充実していますね。こういう情報を公開、共有していただけるのはありがたいことです。
熱中症の予防について
熱中症予防の第一は、利尿剤であるカフェイン飲料、アルコール飲料の危険性を教える事が効果的だと思います。
カフェイン飲料でいうと、一日数杯、概ね1リットルが目安です。
人口の何割かが相当すると思います。
カフェイン飲料を数杯飲む人はそれ以外を殆ど飲んでいない事が
普通です。
アルコールによる脱水は、一日中飲んでいない場合は、
カフェインにようには目立ちませんが、南九州は飲酒量も多いですし、発汗もおおいでしょうからどうでしょうか?
健診で某大手宅配会社のドライバーさんを2015年の1月から2月にかけて集中的に診ました。
夏に熱中症が多く、聞いてみると昼食の時間が取れず、判で押した様に
缶珈琲5本/日を仕事中摂っていました。1人はVFを起こしていました。
真冬でしたが、脱水所見が多くみられました。
自分の左手2-4指で右手の脈診をしますが、その際、自分の手の平で相手の前腕を軽く握ることになります。屈側の柔らかい皮膚で脱水の有無を判断します。水分を感じない。乾燥。暖かく感じるなど。
同時に爪のアーチや硬さで蛋白質の不足。
爪の甘皮や周囲の皮膚が白い・硬い・逆剝け・爪の手前の指の背が光っているかで脂質の不足までが数秒以内に分かります。
(脂質については私の経験上の推測ですが、健診では半年前や前年の血液検査結果が表示されている事が多く、数値からも判断しています)
集団健診では会場も騒がしいので聴診は役に立たない事も多く、
専ら脈診時の脱水・蛋白質不足・脂質不足所見で食事の説明をしています。
Re: 熱中症の予防について
コメント頂き有難うございます。
> 熱中症予防の第一は、利尿剤であるカフェイン飲料、アルコール飲料の危険性を教える事が効果的だと思います。
確かに利尿作用があるものを常飲している方は脱水・熱中症リスクが上がると思います。
一方で私の経験上は熱中症患者の皆が皆、カフェイン・アルコール多飲があるわけではないので、いくつかある要因の中の一部という位置付けになるのではないかと思います。
> 健診で某大手宅配会社のドライバーさんを2015年の1月から2月にかけて集中的に診ました。
> 夏に熱中症が多く、聞いてみると昼食の時間が取れず、判で押した様に
> 缶珈琲5本/日を仕事中摂っていました。1人はVFを起こしていました。
そのような臨床経験を持つと、コーヒーが主因に違いないと直感的に感じてしまうのも無理もありませんが、実際多くの集団で検証すると必ずしもそうではない事も結構多いという事もあると思います。事実はどうかわかりませんが、このように直感的に事実とは違う結論を導き出してしまうヒトの思考の癖のようなものを「ヒューリスティック」と呼ぶ事を最近学び直しました。
いずれにしてもカフェイン、アルコールの過剰摂取がないかどうかは注意して診ていくべきだと私も思います。
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