ストレスを生み出す社会構造
2016/05/20 15:20:00 |
ふと思った事 |
コメント:8件
前回は宗教家が長寿である理由について考えてみました。
私は健康長寿を成し遂げるのに糖質制限の観点は非常に重要だと考えておりますので、
糖質制限の考えがなかったであろう時代にも関わらず宗教家が長寿であったという点は非常に興味深い事でした。
しかも、点滴や胃瘻などの生きながらえるための医療手段もなかった時代での長寿であるわけですから、現在の長寿と比べれば比較的健康長寿も達成できていたのではないかと推測します。
宗教家長寿の秘訣は「自然に近い生き方」と「心の在り方(ストレスマネジメント)」の2点にまとめられるのではないかと私は考えます。
野生動物のように本来食べるべきものを必要な分だけ食べ、獲物を獲得するために歩き、時には走ったりしっかりと運動し、
眠たくなったら眠るという自然の生き方は、いろんな意味で休みなく働き続けなければならない現代生活を送る我々にとってもおおいに参考になる所があります。 一方、個人心理学を確立したアルフレッド・アドラーは「人間の悩みは(突き詰めれば)すべて対人関係の悩みである」と言いました。
仕事、家庭、交友、旅行、冠婚葬祭など人生のあらゆる場面で私たちは知らず知らずのうちに自然の中では発生しえなかった無意識のストレスを受け続けていると思います。
例えば、仕事で夜勤や当直業務があれば、夜眠たくても寝るのを我慢して仕事をしなければならない事でストレスを受けると思います。
また一人暮らしで仕事もなければ寝たいときに寝て、起きたい時に起きるという生活ができるかもしれませんが、仕事があれば定時に起きなければなりませんし、
家族がいれば朝別の家族を起こさないといけなかったり、自分がお腹がすいていなくても家族のために食事を作らないといけない場面だって生じえます。
友だちと遊んでいても、和を乱さないように気を遣ったりする場面ってしばしばあると思います。
恋愛、結婚、出産、就職、転職、離婚などの人生イベントだって、見方を変えれば大きなストレスイベントです。人と関わって生きていく以上、私たちはストレスから逃れる事はできません。
でも良いイベントであればストレスだなんて感じないという人もいると思います。
しかし自覚しようとすまいと、ストレスがかかれば身体が反応して交感神経が緊張し、ストレスホルモンが放出され、正常状態に復帰するよう働きかけます。
それが一時的であればよいですが、慢性的にストレスがかかり続ければコルチゾールやアドレナリンなどのストレスホルモンによって、
散発持続的な高血糖状態が引き起こされ、不自然な高血糖状態が続けば酸化ストレスを生じ、老化を早まっていく可能性があると思います。
その点、宗教家は出家というシステムにより俗世から離れ、家庭生活を捨てて仏門に入り修行にいそしむという現代の社会生活とは全く異なった環境で生きていく事ができます。
その宗教家が長寿であるという事は、出家する事で俗世での生活で生じうる人間関係によって生じるストレスを最小限にする事ができるのではないでしょうか。
言い換えれば、現代の社会生活そのものに健康長寿を困難にしている構造があるのではないかと私は考える次第です。
だからと言って、出家するというのは一般人(在家者)にとって現実的にあまりにもハードルが高いと思います。それに人間関係がストレスになると言っても私たちは一人で生きていく事はできません。
現代社会で健康長寿を目指すという事は、頻繁に人間関係を生じる環境において、うまくストレスを受け流し続ける必要があり、これは実はなかなか難しい課題なのかもしれません。
だからこそストレスを好意的に受け止められるようにするアサーションやアドラー心理学のテクニックは現代においてより重要性が増してくるのだと思います。
ただ無自覚のストレスイベントに対しては我々は無防備です。よかれと思ってやっている事が自分にストレスがかかっているという事もあります。
例えば自分が本当に参加したい飲み会であればいいですが、本当は行きたくないけど会社に勧められて何となく参加しているような飲み会などは、
勇気をもって参加しないと決断するのもストレスマネジメントの一つです。それによって新たなストレスを生じたとしてもそこは自分の心を変えて受け止めていくのです。
「一人でいる事をおそれない」
「楽しいと思う気持ちを大事にする」
「自分にとって正しい事をし続けて世界に貢献する」
私はこのようなスタンスを私は大切にしています。
とはいえ、「言うは易し、行うは難し」とはよく言ったもので、
なかなか実践しきれないでいる自分がいるのも事実です。
例えば、患者さんに糖質制限指導をしていて、私は常にストレスを感じています。
まず患者さんに糖質制限を伝えても、8割の人は実践してくれません。そこにいちいち引っかかっていても仕方がないので、近年は「世の中とはそういうものなのだ」とクールに受け止められるようになりましたが、
根治的な糖質制限の手が使えないとなれば、治療に難渋するのは必然であり、そこから先もずっと患者さんの苦しい症状と私は対峙し続けなければならないわけです。
糖質制限を知らない医師なら「この人の症状は治らなくて当たり前」と割り切って接するからストレスフリーなのかもしれませんが、
私のような糖質制限推進派医師は「本来なら治せるのに治らない状態と付き合い続けなければならない、そして自分の言葉は相手に届かない」という独特なストレス環境におかれてしまうわけです。
いくら世の中はそういうものだと割り切ったとしても、やはり目の前で苦しんでいる人がい続けるのは辛いものです。
それに薬絶対主義の患者さんに減薬の必要性を説いても、これまた相手にその真意が伝わりません。
その結果、本当は行くべきではないと思っているのに、薬を処方し続けなければならない状況に追い込まれます。
また患者さんが私からの減薬の説得に応じてくれたとしても、複数の医院にかかっている場合は他の医師とのやり取りで問題が生じる場合があります。これもかなりのストレスです。
他にも細かく挙げればきりがないくらい私は日々ストレスにさらされ続けています。私が真面目すぎるからなのかもしれません。
いくら糖質制限をしていても、いくらストレスマネジメントの方法が上手になったとしても、今の医療環境であり続ける限り、私が健康長寿を達成するのは至難の業だと思います。
宗教家のように環境を変えられるのがベストの選択かもしれませんが、
変えられないのであればせめて無自覚のストレスをしっかりと自覚し、
それを受け止める心の在り方を引き続き学んでいきたいと思います。
たがしゅう
プロフィール
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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No title
私は自分で言うのも変ですが、性格的にストレスを蓄積しやすい性格です。そして何の因果か精神的に非常に負荷がかかってしまう特殊な職業についています。
しかし糖質制限を開始して2年弱。ストレスはストレスとして、それが身体的影響として表面化しない身体になった事が実感できます。改めて糖質制限は単に痩せるためのものではなく、健康維持増進に繋がるという事を実感しています
くんだみえさんと同様
私も、正月太り解消のために意を決して娘と始めた糖質制限が、肥満解消だけでなく、健康の源であるという真実を体験してしまったので、家族の中では私だけ、ほぼスーパーに近い糖質制限を続けて1年4ヶ月。セイゲニストがおっしゃる通り、だんだん糖質制限+時々断食の方が体に負担がかからず、常に集中力が維持できることがわかりました。それに気づくまでの52年間なんと無駄な人生を送ってきたことかと、世の中の常識に騙され、糖質に支配された生活で、体や心をむしばまれていたんだと。
今は職場復帰し次から次へと仕事を片付けても疲れがたまらないストレスに打ち勝つ体になりました。以前は面倒なことは後回しにして、おしりに火がついてから仕方なく取り掛かるタイプで、これは性格だと思っていました。が、糖質に体を支配されていたせいだということを痛感しています。
だから、この糖質制限の効果に驚き、周囲に伝えようと常に発信し続けているのですが、周囲の人たちもすでに糖質に支配されている人たちですので、なかなか理解してもらえません。理解してもらえても、実践してみようという人はほとんどいません。同じことを聞かされるのも嫌がられると思うので、最近は、低糖質の新商品の紹介や、テレビドラマの登場人物のあの人がセイゲニストだとか、サッカーや野球選手のあの人、芸能人のあの人がセイゲニストだとか、いうのを時々伝えるようにしています。職場では毎日のようにお菓子の差し入れがありますが、絶対食べずに、持ち帰っています。これらの行為を職場の人は1年間見続けているので、やがてはハタと気づいていただける日がやってくるとおもいますが、大病しないうちにねと願います。たがしゅう先生のご苦労をお察しいたします。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
確かに糖質制限は精神の安定化に寄与します。私もそれを実感します。
しかしそれだけでは完全ではないのだと、慢心せずに、今後もストレスマネジメントの技法を学び続けたいです。
Re: くんだみえさんと同様
コメント頂き有難うございます。
糖質制限での体調の回復、何よりです。
周囲とのやり取りに関しては糖質制限実践者に多かれ少なかれ付きまとう問題なのでしょう。お互いストレスを感じ過ぎずに受け流していきたいものですね。
ご朱印帳
「ご朱印帳」って知ってますか?宗教家もポイントカードのようなものを作って、俗世人のストレス解消とご利益と観光に協力してます。宗教というよりは、歴史文化に触れての心の解放でしょうか、みなさん楽しそうです。
Re: ご朱印帳
コメント頂き有難うございます。
朱印帳ですか。聞いた事はありましたが、使った事はありませんでした。
確かに寺巡りをして、実際にそれぞれの思想に触れてみるのも面白いかもしれませんね。
ストレスをはね返す年中行事
夏越しの祓えって知っていますか。輪くぐりとも言います。もうすぐ神社には輪が掛けられて、
スルーザリングで、半年の穢れや不運や悪いものを全部身から払い落とすのです。
輪は一種の結界で、不幸から幸福へ、病気から健康へ、幸福からもう少し幸福へ、別の世界にテレポートするような感じです。
こんなおもしろいことが21世紀にも続いているのは、輪くぐりの効果抜群(暗示抜群)なせいだと思います。そうやって、昔から人々は、ストレスをはね返していたのだと思います。
楽しいのに、悪霊怨霊病魔退散で、いいですよ。
Re: ストレスをはね返す年中行事
コメント頂き有難うございます。
夏越しの祓え、ですか。初めて知りました。
神社でそのような催しが執り行われているのですね。
暗示、結構な事だと思います。自分の心を変えて良い精神状態に持っていくのは立派なストレスマネジメントだと思うからです。
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