私は哲学者でありたい
2016/03/29 07:30:01 |
おすすめ本 |
コメント:10件
医師にとって最も重要な資質の一つは「謙虚さ」だと私は考えています。
謙虚でなければ自分の過ちに気づかず横柄な態度になりかねませんし、謙虚であれば医師としても、ひいては人間としても常に成長し続ける事ができるからです。
ある程度経験を積んだ医師にもなれば、自分のやり方というものが確立して、
他者から指導や影響を受ける機会もなくなり、自らその方法を更新しようとする事もなくなるものですが、
例えば私が尊敬しているとある漢方医の先生は熟練の経験を持っているにも関わらず、
若手の医師から謙虚に学ぼうという姿勢を持ち続けていたりします。なかなか誰もができる事ではないと思います。
西洋医学が台頭し、しきりにエビデンスが叫ばれる医療界となった現代において、
科学が人体のほとんどを解明したように振舞われる風潮があると思いますが、決してそうではありません。
人体という小宇宙(ミクロコスモス)に対して、いかに謙虚な姿勢で向き合えるかという事は非常に大事な事だと思うわけです。 アドラー心理学について折に触れ紹介している当ブログですが、
最近新しく出版された下記の本にも非常に興味深い事がかかれていました。
幸せになる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教えII 単行本(ソフトカバー) – 2016/2/26
岸見 一郎 (著), 古賀 史健 (著)
前作「嫌われる勇気」の続編として書かれた本です。
革新的な発想を受け入れる糖質制限実践者とアドラー心理学とは非常に親和性が高く、
前作で初めてアドラー心理学を学んだ私にはアドラーの言っている事がすんなりと心に入っていく印象がありましたが、
今作を読んで私は自分の人生にアドラー心理学を応用していくに当たって、「私はまだまだアドラー心理学の半分も理解できていなかった」という事を知りました。
例えば、「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」の根源は一緒ですが、
糖質制限を普及させる立場として「嫌われる勇気」は持っていたつもりですが、「幸せになる勇気」はまだまだ持てていなかったように思います。
この本は前作から3年が経過し、学校の教師としてアドラー心理学を利用しようとするも現実に立ちはだかった壁に苦悩する青年と、
アドラー心理学を知り尽くしそれでいて謙虚な哲人との会話を通じて、アドラー心理学の実践的な神髄を学べる内容となっています。非常に勉強になる事が多々書かれていました。
その中で、「科学」と「宗教」、そして「哲学」について述べられた次のような部分がありました。
(以下、p27-31より引用)
青年「おっと、まだ話は終わりませんよ?そうやって大航海時代の宣教師たちに関する書物を読みあさっていたとき、
もうひとつおもしろい事に気づくわけです。『アドラーの哲学は、結局のところ宗教ではないのか?』と」
哲人「……なるほど」
青年「だってそうでしょう、アドラーの語る理想は、科学ではない。
科学でない限り、最終的には『信じるか、信じないか』という信仰レベルの話に行きつく。そしてまた、こんなふうにも思うわけです。
たしかにわれわれの目から見れば、アドラーを知らない人々は、偽りの神を信じる野蛮な未開人に映る。
一刻も早く、ほんとうの『真理』を教え、救済しなければ、と感じる。
でも向こうからすると、われわれのほうこそ、邪神を信奉する未開の民なのかもしれない。われわれこそが、救済されるべき存在かもしれない。違いますか?」
哲人「無論、そのとおりでしょう。」
青年「では、お聞かせください。いったいアドラーの哲学は、宗教となにが違うのです?」
哲人 「宗教も哲学も、そして科学も、出発点は同じです。
わたしたちはどこからきたのか。わたしたちはどこにいるのか、そしてわたしたちはどう生きればいいのか。
これらの問いから出発したものが、宗教であり、哲学であり、科学です。
古代ギリシアにおいては哲学と科学の区分はなく、科学(science)の語源であるラテン語の『scientia』は、単に『知識』という意味でしかありません。」
青年「まあ、当時の科学なんてそんなものでしょう。でも問題は、哲学と宗教です。いったい、哲学と宗教はなにが違うのです?」
哲人「その前に、両者の共通点を明らかにしておいたほうがいいでしょう。
客観的な事実認定にとどまる科学と違って、哲学や宗教では、人間にとっての『真』、『善』、『美』までを取り扱う。ここは非常に大きなポイントです。
青年「わかります。人間の『心』にまで踏み込んでいくのが哲学であり、宗教である、と。それで両者の相違点、境界線はどこにあるのです?やはり『神がいるのか、いないのか』というその一点ですか?」
哲人「いえ、最大の相違点は『物語』の有無でしょう。
宗教は物語によって世界を説明する。言うなれば神は、世界を説明する大きな物語の主人公です。
それに対して哲学は、物語を退ける。主人公のいない、抽象の概念によって世界を説明しようとする。」
青年「……哲学は物語を退ける?」
哲人「あるいは、こんなふうに考えてください。真理の探究のため、われわれは暗闇に伸びる長い竿の上を歩いている。
常識を疑い、自問と自答をくり返し、どこまで続くかわからない竿の上を、ひたすら歩いている。
するとときおり、暗闇の中から内なる声が聞こえてくる。『これ以上先に進んでもなにもない。ここが真理だ』と。」
青年「ほう。」
哲人「そしてある人は、内なる声に従って歩むことをやめてしまう。竿から飛び降りてしまう。
そこに真理があるのか?わたしにはわかりません。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
ただ歩みを止めて竿の途中で飛び降りることを、わたしは『宗教』と呼びます。哲学とは永遠に歩き続けることなのです。そこに神がいるかどうかは、関係ありません。」
青年「では、永遠に歩き続ける哲学に、答えはないのですか?」
哲人「哲学(philosophy)の語源であるギリシア語の『philosophia』は、『知を愛する』という意味を持ちます。
つまり哲学とは『愛知学』であり、哲学者とは『愛知者』なのです。
逆に言うと、すべての知を知り尽くし、完全なる『知者』になってしまったら、その人はもやは愛知者(哲学者)ではありません。
近代哲学の巨人カントは、『われわれは哲学を学ぶことはできない。哲学することを学べるだけである』と語っています。
青年「哲学すること?」
哲人「ええ。哲学は学問というよりも、生きる『態度』なのです。
おそらく宗教は、神の名の下に『すべて』を語るでしょう。全知全能の神と、その神から託された教えを語るでしょう。これは哲学と、本質的に相容れない考え方です。
そして、もしも『自分はすべて知っている』と称する者、知ることや考えることの歩みを止めてしまった者がいるとしたら、
その人は神の実在や不在、また信仰の有無にかかわらず、『宗教』に足を踏み入れている。わたしはそう考えます。
青年「つまり、先生はまだ『答え』を知らないのですね?」
哲人「知りません。われわれは、その対象について『知っている』と思った瞬間、それ以上を求めようとしなくなります。
わたしはいつまでも自分を考え、他者を考え、世界を考え続けます。ゆえにわたしは永遠に『知らない』のです。
(引用、ここまで)
この文章を読んで私は衝撃を受けました。
糖質制限を否定し、一向に進歩の見られないカロリー理論を信奉し歩みを止めている医者は科学者かもしれませんが、哲学者とはなりえない。
一方で冒頭に紹介したいつまでも謙虚に学び続ける漢方医の先生は少なくとも哲学者であり続けています。
どちらの姿勢が人間を扱う医師として適しているかは自明の理ではないでしょうか。
私も哲学者でありたいと心から思います。
たがしゅう
Author:たがしゅう
本名:田頭秀悟(たがしら しゅうご)
オンライン診療医です。
漢方好きでもともとは脳神経内科が専門です。
今は何でも診る医者として活動しています。
糖質制限で10か月で30㎏の減量に成功しました。
糖質制限を通じて世界の見え方が変わりました。
今「自分で考える力」が強く求められています。
私にできることを少しずつでも進めていきたいと思います。
※当ブログ内で紹介する症例は事実を元にしたフィクションです。
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コメント
銀河鉄道の夜
昔、習ったことには、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」には、「本当に勉強すれば信仰も科学と同じようになる」という一文が入っていたのだそうです。それは、のちの稿で省かれたのだそうです。
賢治さんも同じような気持ちだったのかと思いました。
No title
いつも俯瞰で論理的な考察とてもわかりやすく、勉強になります。
そこで、質問というか相談なのですが、自分は甲状腺機能亢進症です。バセドウ病ともいうらしいですが、、、
物心ついた時より以上な発汗、動悸が当たり前でした。
人並みに、もしかしたらそれ以上に食欲はあり、運動もし活発な学生時代を送っていましたが、とにかくガリガリで全く太れません。女性からもひ弱に見られることもあり緊張による異常な心拍数や発汗に悩み続けてきました。
社会人になったいま男として自分の症状が非常に辛いです。
糖質制限と断続的な絶食をすることは自分の病気の根治に繋がると希望を持ってもいのでしょうか。
何かアドバイスいただけたら幸いです。
No title
No title
今後どのような注意が必要でしょうか。
Re: 銀河鉄道の夜
コメント頂き有難うございます。
形は違えど、人が様々な立場で「人間とは何か」について模索し悩み抜いている証なのかもしれませんね。
Re: No title
コメント頂き有難うございます。
バセドウ病のような自己免疫疾患にも炎症や酸化ストレスの関与がありますので、
抗炎症作用や酸化ストレス軽減に役に立つ糖質制限や間欠的断食が有益である可能性はあると思います。
ただし現在の甲状腺ホルモン過剰状態に糖質制限が直ちに適応できるわけではありませんので、そこは即効性を期待できる西洋薬の助けも必要な状況ではないかと思います。
食べても食べてもやせてしまったり、動悸や発汗が強い場合はまだ甲状腺ホルモン過剰が疑われます。抗甲状腺薬が足りない可能性がありますので、主治医の先生と投薬調整について御相談下さい。
イメージとしては火が残る焼け野原に対してとりあえず消火器(西洋薬)で対処しつつ、消火された土地は徐々に耕していく(糖質制限、断食)ような感じで基盤を整えていくのがよいのではないかと個人的には思います。
No title
希望が見えてきた気分です。
絶食療法を唱える菅野医師が甲状腺病は断食で治ると他の著書にコメントが載ってるのみたこともあり、続けてみようと思います
ブログ、というか先生を応援しています。
お身体に気をつけて頑張ってください
HPVワクチン問題提訴へ
場違い失礼いたします。
少女たちの声を聴いて下さい。
ttps://m.facebook.com/story.php?story_fbid=963858980376112&id=100002560575249
環舞さんというFBから拝借しました。
Re: HPVワクチン問題提訴へ
情報を頂き有難うございます。
No title
「科学」「宗教」「哲学」について、
深く考えたことはありませんでした。
なるほど、納得いきました。
とても深いですね。
永遠の旅人「哲学者」、
私もそうありたいと思いました。
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